表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/294

INTERMISSION10 それは花開くような

 城下町ならぬ邸宅下町は、確かにマイノンさんが言うとおり活気づいていた。

 さほど高層建築物こそないものの、人々が行き交い金を使い、経済が循環している。


「マリアンヌさん、こっちこっち!」

「え、ええ。今行きますわ」


 その中で、わたくしはマイノンさんに先導される形で、あちこちの冷やかしに付き合わされていた。

 手を引っ張られたりしてるわけじゃないけど、目を離すには危なっかしい少女だ。兄妹ということなら、わたくしたちとさほど変わりない年齢に思えるのだが……


「これは……何でしょうか。置物……?」

「ふふっ、面白いでしょう? すぐ傍の鉱山で採れた金属を加工しているのよ!」


 確かに色々あって面白い。

 面白いが……店員はこちらを一瞥もしない。大丈夫かこの店。


「向こうには自然公園があるわ!」

「分かりました。分かりましたから余り先へ進みすぎないでくださいな」


 油断するとすぐ遠くなる背中を必死に追う。

 町民たちの間をすり抜ける。舐めるな、新宿駅に比べりゃマシだ!


「あ、あいつなんであんなスイスイ進めるんだよ……! この人混みの中を!」

「流石だマリアンヌ、なんだかんだで姉属性も持ち合わせているとは……!」

「もみくちゃにされておかしくなっちまったのかロイ!?」


 男二人は置き去りになっていた。

 ついでにアズトゥルパさんは屋敷に残っている。



【このイベント大体どれくらいで終わりますの……?】



 さすがに呼びつけられて上位存在と戦えと言われて妹の面倒を見てる現状、ちょっと飽き飽きしてきた。

 いくらなんでも計画性がないというか、提示された目的に対して過程が雑すぎるんだよ。



〇red moon ん~……サブクエとしての空気は原作ママだな

〇第三の性別 だけど上位存在なんて全然知らないというかなんというか

〇火星 リーンラード家、原作ではサブクエ一つに絡んで、他に出てくるとしたら追加DLCなんだよな



【追加DLC!?

 追加DLCあるんですかこの乙女ゲー!?

 追加DLCある乙女ゲーってそもそも何!?!?】



 流石にビビリ倒してしまった。

 えぇ……超大作じゃん。まさかとは思うがDLCでルート分岐してトゥルー到達したりしないよな?


「ほらマリアンヌさん、こっちよ」

「あ、はい」


 手招きされるまま、わたくしは彼女を追って市街地を抜け自然公園にたどり着いた。

 他に人気のないそこで、二人で木陰に座り込む。

 白いワンピースを着た彼女は、汗で前髪を額に張り付かせながらも朗らかに笑っていた。


「ねえ、お兄様には秘密よ? マイノン、クッキーを持ってきたの」

「クッキーですか?」

「ええ。大好きなの!」

「なるほど。いいですわよねクッキー」


 言われてみれば片手に手提げ袋を持っていたな。

 彼女がそこから取り出したのは、随分と古めかしいクッキーのカンカン箱だった。

 いや……ほこり被ってんですけど。


「あら? あらあら? 食べてくださらないの?」

「ええとですね、少々お腹いっぱいと言いますか……」

「もしかして。苦手で食べられないのかしら?」

「はあ!? 食べられますが!?」


 わたくしはカンカン箱を開けると、ほこりっぽい臭いのするクッキーを引っ張り出して猛然とかきこんだ。

 う~ん湿気てる!


「マリアンヌさん、面白いわ!」

「これわざとやってるわけではありませんわよね……?」


 嫌がらせとしてはかなり精度が高いな。

 しかし彼女はハッと顔を逸らすと、公園の片隅に咲いている白い花の一群を指さした。


「見て見て! お花よ! この季節に咲くなんて珍しいわ!」

「まあ。夏でも綺麗に咲く品種のようですわね」


 前世で言うシロツメクサに近い見た目だ。

 マイノンさんは花々に駆け寄ると、しゃがみこんでしげしげと眺め始めた。

 余り木陰から出るのは気が乗らないが、渋々わたくしも彼女の元に歩いて行く。


「お花も好きですか?」

「ええ、好きよ! 可愛らしいもの!」


 クッキーといい花といい、好きなものの多い子だな。

 わたくしは白花をそそくさと摘むと、その場で花冠を編む。昔取った杵柄ってやつだな。


「わあ……器用なのね」

「これぐらい容易いですわよ。ほら」


 完成した花冠を彼女の頭に乗せる。

 同年代ぐらい、だと思ってたんだけど……見た目もそうだが、精神的にも彼女は幼く感じる。

 なんとなく、庇護欲をそそられるというか。



〇火星 お姉ちゃん要素助かる



 よせよ恥ずかしいだろ。


「マリアンヌさん、ありがとうなのだわ! せっかくだし、お兄様の分もつくってくださらない?」

「えっ……えぇ……? お兄さん、似合わないのでは……」

「あら残念……作れないのかしら?」

「作れますがァ!? ……ハッ!」


 気づけば絶叫して超高速で花冠を作っていた。

 嘘だろまた乗せられたのか……!?


「いいわね、こうして沢山、キレイなものを作れるって。きっと私も作れたら楽しいわ!」

「……やれやれ」


 手元の花冠を、わたくしは自分の頭に乗せた。


「簡単ですわよ。花も沢山在りますし、作り方を教えて差し上げましょう」


 告げると、彼女は目を丸くする。


「いいの?」

「ええ、もちろん」

「やったわ! ありがとうマリアンヌさん!」


 はしゃぐ彼女を見て。

 なんとなく……分かった気がする。

 彼女は、当たり前の善性を持っていて、当たり前に平和を愛せる人だ。

 その喜びを、ストレートに表に出せる子だ。


 いい子だな、と思った。

 優しい子、誰もがいつの間にか失ってしまう優しさを、当たり前に持てている子だ。




お読みくださりありがとうございます。

よろしければブックマーク等お願いします。

また、もし面白かったら下にスクロールしたところにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価を入れてくださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] この娘、本当は精霊じゃなくて?
[一言] 乙女ゲーだと続編っていう形が多い気がするけど、まぁ、これはグランド・セフト・オトメだからね。追加DLCくらいあってもおかしくないよね。
[気になる点] 追加DLC……それにRTAが早くなるやつ入ってません? [一言] 煽り耐性の低さを利用したマリアンヌ抑制術……こやつ、心得ている!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ