INTERMISSION9 資格を持つ者
リーンラード家の研究室にて。
わたくしはユートとロイの前に進み出た形で、兄妹と相対していた。
「お話は分かりました……ですが、いくつか質問がありますがよろしくて?」
「もちろん構いません。ご協力いただけるのなら、我々に支援できる限りのことはしましょう」
アズトゥルパさんが頷くのを見て、わたくしは問いを発した。
「何故わたくしを選んだのですか?」
あっうわっこれ言ってからなんだけど就活面接っぽくてすげー嫌なセリフだな。どうして弊社を選んだのかってお前が募集かけてたからに決まってんだろタコ。記憶喪失か?
「それはもちろん、精霊の声が貴女を呼んだからです」
迷いなく、アズトゥルパさんは言い切った。
「精霊、ですか」
「はい。恐らくラインハルト陛下からお聞きしているでしょう」
────精霊。
わたくしも直接見たことはないが、いわば上位存在とは別種の、人知を超えた生命体である……らしい。
前世でいうところのUFOと言うべきか。存在は確実には証明されておらず『広大な宇宙には地球外生命体がいて当然、その地球外生命体が地球を視察に来ているのは不自然ではない』といった推測の域を超えないレベルだ。
要するにはいるんだかいないんだか知らねえけど、いるって言ってる人はやたらいることに固執してるし、いねえだろって人はいるって言ってる人をクソバカにしてる感じだ。いや言葉がすげえややこしいな。
まあ、つまり、前世でいうところのUFOだ。
精霊の声に導かれた結果、わたくしを選んだということだろうか。
フフン。見る目のあるやつがいたもんだな。
「ならば仕方ありませんわね。わたくしはこの世界で最も選ばれし者!」
わたくしは右手で天空……ではなく天井を指さして叫ぶ。
その様子に、アズトゥルパさんは静かに頷いた。
「それでこそです。世界で最も、という点は私には担保できませんが、あなたが選ばれし者だということには疑いの余地はない」
「……あ、ありがとうございます」
んんんんなんか調子狂うなこれ!
やがてなんとか平静さを取り戻した様子で、ロイとユートも話に加わってきた。
「あー……まだ俺たちは引き受けるか決めてねえからな。不確定要素が多すぎる」
「そもそもどうしてです? 何故上位存在が5体も出現するんです? 僕たちだけで対応しなければならないのは何故です?」
チッ。こいつら本当に冷静だな。
「我々リーンラード家での研究……それは、上位存在に対抗するため、上位存在に類する存在を生み出すことでした。しかしその研究は、途中で方向を歪められた」
アズトゥルパさんはそこで言葉を切って、数瞬の間を置いた。
「家を乗っ取られました。先日制圧された、我が国の神殿……巫女を討伐することには成功しましたが、その残党は一部が逃げおおせました」
「な……ッ!?」
ユートが驚愕の声を上げる。わたくしとロイも揃って言葉を失った。
特級選抜試合において、ハインツァラトス王国の神殿に、何者かが潜り込み、王族への情報・精神操作を行っていたのは知っている。そして選抜試合の際にそれは解かれ、無事国王の手によって神殿は鎮圧された。
口ぶりからして発端は脚本家の少年、そして彼に知識を与えていたファフニールだった。
つまり──
「あの大邪竜が遺した残党、ってことか……」
「冗談じゃねえ! まさしく国軍を動かす事態だろうが!」
王子として看過できないのだろう。
声を荒げて、ユートは今にもアズトゥルパさんにつかみかからんとする勢いだった。
わたくしは手を挙げて彼を制止する。
「マリアンヌ……!?」
「順当に考えればそうでしょう。ですが彼は、わざわざ国王を介してわたくしたちにコンタクトを取ってきた。何か理由があると考えるのが自然です」
状況説明が進み、段々と思考が回ってきた。
わざわざプロではなく学生を呼びつけたのは……恐らく単純な質の問題だけではない。
「ピースラウンドさんのおっしゃる通りです」
「察するに、数を用意すると不利になるのでしょう。上位存在は独自の法則性を持っています。5体いるのなら、対軍勢処理に特化した個体がいてもおかしくはありません」
アズトゥルパさんは目を丸くした。
「……そこまでおわかりとは、驚きました」
「単純な戦力予測です。それで具体的には?」
「はい。顕現予定の上位存在の中の1体、『暗中蠢虫』は、人間の恐怖を糧に強くなります。つまり人数が多ければ多いほど、対応は難しくなる」
「少数部隊の派遣はできませんか」
「上位存在へ対抗する上では、単なる強さは重要ではありません。問題は存在の格です。いかに精鋭揃いであろうとも、同じ土俵に立てなければやつらの餌になるだけでしょう」
……筋は通ってるな。
仮にハインツァラトス王国の戦力に、わたくしより強いやつがいたとして(まあいないと思うしいてもぶっ倒すが)、そいつが対人戦でわたくしに勝てても上位存在相手に餌になってちゃ意味がない。
ならば、既に上位存在を打倒した経験がある、即ち確実に相手の法則性を破れるわたくしたちを呼ぶのは自然だ。
「詳しいお話は、お三方とも引き受けてくださる場合にまたお話しします。本日はお休みくださって構いません」
「……分かりましたわ」
わたくしとしてはそれなりに乗り気というか、勢いでOKしたけど腕試しとしてはちょうどいいかもなぐらいに落ち着いてきた。
しかしロイとユートの顔色は優れない。当然か。
「この話、わたくし一人というのは……」
「話は終わったかしら? ねえお客様方、町に行きましょう!」
どうやらずっと暇していたらしい、マイノンさんが凄まじい速度でインターセプトしてきた。
わたくしの周りをぴょんぴょこ跳ねながら、彼女は窓の外を指さす。
「このあたりはリーンラード家が土地の権利を持っているのだけれど、お兄様のおかげで町が栄えているのよ! 是非見て欲しいわ!」
「こら、マイノン……」
アズトゥルパさんが困ったような顔をしている。
堅物兄を振り回す妹って感じか。Twitterでバズりそうな組み合わせだな。そうか? 後輩にした方がいいかもしれん。
わたくしが男女漫画で一山当てる方法を模索している内に、マイノンさんの跳ね方がいよいよ激しくなってきた。
「ねえねえ、聞いてるかしら?」
「えっ、ああすみません。ちょっとオンラインサロンを開く準備をしていました」
「……お、おんらいんさろん?」
「気にしないでくれ。こいつ時々意識が異世界に飛ぶんだ」
意識だけじゃ済まなかったからここにいるんだけどな。
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