INTERMISSION5 とりにてぃがーるず!
謎の対抗心を元に、止める間もなく、ユイさんはするすると上着とスカートを脱いで、礼服用のブラウスと下着だけ身に纏った格好となってしまった。
「ちょっ……いや、あんた張り合わなくていいから」
「だってさっきからマリアンヌさん、リンディさんのことずっとガン見してるんですよ!? 視線はずらしていても意識が常に太ももに向けられています! 私の目を誤魔化せると思わないでください!」
ばらすな。
ユイさん(彼シャツ状態)の発言を受けて、リンディ(彼シャツ状態)がさっと顔を赤くする。
「へ、ヘンタイ! こっち見んな!」
「ふっ……感謝いたしますわ。ありがとうございます!」
「何にお礼言ってんのあんた……!?」
萌え袖状態の両手で必死にワイシャツのすそを引っ張って肌を隠そうとしているそのポーズに対してお礼を言っているんだよ。
「ど、どうですかマリアンヌさん! 私も同じ格好ですよ!」
と、その時視線の先に割って入ったユイさん(彼シャツ状態)がくるりと一回転。
流れるようにハイキックを放ち、シャドーでいくつかのコンビネーションを放った。
「……あんた、なんで格闘術披露してんの? パンツもろ見えたんだけど」
「…………!!」
多分回転動作から身体が慣れ親しんだ殺人技術に勝手に移行したんだろうな。
真っ白な下着が眩しかった。ユイさん(彼シャツ状態)は額のてっぺんまで真っ赤にすると、その場にしゃがみこんだ。
「きゅっ、きゅうぅ…………!」
何今の。カピバラの鳴き声か?
顔を膝に埋めてぷるぷる震え始めたユイさん(彼シャツ状態)に、リンディ(彼シャツ状態)がそっと歩み寄る。
「まあ気にしなくていいわよ。白似合ってたわ」
「そういうもんだいじゃありません~~~~……!」
「うん、まあ、そうなんだけど」
彼シャツ状態の美少女が彼シャツ状態の美少女の肩を叩いて慰めている。
その光景を眺めていると──紅茶がめっちゃおいしかった。美少女は、最高だな!
〇第三の性別 映像切りやがったなお前!おい!何が起きてたんだよ!
〇太郎 この野郎……!配信者としての矜持がねえのかよ!
〇宇宙の起源 パンツ見せろ!パンツ見せろ!見せてください!この通りです!靴舐めます!
〇火星 いや待て……音だけ残ってるんだよな……そういう戦術か?
〇日本代表 キモ……
当然ながらコメント欄の連中におすそ分けする義理なんてないので映像はカット。音声だけでお楽しみくださいって言おうと思ったらもう楽しんでる奴いた。怖……
配信画面から視線を切り、ふう、と息を吐く。
それからわたくしは鼻元を指で擦った。鼻腔からあふれてきた鮮血が指にべっとりついていた。
「うわっ……あいつ鼻血だらっだらじゃない……ほ、ほらユイ! マリアンヌがあんたで興奮したってことよ! これを良しとするなら友人としてそれなりに厳しいけど、でもあんた的には嬉しいでしょ!?」
「……どうせリンディさんの太ももですよ……」
「それはそれで極めて厳しいわね」
にしてもこう、あれだな。
二人は彼シャツ状態で、わたくしは一応私服(鼻血だらけ)。
普通に美少女を鑑賞して楽しくなるつもりだったが、明らかに差がついている。
「好き勝手やってくれるじゃありませんか」
静かな怒りを込めて、わたくしは低い声を発した。
その様子に二人ははっと動きを止める。
「す、すみません。はしゃぎすぎましたよね……」
ユイさんが顔を上げて申し訳なさそうに言う。
違うんだよ。わたくしだって美少女なんだ。なのに一人だけ、こんなスケベキャラの絵面でいいはずがない。
わたくしは椅子から立ち上がると、来客を迎えるために着ていた、お嬢様然とした私服に手をかけた。
「負けるわけにはいきません────!」
「は?」
バサアッ! とマントのように上着とスカートを脱ぎ捨てる。
両足を肩幅に開き、右手で天空……ではなく天井を指さす。
「露出に関してもわたくしは天下無双、古今最強! とくと御覧じなさい! このマリアンヌ・ピースラウンドの彼シャツ状態(血まみれ)こそが頂点であると思い知り、そして負けて死になさいッ!」
「死んでるのはあんたの脳細胞よ」
リンディの視線はマジで冷たかった。
「…………」
すっとユイさんを見る。
ユイさんの視線はマジでギラついていた。
〇適切な蟻地獄 脱ぎバトルやめろ
〇日本代表 お色気スポーツ漫画かよ
〇外から来ました 一生プールの上で尻相撲してろ
競泳水着を着たら婚約者がすっ飛んできそうで嫌なんだよな……
感想返信ができておらず申し訳ないです。後ほど改めて返信いたします…!




