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INTERMISSION4 ぱじゃまぱーてぃー!

 ずぶぬれになったリンディを回収して、わたくしはとりあえず彼女をシャワールームへ叩き込んだ。

 馬車を引いていた馬は、雨でぬかるんだ地面に足を取られていたらしい。彼女の家の馬は、ひとまずはわたくしのヴァリアントと魔法による浮遊補助で屋敷まで運び、明日の朝一番に獣医へ見せる手はずとなっている。

 馬の怪我って前世だと結構致命傷になりがちなイメージだったが、こっちの世界だとそうでもないのだ。妙なとこでは現代社会を超えてるから困るんだよなこのファンタジー世界。


「一緒に乗ってた御者さんは大丈夫でしたか?」


 リンディ用の着替えを適当に見繕っていると、後ろからユイさんが声をかけてきた。

 うーん……なんと言ったものか。


「大丈夫、だとは思いますわ」

「……?」


 歯切れの悪い返答をしてしまった。

 振り向くと、ユイさんは訝しげな表情をしている。


「大丈夫だと思うって……屋敷に入れてあげないんですか?」

「固辞されましたわ。それに、馬車をひとまず倉庫に誘導した後、御者の方はリンディをお願いする、とだけ言って……寝てしまいました」


 まあ、とユイさんは目を丸くした。

 そりゃ馬車で寝たって聞いたらびっくりするわな。


「そんなに疲れてたんですね……なおさら寝床を貸した方がいい気もしますけど、断られたんですよね? それなら仕方ないかもしれません」

「……そうですわね」


 詳細は、まあ伝えてもいいし伝えなくてもいいだろう。

 あのハートセチュア家お抱えの御者は馬車の中で、スイッチが切れるみたいにして、一瞬で意識を落とした。

 訓練を受けた兵士でもあんな寝方はできない。おいおいのび太君かよと思ったが、何の理由もなくのび太君みたいなことをやれるはずがない。


 ハートセチュア家、か。

 確かな胸騒ぎを覚えつつも、わたくしは棚から引っ張り出した着替えを抱え、シャワールームへと歩き出した。






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【百合咲き誇る】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【パジャマの園】

『2,298,456 柱が視聴中』


【配信中です】


〇苦行むり    ぱじゃまぱーてぃーの話の時間だ!

〇TSに一家言   キタキタキタキタキタ!

〇宇宙の起源   野郎ども!録画の準備はできたか!

〇ミート便器   この瞬間を待っていたんだよな

〇トンボハンター 百合勢多くない?

〇適切な蟻地獄  なんだかんだ全員美少女だからな

〇red moon    チンパン戦闘マシーンオカンの三段構えか

〇木の根     頼むから普通に百合百合してくれ

〇みろっく    本当にみんな顔はいいな……

〇外から来ました なお中身

〇日本代表    今日ぐらいはゆっくりできそうだな

〇無敵      フラグ乙

〇日本代表    フラグじゃねーし!ガチだし!もうベッド入ったから!

〇無敵      そのベッド、消えるよ

────────────────────────────────────────






「ふー、ありがとね。助かったわ」

「いえいえ、お気になさらず」


 普段わたくしが寝ている寝室にて。

 窓際の小さなテーブルを挟み、向かい合う形でユイさんとくつろいでいると、ドアを開けてリンディが入ってきた。

 濡れそぼった髪をタオルで拭きながら、彼女は部屋を見渡す。


「前に来たのはだいぶん前よね。本棚いくつ増えてるのよこれ。書斎使えばいいのに」

「書斎はお父様の書物でパンパンですわ。別の部屋を書斎にするのも考えましたが、なんというか生活空間を一つにまとめたかったというか……」

「ふうん? あんたそういうとこ結構庶民寄りの感覚よね。空間が広いと持て余してもったいないってよく言ってるし」


 ぎくっと肩が跳ねた。中身を見透かされている……!


「ま、まあ個人の好みでしょう。部屋にものが多いと不安ですか? 地震が起きても倒れないようしっかり固定していますわよ」

「ああ、固定魔法? 便利よねー」

「いえ。レーベルバイト家が作った『転倒防止! ふんばりくん』を差し込んでいますわ」

「何??」


 フフン。何を隠そうこれは魔法が使えない庶民向けに、わたくしがアイディアを持ち込んで生産してもらった商品だ。

 前世の日本のような地震大国ってわけではないが、備えがあるに越したことはない。意外とプチヒットしたらしく、それなりの分け前をもらったぜ。



〇火星 知らんうちに前世知識無双してるぞこの女!?



 舐めるな。わたくし、隙あらば無双していくからな。

 本棚の底部と天井接触部に取り付けられたストッパーを眺め、リンディは感心したような声を上げる。

 服装がワイシャツだけなので、ちらちらライムグリーンの下着が見えていた。ユイさんはそれに気づき、そっと顔をわたくしに向けた。


「あの……マリアンヌさんが、用意した服ですよね……?」

「? 何か?」


 何か言いたげにしている次期聖女だが、何の問題があるんだ。

 おん? 何か文句があるのか? オォン!?


「うわー、知らない本がたくさんね……あっ、デザイン衣装のカタログがしれっとあるのね……」


 リンディは本棚の片隅から薄いカタログを抜き取ると、勝手知ったる他人の家といった様子でベッドに腰掛けた。

 なまめかしい生足を優雅に組んで、鼻歌交じりにカタログを開く。


「──ってそうじゃなくってェ!! 何よこの服装!?」

「お似合いですわよ」


 見事なノリツッコミありがとう。

 彼シャツ状態のリンディを眺めながら、わたくしは優雅に紅茶を啜った。

 対面ではユイさんはちょっと気まずそうに視線をあちこちへ回している。

 ちなみにあのワイシャツはわたくしが一人で美少女彼シャツごっこをするために特注で作らせたものだ。暇なときにあれだけ着て姿見の前でしばらくポーズ取ったりしてた。


「あ、ああいうの好きなんですか……?」

「大好きですわね」


 迷いなく断言した。

 ユイさんは目を左右に泳がせた後、意を決した様子で礼服に手をかける。


「ぬ、脱ぎます……!」

「何で!?」


 さすがに絶叫した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 知識無双するならRTAでも無双してくださいます?
[良い点] チンパン戦闘マシーンオカンの三段構え [気になる点] なんで普通(当社比)に百合百合してるの? [一言] あ、以前は「原作」の返事ありがとうございました。 って事はハーメルンで見てこっち…
[一言] この女知識チートとかできたんだな…
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