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INTERMISSION2 てぃーたいむ!

 起床!

 カーテンをしゃーっと開けて、朝日を全身に浴びうんと伸びをする。

 夏休み二日目。最高の目覚めだった。


「めておーで、ぱんけーき、つくる~♪ ぱんけーきに、めておのせる~♪」


 鼻歌交じりに、というか美声で実際に歌いながら、わたくしは身だしなみをささっと整えると寝巻から部屋着に着替えた。


「めておーの、ぱんけーきになる♪ めてお~ぱんけ~~き♪」


 寝室を出て廊下に出る。

 窓が大体ぶち割れていた。


「…………」


 わたくしは真顔になった。

 顔を横に向けて廊下の先を見る。

 戦闘の余波で壁のあちこちが砕け、破片が床に散らばっていた。


「…………あいつらをパンケーキにするべきでしたわね」


 ご機嫌な朝は終わった。

 あいつらのアジトを突き止めて根こそぎ全部破壊してやる……ッッ!








────────────────────────

【サイコーの】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【夏休み】

『1,568,449 柱が待機中』


【次の配信は一時間後を予定しています】


〇苦行むり    襲撃されてて草

〇TSに一家言   なんだこいつら…(ドン引き)

〇木の根     こんなイベントあったか?

〇日本代表    ねえよ!!!助けてくれ!!!!

〇宇宙の起源   可哀想

〇適切な蟻地獄  悔しいでしょうねえ

〇日本代表    ほんとむり、こいつら誰だよ

〇red moon    わかんね……誰……?

〇みろっく    いいじゃん謎の敵、盛り上がる

〇外から来ました 一理ある

〇日本代表    ないが

〇無敵      楽しめよ

〇日本代表    お前ちょっと開き直るのやめろ、臨海学校以降本当に態度ひどいぞ

〇無敵      フヒwサーセンw

────────────────────────







「なるほど。それで私を呼んだんですね」


 ピースラウンド邸、門をくぐり屋敷のドアを開けた先、大きな入口の広間。

 そこには教会の制服を着こんだ一団がいた。

 先頭に佇むは、やたらでかいカバンを抱え、礼服をしっかり着こなしたユイさんである。白を基調とした清潔な礼服がよく似合っている。小動物系の雰囲気を残しつつも、清楚な美少女に仕上がっていた。


「ええ。魔法使いの見地から十分に検証はしましたが、どうも感覚がつかめないと言いますか……端的に言えば、魔法の痕跡が残っていなかったのです」

「そういうことでしたら、教会の調査部を頼るのは理にかなっていますね」


 ユイさんが連れてきたのは、同様の礼服を着こんだ男女数名。

 スーツケース片手に、屋敷をきょろきょろ見渡したりせず礼儀正しく立っている。


「ただ、魔法使いの屋敷なので。少し居心地は悪いかもしれませんが……」

「大丈夫です。彼らは私や若手の聖職者が選抜した、魔法使いへの偏見のない次世代人材ですよ」

「……なんだかユイさん、派閥争いとか苦手そうな印象でしたけど、平然とこなしてますね……ま、まあいいでしょう。頼りにしてますわ」

「ありがとうございます」


 ふんわりと微笑みを浮かべたのは数秒。

 ユイさんはすっと仕事の顔になると、パンパンと手を叩いた。


「アルファ部隊は二階の戦闘区域へ。ブラボー部隊は一階で屋敷の内側を、チャーリー部隊は外に回って侵入経路を特定、それぞれ計測開始してください」

『了解』

「これ本当に調査隊ですか? 有事の際に動かす特殊部隊引っ張って来てませんか?」


 全員あり得ないぐらいキビキビと動き始めた。

 角曲がる前にクリアとか言ってんだけど、何? 戦闘が起きる前提で動いてない?


「それじゃあ、お茶でもしましょうか」

「あっ、アナタは別に参加しないんですのね……」

「大丈夫です。大体の計測結果は、リアルタイムで共有されますから」


 ユイさんはトントンと自分のこめかみを指で叩く。

 普通にドン引きした。教会の方ってどういうメカニズムなんだよこれ。そのへんの魔法より断然進歩してないかこれ。


「そ……そうですか……で、ではこちらにどうぞ」


 とりあえず彼女を一階の客間へ案内する。

 ソファーに座ってもらい、わたくしはカチャカチャとお茶の準備を始めた。


「ここって防音ですか?」

「ん……一応、盗聴防止結界は張ってありますわよ」

「助かります。今回私たちを呼んだのって、そういうことですよね?」


 えっ何が?

 特に意図とかなく『そういや知り合いに教会で偉いやつおったな……せや!』ぐらいのノリだった。


「仰々しい部隊を連れてきてしまって申し訳ないです。ですが、今回の協力は、教会の保守派へ大きな圧力を与えられると思っています」

「はあ……ん?」


 あれ? もしかしてこの女、わたくしをダシにして政治してないか?


「ジークフリートさんたちは御前試合の後、聖女リインから授かった擬似的な加護を解除され、改めて教皇様から加護を授かっています。ですがどうやら……教皇様の加護は、年々弱まっているようなのです」

「えっそうなんですか」


 ティーカップとソーサーをテーブルに置きながら、わたくしは面食らった。

 何それ初耳なんだけど。


「経年劣化でしょうか? 家電みたいですわね」

「か、カデン……? ええと、まあそれはよく分かりませんけど。経年劣化っていうのは合ってます。歴代教皇の交代も、やはり与えられる加護が弱まり、対照的に次代の人間が、与えられる加護が強力になっていったからです」

「へぇ……もしかしてユイさん、アナタ」

「ええ。もたらす加護が日に日に強くなっているのを感じます」


 これ以上強くなってどうするんだろうこの人。

 加護システムとは、初代勇者……即ち、建国の英雄が完成させた、1兵卒であろうとも戦局を激変させる英雄へ仕立てる特殊なバフだ。王国の保有戦力が、数の割には戦争で全然負ける気がしないのは、この加護を受けた騎士と魔法使いの二段構えを取っているところが大きい。

 その片方が弱くなっているとなると、それなりに深刻な問題だな。

 蒸らした紅茶を注ぐと、彼女は小さく頭を下げてからカップを手に取った。


「難しいことは分かりませんが、その交代劇が通例だったというのなら時期が迫っているということでしょう。ああなるほど。わたくし(魔法使い)と仲が良いのは、『自分がトップになったら方向性はこっちだぞ』とあらかじめて示しているわけですね」

「はい。もちろんそれだけではありませんが……マリアンヌさんとのお付き合いには、これから先は政治的な意図も含まれると思います。パーティーなんかで顔を合わせたときはよろしくお願いします」


 ユイさんの表情は固い。

 知らない間に、いつの間にか、すげー成長してる。

 背負うべきものを理解して、成し遂げるべきものを見据えて、自分にできることを計算している。


「……それ、わたくしに直接言わない方がいいのでは?」

「……自己満足です」


 そうですか、と相槌を打つ。

 しばらくの沈黙が流れた。


「……結果が出ました」


 不意にユイさんが声を上げた。

 気配を探れば、調査員は入口の広間に再集合している。


「おそらくはマリアンヌさんの推測通りだと思います」

「と、言いますと?」

「この反応は確かに、魔法使いの皆さんが使う術式とは異なります。しかし……どちらかといえばですけど……性質は我々教会式の加護と似ていますね」

「…………そうですか」


 となると【七聖使(ウルスラグナ)】って連中の使う術式は王国の加護システム寄りなわけだ。

 そもそもわたくし、加護システムの根幹とかは知らないんだよな……建国の英雄が完成させたシステムだから──


 ああ。

 これあれか?

 原作とかなりかけ離れていようとも、この世界はゲームだ。

 なら、因果関係は、異様にきれいに収束する。伏線が回収され、構造はまとまる。

 そのことを念頭に置いてメタ読みすると。



 初代勇者って、もしかして【七聖使】だったのか?




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流星でパンケーキ……? ……いや、パンケーキが流星であってもなにもおかしくはないな!❨流星脳 [一言] マリアンヌのIQが戦闘外で高いのは解釈違い。
[一言] その異常な考察力をなんでRTAにうんぬん定期
[良い点] お前はいつもご機嫌な脳味噌だろ [一言] 戦闘時じゃないのにIQ100くらいに上がってる…!?
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