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PART52 天魔覆滅ゼロ・オーバー(後編)

 マシンランナーの椅子を蹴って、わたくしは大空へ舞い戻った。

 真っ直ぐに混沌めがけて飛翔し、高度を調整。

 ちょうどジークフリートさんの隣にハードラインディングの形で、地面を削りながら着地した。


「マリアンヌ嬢!」

「突破します! やつはファフニールのコアを原料としていました! ただここに在るだけではありません、存在を固定するための座標がある! そこを叩けば崩せるはずです!」



〇第三の性別 お前その理解力をもうちょっとRTAに生かしてみない?

〇red moon 一生できなさそう



 そこは素直に褒めるだけでいいだろ! なんでけなしてくるんだよ!

 コメント欄を顔で威嚇していると、ジークフリートさんが得心したように頷く。


「なるほど理解した。そしてコアの座標は、ファフニールの気配を辿ればいいということか!」

「そういうことですわ!」


 互いに視線を交わし、同時に顔を前へ向けて踏み込んだ。

 全身に加護の力を滾らせたジークフリートさんと、大悪魔の力を纏ったわたくし。


七聖使(ウルスラグナ)と、禁呪保有者の共闘だと……!? 貴様たち、今自分が何をしているのか、隣に立っているのが何なのか分かっているのか!?』


 はあ!? 知らねーよバーカ!!


「少しばかり激しいナンバーですが、ついてこれますか!?」

「ダンスは不得手だが、剣を使っていいのならば話は別だ! 遅れは取らん!」

「流石ですわね!」


 無数の攻撃をかいくぐり、時には弾き。

 極光の嵐の中を猛進していく。


『……ッ。貴様ら、愚かな選択をしたな』

【──! マリアンヌ! 法則展開が来るぞ!】


 ブローチが一層光って危機を告げた。

 同時、隣のジークフリートさんが、がくんと膝をついた。


 え?


 ちょっ……え? 急にどうしたの?


 慌てて周囲を見渡す。ロイとユイさん、ユートまでもがその場に倒れ、目を見開いていた。

 そしてあろうことか、お父様でさえもが、ぐらりと身体を傾がせ、魔剣を支えになんとか立っている有様だった。

 何? 何? 何?


【やつの法則は抽象的なものだ。名付けるならば『破線・流転』といったところだが……】

『そうだ。既にこの一帯は、我の法則内にある。ここではあらゆる個体が我を失う──生存するのは一にして全のみ。全であり一でもある、この我だけだ』


 え? 何言ってるのか全然分からん。

 マジで吟遊は勘弁してくれって。


【やつの権能は、境界線を破るんだ。個の存在として成立するための防衛ラインをかき乱す。言葉としてはパッとイメージしにくいものの、効果は絶大な代物だぞ】


 確かに、お父様にすら効力を及ぼしているのと言うのは、驚愕に値する。

 ……それはそれとして。




「────で、わたくしには効いていないみたいなんですけども?」

『何で……?』

【分からん……】




 わたくしと作中ラスボスと作品外邪神は、揃って首を傾げる。

 なんかとりあえず曖昧に微笑んでおいた。


「いやほら……わたくし、自分で言うのもあれですが……ちょっとだけ我の強いタイプですから……」

『いやちょっとだけで法則に抗われても困るんだが』

【見てきた人間の中で最も我の強い女だからな。おれも鼻が高い】

『え、もしかして付き合ってんの?』

「そんなわけねえでしょうがあああああああああああ!! 断撃・悪役魔法少女令嬢ブラスタァァ──ッッ!!」

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』



 至近距離でブラスターを展開、即時発射!

 頭部を焼き払って、わたくしは怒り心頭のままに叫ぶ。


「わたくしは孤高にして唯一の存在! 夜空を切り裂く一筋の流星ッ!! 群れることなく、他者と混ざり合うなんてもっての他! わたくしの願いを叶えられるのはわたくしだけなのだから、アナタの法則なんて知りませんわ!!」


 真っ向から叫ぶ。

 混沌は損傷を回復しながらも、目玉をこちらに向けて呻いた。


『ふざけるな……マクラーレンの娘とはいえ、ここまでの力を有するはずがない!』

「ええ、わたくしが強いというだけではないでしょう。ただ……アナタ、大したことないですわね」

『────────────は?』


 うん。

 叫びながらなんとなく分かった。

 ルシファーの解説もあって理解出来た。これはおかしい状態なんだ。


「混沌、ってこれ、法則化させたら意味ないでしょう」

『何、を』

「もしかして自覚していらっしゃらない? でしたらなんと哀れでしょう! アナタ本当は、そういった法則をかき乱す存在でしょう?」


 これは本来、法則化しない権能のハズだ。

 それが世界の理という枠組みに押し込められてしまっている。

 本来の力なんて発揮できるはずがないのだ。


【知っているか、混沌(カオス)よ】


 その時、胸元のブローチがぴかぴか光った。


『ルシファー、貴様……!』

【聞け、混沌(カオス)


 ずんと、腹の底に重力を感じた。

 それだけの迫力、いや凄みのある声だった。思わずわたくしですら息を止めて、耳を澄ましてしまう。

 ルシファーはブローチの形でありながらも、圧倒的な存在感のままに語り始めた。




【おれは山田は市川が好きに違いないと思い、確証を持っているからこそ安心して読めた。だが違ったんだ……邦キチが部長に対して向ける感情が恋愛なのかどうなのか、おれには分からない。だがその不確定性が良いんだ。先の読めなさこそが、おれを昂ぶらせている……!】

『えっ…………キモ……』

【今だマリアンヌ!!】

アナタ本当にキモい(オーケーですわ)!!」




 経緯は最悪だが隙ができた!

 ブラスターを解除。

 わたくしは右手に全ての力を載せて、最高速度で飛び込む。


『しまッ』


 おっせえよバーカ。

 狙いは定まっている。

 膝をつきながらも、ジークフリートさんはずっと一点を見つめていた。わたくしに最後の道標を示してくれた。


 みんながつないでくれた。

 みんなが支えてくれた。


 だから、負けるわけにはいかねーんだよッ!!






「必殺・悪役魔法少女令嬢楽園追放パァァァァァ────ンチッッ!!」






 渾身の力で。

 右ストレートを、ただ真っ直ぐに撃ち込んだ。


『ぐ、ぅおおおおおおおおおおお!?』


 混沌の本体へと命中。

 身体を削りながら、真っ直ぐど真ん中を貫く最強の拳。


『貴様は……!? 貴様は、何だ!?』

「言ったでしょう! 悪役魔法少女令嬢であると!」


 魔法少女とは、誰かの願いを叶える存在。

 だがそれだけじゃない──


「魔法少女とは! 誰かの願いを叶える存在であり、誰かの願いを守る存在であり! そして、決して負けない存在!」


 だから!



「だから、人々の願いを食い物にする『神様』如きが! 魔法少女に勝てるわけないでしょうがッ!」



 火花が散る。視界を極光が灼く。


『こんな───こんなこと! あってたまるものか!』


 混沌の抵抗が僅かに、攻撃の進みを遅らせた。

 ルシファーの力が解けていく。クソ、リミットかよ。

 コンマ数秒でいい。あとコンマ数秒でコアを破壊できる!


 ほんの刹那──────────






 温かい感触が。

 優しい水の感触が右手を支えて。






 狙い過たず。

 バキン、と、存在そのものを破壊する音が響いた。











 雨雲が途切れる。

 夜が明ける。


 天へと続く光の梯子が、雲の切れ間へと伸びていた。

 長い、長い夜が、やっと終わった。


 人々が顔を上げる。

 音が消えていた。

 寄せては返す波の音。


 そして誰もが、自然と、一点を見た。

 舞い降りた神。神に値する存在。


 倒れ伏したその残骸の上で。


 天を指さして、少女が意気揚々を胸を張り、不敵な笑みを浮かべている。




「上位存在!? 滑稽至極! 神域存在!? ヘソでプールが沸きますわ! 存在の格ごときを誇って馬鹿馬鹿しい! 最後に立っていた者こそ勝者! 肩書きも地位も名誉も栄光も全ては勝利の後に立つもの! 故に言いましょう! アナタが下でッ!! わたくしが上ッ!! このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドの名を刻んで一人寂しく無為の常闇に還りなさいッッ!!」







「ヘソでプールを沸かせるのか、凄まじいスキルだな……」


 ジークフリートの感嘆するような声に、マリアンヌはさっと顔を逸らした。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 途切れることのない勢い、最高だと思います [気になる点] あくやくまほうしょうじょれいじょう [一言] 一瞬、頭痛が痛いみたいな誤用を思い浮かべたのですが、よく考えたら、悪役魔法少女は庶民…
[良い点] オーケーですわ、がルビになっちゃってるの好き このお嬢遠慮もクソも持ち合わせちゃいない [一言] 流星の力を以てすればへソプくらい余裕余裕
[一言] あのキモい発言も聞いてると思うんだけど、ルシファーの女さん息してる?大丈夫? 混沌(マリアンヌ)に混沌が効くわけないんだよね。わかるわかるー(白目)
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