PART48 冠絶戦闘/ラスト・ミッション(後編)
戦いはまだ続いている。
まだずっと続くだろう。
そしてきっと、終わりは来る。確実にどちらかが斃れる。
まっとうに考えるなら……ちょっとこれは、手出しできない。
一挙一動からして次元が違いすぎた。ノーモーション天変地異はダメだろ。あと雑魚敵が無限湧きなのも最悪。
神域と神域の激突。
そうとしか、言いようがなかった。
〇無敵 結局どうなってるんだよこれ
〇日本代表 @宇宙の起源 さっき思い出したって言ったよな。これどういう状況なのか説明してくれんか
ああそうだ。
なんか言ってたよなそいつ。
〇宇宙の起源 後で補足するけど。その男やその一派は、俺たちに感知されずに神域にアクセスして力を引き出す方法を確立してるんだ
〇日本代表 は? もう聞きたくなくなった
〇宇宙の起源 耐えろ
【せめてノートンぐらい加入しません?】
〇宇宙の起源 後でオススメを教えてくれ
〇宇宙の起源 ……それでまあ、マクラーレン・ピースラウンドは、俺の神域に無断でアクセスしてた。かつてはな。今はもうその権能を返上したらしいけど
視線の先では、お父様がまだ戦っている。
湧き上がる雑魚たち(いや雑魚じゃないんだけど)を片手間に処理しつつ、本体へ砲撃や斬撃を与えている。
〇宇宙の起源 で、俺の力を使って、あの混沌を倒そうとして……倒せなかった
〇宇宙の起源 その時のことだったんだよ
〇宇宙の起源 俺の神域に、資格なんてないのに、その場でマクラーレンのアクセス権を利用して直接押しかけて来やがった小娘がいたんだ
へえ。
すげえ野蛮なやつがいたもんだな。
〇宇宙の起源 その時はちょっと、確認した瞬間に、あっこれはなんとかしないとダメなのになんとかできるラインを越えちゃってるな、って分かってさ
〇宇宙の起源 ……そういう、契約だったんだ
〇宇宙の起源 困ってる神と、困ってる人間がいて
〇宇宙の起源 お互いの力が必要だった
〇宇宙の起源 だから全部終わったら、お互いに記憶を失うと契約した
〇宇宙の起源 そして一時的に権能を許可した
〇宇宙の起源 俺はさっき何かの拍子で思い出したんだけど。お嬢は多分、まだ覚えてないままだろ?
【え? ん?
…………え、これ、わたくしのことですか?
マジで記憶にねえんですが!?】
〇宇宙の起源 だから記憶を失う契約をしたって言ってんだろタコ!
おい今のちくちく言葉だろ。ちくちく言葉はやめなさい!
今明かされる衝撃の事実に、流石に絶句する。
〇宇宙の起源 あの時のお前はまだ流星に選ばれてなかったからな、逆に俺を呼んでくれて助かったよ
〇日本代表 ……経緯は、分かった。それで、あの混沌はなんとかできるのか?
〇宇宙の起源 いや無理だろ。あいつ今、俺から引き出した力の残骸で戦ってる状態だぞ。ここまで持ちこたえられてるのが逆に引く
思わず、ジークフリートさんの腕の中から立ち上がり、お父様を見た。
『本当に学習したのか? 一人ではお前は勝てない!』
「ダンは知らない。知らなくていい。アーサーは国を背負っている、死なせるわけにはいかない。何より……お前に引導を渡すのならば。それを成すべきは、このぼくだ」
『できると?』
「追い詰めるまでは確実に私がこなす。もし、最後まで仕上げられなくても……問題はない。私の娘がいる」
どくんと、心臓が跳ねた。
何を言っている。何を、言ってるんだ、あの人は。
──いいや違う。本当は最初から分かっていた。来たときの言葉を聞いて、即座に理解はできてしまっていたんだ。
「知らないのか? 子は親を超えるものだ。その時が来ただけだろう……親子が揃ったのなら、為すべきは継承だ」
うん。やっぱり、そうなんだろうな。
彼は嘘をつかない。
彼は絶対に嘘をつかない。
心の底からそうだと思ったから、言葉にして伝えてくれる。
あの人は最期の戦いのつもりなんだ。
「……マリアンヌ嬢」
ジークフリートさんの沈痛な声。
そうだよなあ。このままだと、またお父様を喪う。
またって変だな。ははは。
『戯れ言を。我もお前も、一人で強くなった。何も顧みないからこそ、高みへと至ったのだろうが!』
「違う。違うんだよ……ぼくは、彼女がいたから。マリアンヌがいたから、人間のままでいられた。その前は、ぼくたちは、ずっと取りこぼし続けていたんだ」
気づけば攻防が止まっていた。
雑兵の発生も止まり、お父様と混沌は、視線を重ねて静かに語り合っていた。
「君を止めるまでは死ねない。君を止めるためには、ぼくの命が必要だ」
『フン──つまらんことを言うな、親友。まだ間に合うはずだ。我と共に来い! お前がいれば、敵無しだ! 禁呪保有者も、七聖使も相手にはなるまいよ!』
「……ああ、そうだね……ぼくと君が並んで、負けたことなんてないもんな……」
膝が震える。
彼が何を言うのか分かってしまったから。
やめろ。それは。
それを言われたら、わたくしは。
『ならば、答えは一つだろう!』
「ああ────ぼくは君を殺す。この命を使い果たして、殺し尽くす。生命エネルギー総てを転換し、君が現世に来れないよう楔を打ち込む」
魔剣の切っ先を突き付けて。
お父様が、口を開く。
「家族の未来を守りたいと願うのは、父親として当然だろう?」
呼吸が止まった。
分かっていた──あの人は、わたくしのために死ぬつもりなのだ。
世界がどうこう、なんて本当はどうでもよくて。
ただ家族のために。
ただ娘のために。
自分の命を使い潰して、死ぬつもりなんだ。
「マリアンヌ嬢……その、君は……」
ジークフリートさんの声。背後から、気遣うような。
ああ、そうだよな。父親が自殺宣言してるのを聞いた娘なんて、なんて声かけたらいいのか分かんないよな。
でも、違う。
今はもう、感情が一色しかない。
言いやがった。
言いやがったな、あの男。
娘が大事だと。家族のために死ぬと。
そんなの──そんなの!
こっちだって同じに決まってるだろうがッ!!
「ふざ、けないでください」
奥歯を思い切り噛みしめた。
ああムカつく本気でムカつく超絶的にムカついた!
「おっ、戻ってきてたのかマリアンヌ」
ふつふつと、マグマのように沸騰する意思。
いつの間にか、同じ高台に脚本家の少年がいた。
「! 貴様ッ」
「よしてくれよジークフリート。僕に、ここでどうこうしようっていう意思はない。後はもう……マクラーレン・ピースラウンドと混沌、どちらが勝つのか見ることしか出来ない。こんな二分の一の賭け、やりたくなかったんだ」
咄嗟に剣を構えたジークフリートさん。
それにひらひらと手を振って、少年は嘆息する。
「まあ、どのみち悲劇に終わるのは確定か。世界が滅ぶか、マクラーレンが家族のために命を落とすか。後者の場合は、次の演目を考えないとな──」
悲劇?
演目?
ブチッと頭の奥で音がした。
わたくしは数歩で少年と距離を詰めると、その胸ぐらを掴みあげた。
「人の家族を巻き込んでェッ、勝手に悲劇だのなんだの言ってるんじゃァありませんわあああああっ!!」
「ヒッ!?」
少年をその辺にポイ捨てして、改めて戦場に顔を向ける。
わたくしにできることは何だ。
わたくしが為すべきことは何だ。
意思を確定させろ。
自分のやりたいことは何だ。
そしてそれを邪魔するやつは、一体誰だ。
「奪わせませんわ……これ以上、何も奪わせませんッ!!」
最後にわたくしが追放されて、わたくし以外は笑顔で終わってめでたしめでたしなんだ。この世界はそう終わるんだ。
なのに後からやってきた意味不明の連中にこれ以上めちゃくちゃされてたまるか。
「マリアンヌ、諦めろ。これは……こればっかりは、お前でもどうしようもないんだよ」
「あ゛あ゛!?」
「うわっ思ってたよりキレてた」
立ち上がりながら、少年が怯えた様子で言う。
「い、いいかマリアンヌ! 僕だってこの世界の存在だから、全部把握できてるわけじゃないけど……! お前が交信できる連中は、世界を創って、運営してる連中だ! だけど滅ぼそうとしてる連中に一回負けかけたんだよ! それは知ってるか!?」
「なんか聞いたことはある気がしますが、だから!?」
「お前応答でいちいちキレるのやめろよ怖いだろ! でっ、でだな! ルシファーは『世界を破滅させようとする作中存在』だ! まあ、そこから異様に進化してるけども! だけどあいつは──混沌は、『世界を破滅させようとする作品外存在』だ! 格が全然違うんだよ、僕たちとは!」
「だからぁ!?」
「えっ……えっ?」
ぽかんと数秒、口を開けたままにして。
それから少年がゆっくりと、唇を震わせた。
「お、お前意味分かってないだろ! 存在の位相が違うって言ってるんだよ!」
「だから何なのかと聞いているのです! 質問に答えていないのはそちらでしょうがッ!」
心の内側が怒りで満たされていく。
だけど、違う。
怒るべきじゃないんだ。
「作品外存在!? 本物の神!? 存在の位相がなんたらかんたら!? だから何なんです!?」
憎め。憎悪しろ。
わたくしの眼前の現実全てを恨んで憎んで、心を真っ黒に塗り潰せ。
意図してできるかは分からない。けど、材料だけなら揃ってる。
「アレはわたくしの願いを邪魔する存在! わたくしの道を塞ぐ障害物! ならば、打ち砕くだけ!」
だから────!
「来なさい! 地獄を統べる大悪魔、いずれ降り注ぐ終末!」
「は?」
「ちょっ、マリアンヌ嬢、まさか君!」
そのタイミングだった。
「マリアンヌ! 無事か!?」
どうやら追いかけてきたらしい、ロイやユイさんたちが高台に登ってきて。
面白いぐらい凍り付いていた。
「────我を。大悪魔ルシファーが端末を、呼んだか」
振り向かなくても分かる。
視界の隅に顕現している漆黒の翼。
わたくしの背後にて、大悪魔ルシファーが姿を顕していて。
「星を纏え、天を焦せ」
「人間よ、聞け。己が末路を受け入れぐばああああっ!?」
わたくしは振り向きざまの右ストレートで、大悪魔を地面に転がした。
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