PART44 狂乱万雷ラストアタック(後編)
放たれたコバルトブルーの稲妻は、一瞬で戦場を蹂躙した。
「な、ァッ……!?」
精密性、威力、全て絶大。
こちらに駆けつけようとした敵兵たちが雷撃に絡め取られ、吹き飛ばされていく。
「ナイスな援護ですわ!」
笑みを浮かべて婚約者を見る。
彼は──何か、呆然としていた。
あ? どうしたんだ? ん? っていうかこんな魔法使えたっけお前?
〇雷おじさん えっ!?
〇日本代表 誰が出て来ていいつったよオラァ!今忙しいんだからすっこんでろ!
〇雷おじさん いやちがっ……誰かがワシの本体にアクセスしておるんです!?
〇日本代表 ………………は?
〇雷おじさん ただ部分的というか。引きずり下ろされる感じではないんですが、力を引き出されていてですね……
え……マジで何? ロイ何してんのこいつ。
「どうしてよ……! どうして貴女の進む道は、誰にも邪魔されないのよ!?」
悲痛な声が聞こえて、顔を前に戻す。
カサンドラさんが泣きそうな表情で、禍浪を展開していた。
フン、わたくしの進む道、か。
「邪魔なんて無数にありましたわ! それら悉くを粉砕して、突き進むこと! それこそがわたくしの令嬢道ッ!!」
「れッ……令嬢道ぉ??」
「打ち砕いて、踏みにじって! それでも止まらない、止まることなんて考えもしない!」
目を閉じれば、いくつもの光景がよぎっていく。
入学式を滅茶苦茶にして。
御前試合で聖女をぶん殴って。
特級選抜試合の会場を半壊させて。
そして今、臨海学校で、地形を変えている。
…………………………思い出さない方が良かったなこれ。ま、まあいいや。
開眼。
正面にカサンドラさんを見据えて、わたくしは腹の底から叫ぶ。
「あの時の問いに答えましょう、カサンドラさん!」
「……ッ!」
「わたくしも沢山の犠牲を払って来ました! そしてこれから先もきっと犠牲を払うのでしょう! だけどッ! 犠牲なんて名前で呼びたくない! それら全部を飲み干して、糧にしていく!」
「そんな、強者の理論……!」
「仕方ないでしょう、だってわたくし強者ですもの!」
カサンドラさんが言葉を失い、ぽかんと口を開けた。
今だ。詠唱スタート。
「星を纏い、天を焦がし、地に満ちよ」
〇火星 せ、セコっ……
うるせえよ。
スタートするは、十三節ツッパリフォームと並行して起動できる限界の六節詠唱。
腹部から垂れる血が、そのまま右腕に纏わり付く。
「悪行を告げる鐘が鳴り、秩序の目覚めが雲を散らす」
単なる六節ではない。
ツッパリフォームと噛み合わせて相互に増幅し合う、今のわたくしに放てる全部!
「──極光よ、渦巻いてこの拳に宿れ」
右手を弓矢のように引き絞った。
後はただ、放てばいい。
向こうも右手に慌てて禍浪を展開、螺旋として巻き付けた。
さあ。
同時に飛び込む。
視線を重ねたまま、思いっきり、右ストレートを撃ち込む!
「必殺・悪役令嬢ロケットドリルパァァ──────ンチッッ!!」
「水華鏡月・二重螺旋────!!」
激突の余波が天を衝いた。
雲が砕けて、空すら貫き、力場が空間そのものをねじ曲げる。
真上の天空が奇妙に歪んだ。世界そのものがひずんでいく。
互いに砕き合う。
同じ禁呪同士で貫いて、穿ち、破壊する。
結果として空中を流星と禍浪の欠片が舞う。ダイヤモンドダストのように輝きながら飛び散っていく。
「ハァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ツッゥアアアアアアアアアアアアア!!」
拮抗が続く。
カサンドラさんのドリルパンチとわたくしのドリルパンチが、削り合う。
削られた破片が周囲にぶちまけられていた。
光っている。
雷に照らされ、空中で水滴一粒一粒が輝いている。
まるで流星のようだった。
漆黒の夜空を引き裂く、幾筋もの流れ星たち。
……実質流星なんじゃないのかこれ。
普通に考えて流星だと思う。最早そうとしか見えないな。
いやもういい──お前も流星になれッ!!
〇無敵 なんて??
〇宇宙の起源 なんて??
〇日本代表 なんて??
バキンと、互いの攻撃が砕け散った。
コンマ数秒をおいて、その破片が再結集する。
「ぇ?」
カサンドラさんが、自分の元に戻ってこない禍浪に、呆然とした声を上げた。
流星も禍浪も、まとめて巻き付ける。左手を二色の輝きが包む。
〇日本代表 待って待って待って待って
〇鷲アンチ こいつ、禁呪を禁呪で上書きしやがった!?
左手に再結集した二つの禁呪。
二つ? いいや違う! もうこれは流星だッ!
「超必殺・悪役令嬢パンチ──レフティィイイイイイイイイッ!!」
最速の二段構え。そういやわたくし左利きだったわ。
狙い過たず。
レフティパンチがカサンドラさんの腹部に直撃し、一瞬遅れて破壊音を轟かせる。
吹き飛ばされた彼女の身体が、地面をごろごろと転がっていく。十数メートル転がって、最後に止まる。
動かない。禍浪の水流が力を失い、ただの水となって、ぱちゃんと落ちた。
「わた、くしの」
呼吸が上手くできない。
それでも、右手を天にかざす。歪んだままのソラを指さす。
「わたっ、くしのっ……勝ちです、わァァッ……!」
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