PART32 竜虎相搏バトルフロント(後編)
決戦場に火花散る。
降り注ぐ雷雨が空間を滲ませ、頭の中までぼんやりとさせる。
「さあマリアンヌ、いらっしゃい」
カサンドラさんが誘う。
「私が憎いでしょう? 私を殺したいでしょう? その憎しみ全てをぶつけなさい」
ああ、憎い。殺したい。
そして、嫌だ。友達を殺したくなんかない。
〇無敵 お嬢、分かってると思うけど憎悪は……
〇日本代表 しっ。今は多分、何もいわない方がいいと思う
数秒間、目を伏せた。
雨に濡れる草むらは、雷雨に打たれても、しゃんと背筋を伸ばしている。
顔を上げた。迷いはなくなった。
右の拳を握り込み、カサンドラさんへ突き付ける。
腹の底に力を込めて、叫ぶ。
「さあ、カサンドラさん! 勝負ですわ!」
数秒の沈黙。
彼女がはっきりと、驚愕に絶句しているのが分かった。
「……ッ。勝負、と? 勝負と言ったの、貴女。忘れたのかしら、貴女の父親は──」
「ええ、ええ! だからこそですわ!」
迷いはない。
いいや──よく考えたら迷ったこととかない。いつも真っ直ぐ進んでいた。
「カサンドラさん、一つ教えてあげましょう」
「何、を」
「復讐の作法ですわ」
ふふんと笑みを浮かべ、わたくしは握っていた拳を上へと上げる。
雲に覆われた雨空を指さして、精一杯の叫びを上げる。
「殺されたから殺すなど、ナンセンス! 同害報復なんて古臭くてダサいですわ!」
ずっと考えた。
ずっと考えて、結論は、これだった。
仇討ち──────とか、ダセェ。
最先端を突っ走る最強の令嬢は、殺し返すなどという陰キャが好きそうな闇(笑)イベントはこなしたりしねえ!
「自分がされて嫌なことを、相手にする! わたくしが最も忌み嫌うのは、死ではなく完膚なきまでの敗北です!」
カサンドラさんはぽかんとしている。
初めて見るマヌケ面に、笑みすらこぼれた。
「だから──アナタにそれをする! それが最も効率的な、わたくしにできる復讐ですわ!」
言い切った。
満足して、深く息を吐く。
〇宇宙の起源 ……お嬢、いいのか?
構わんよ。
言葉に嘘偽りはない。衝動的な殺意こそあれど、何度考えても、友達相手に……同じ苦しみを与えたいだなんて、嫌だよ。そんなのナンセンスだ。
「……ッ、ご高説ね。だけど、私と貴女の間には厳然たる差がある。何を言おうとも、負ければそれまでよ」
「ええ、そうですわね」
すんなりと頷く。
冷静になってから先の戦闘を思い返したんだけど汎用性違いすぎワロタ。勝負になんねえじゃん。
────普通に戦えばな。
「ありがとうございます、カサンドラさん」
「え……?」
「わたくしからツッパリフォームをパクったでしょう? 同じです。わたくしも学びを得ましたわ」
告げて。
右手に流星を顕現させる。それを薄く、長く、そして鋭く伸ばしていく。
あっという間にできあがった短刀を片手に握る。
カサンドラ・ゼム・アルカディウスは確かな学びを齎してくれた。
外部水流による万能性。あれに対抗するには、わたくしも万能へと至らなければならない。
同じステージに、いかなくてはならない。
彼女に並ぶ方法、それは!
「令嬢とは──死ぬことと見つけたり」
「はい?」
流星の刃を、スゥと腹部に差し込んだ。
ふっ。流石はわたくしの、最強の禁呪。全然違和感なく、滑らかにおなかにつきささイデデッデデデデデ!!
イッデエエエ!
イダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
〇トンボハンター は……?
〇red moon えっ、ちょっ
〇外から来ました 何? 何? 何? これ何?
「なに……して……るの……?」
ドン引かれていた。
知るか!
地面に、わたくしから零れた血が落ちている。もうちょっとした血溜まりだった。
腹部の血管を十二分に痛めつけたのを確認してから。
短刀を引き抜くと同時、思い切り叫ぶ。
「────切腹流星顕現オオオオオオッ!!」
───変化は劇的だった。
そこらにぶちまけられていた血液が、意思を持ったように起き上がり、煌めき、わたくしの周囲に展開される。
「な……ッ!? そんな、それは……!?」
ハッ。なーにビビってやがんだ。
あらゆる現象をコピーできるだと? そんなもん、わたくしの流星だってできるっつーのォ!!
〇火星 違う違う違う違う違う違う!!!!!
〇苦行むり 何!?!?!?!?!何やってんの!?!?!?!?!
【ご心配なく。
わたくし、毎日新鮮な野菜食って血液サラサラでしてよ!】
〇第三の性別 そういう問題じゃねええええ!!!!!!!!!
……いや、確かに最早サラサラでは足りないかもしれねえな。
わたくしは周囲を対流する己が血流と、その中を蠢く煌めきを見て笑みを浮かべる。
【言葉を改めましょう。
わたくしはリコピンを毎日摂取し続けている女!
すなわち、血液ギラギラ令嬢ですわ!!】
〇鷲アンチ 百歩譲ってもキラキラなんじゃねえの!?!?!?!?
息を整える。
いやまあ、あれなんだよね。実は体内を介して循環するように配置したから、コレ一応失血死の可能性はないんだよね。まあ外側もわたくしの身体、みたいな感じ。
「……なに、それ」
「ツッパリフォーム・ギラギラモードとでも名付けましょうか」
「あな、あ、あなた……あ、頭おかしい…………!」
「随分と余裕がなくなっていますわね、『禍浪』保有者ともあろう方が」
拳を構え。
わたくしは真正面から、鮮血のヴェールを鋭く変形させて笑みを浮かべる。
「さあ決めましょう。本当に最強の禁呪とは何なのか! 流星なのか! 流星ですわね! それをじっくり教えて差し上げますわ──ッ!!」
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【決戦の時】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER3【来たれり】
『1,358,936 柱が視聴中』
【配信中です。】
〇苦行むり マジで頭おかしい
〇TSに一家言 何?何?何?何?
〇つっきー これぐらい頭おかしくなきゃ、ルシ様の女は務まらないってことかよ……!
〇red moon 対抗心抱くのか……
〇宇宙の起源 冷静に考えて令嬢とは死ぬことではないだろ
〇みろっく これやばくね?
〇日本代表 え?
〇みろっく いや……体外でやってんのさ、よく考えたらやばくね?
〇101日目のワニ まあ頭がやばいとは思うけど
〇みろっく そうじゃなくてさ。血液を流星と見なすならまだ分かるじゃん、でもこいつ違うやり方でやってたよな
〇外から来ました えーっと……?
〇みろっく こいつ、体内の宇宙で身体の外の空間を侵食してね?
〇無敵 あっ
〇日本代表 あっ
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