PART28 事態逼迫エマージェンシー(前編)
「我々ジークフリート中隊に、ファフニール討伐指令が下されました」
『……!』
宴会場にジークフリートさん率いる中隊の騎士と、わたくし、ロイ、ユイさん、リンディ、ユートが集まっていた。
テーブルを囲んで立ち並ぶ一同を見渡し、中隊の副隊長が眼鏡を光らせて告げる。
「アーサー陛下の命により、現地で魔法学園の生徒も場合によっては作戦に参加させろと。特に……マリアンヌ・ピースラウンドには助力をお願いしたいと」
「承知しました」
即答すると、場が少し沈黙に包まれた。
いいんですね、と視線で問われ、頷く。
「我々は……ピースラウンドさんが、禁呪保有者であるという情報も開示されました。あなたのご協力は、騎士としては心底歯がゆいですが──なくてはならないと思っています」
「悔やむことはありません。わたくしは、わたくしが為さねばならないことを為すだけです。そのために協力が必要なのでしょう。わたくしたち魔法使いと、騎士とで」
宴会場を見渡す。
学生たちは現在、自室での待機を命じられているが、わたくしの友人たちはこの場に居た。
代表してロイが一歩前に出る。
「僕たちもこの場にいるということは……」
「ええ。騎士だけでなく、魔法使いの皆さんの力が必要だと判断しました」
恐らくはアーサーの野郎の指示だな。
現状で、足手まといにならないやつ全員をまとめてぶつける。実に単純な最善手だ。
〇苦行むり いよいよ原作とはまるで別イベになってきたな
〇外から来ました 騎士団は関わってなかったもんな
「……ッ。騎士団一個中隊と、学生で構成された部隊ってことですか」
困惑の声を上げるユイさんに対して、わたくしは肩をすくめた。
「ええ。まるで敗戦国のレジスタンスですわね。テンションが上がるでしょう?」
「上がんないわよ! どういう感性!?」
リンディが悲鳴を上げ、みんなその通りだと頷いた。クソが、味方いねえじゃん。
……ただまあ、不安になる気持ちは分かる。なんで騎士団の増援とかが来ねーんだよって話にもなる。
だが理由を推測することは容易だ。
「王都襲撃の件がありましたので……今、この地域にて確認されたのが、王都襲撃と同じ人員であることは確認できています。しかしこちらが陽動という可能性もある」
だろうな。
国の中央部で一回暴れられた直後なのに、王都の防衛を割けるはずがない。
前提条件を確認し終え、わたくしたちは数秒顔を見合わせた。
決意を秘めた表情。不安そうな表情。それらが一様に唇を結び、頷く。
「では作戦を説明します。緊急事態ですので内容は口頭伝達となります。作戦概要としては夜闇に紛れての奇襲、つまりは電撃戦です」
副隊長さんが滔々と説明する。
大きなテーブルに広げられたのは、この海辺一帯を示した地図だ。
それが魔法によって拡張され、立体的な図として空中に投影されている。ファンタジー要素があるって知らなきゃこれ普通にSFだと思っちゃうな。
「偵察部隊の報告によれば、敵は旅館から7キロ離れた崖地帯に陣形を展開しています。陣形からして最奥部を守護するのが役割と考えられており、また本日の昼間に敵と接触したジークフリート隊長の証言から、大邪竜ファフニールと呼称される存在を完全に顕現させることが目的と考えられます」
投影図に、赤い魔力光点が点滅する。敵陣営の大まかな見取り図か。
グループが三つ、それぞれ小隊単位で独立して警邏に当たっているらしい。
戦場となるであろう一帯のマップを確認し、ロイやユート、ユイさんにリンディまで眉根を寄せたり小声で何か会話したり頷いたりしていた。負けてられねえ。
「ふむ、なるほど」
腕を組んで頷く。
全然分からねえ。
「どうやら説明は不要なようですね、素晴らしい理解力です」
わたくしたちのリアクションを見て、副隊長が満足げに頷く。
「いや待て。マリアンヌ嬢の今の発言は何も分かっていないときに発するものだ。説明が必要だな」
「あっそうなんですね」
「うおおおおおおい! バラさないでくださいます!?」
ジークフリートさんのインターセプトにより、わたくしに生暖かい視線が突き刺さる。
〇みろっく 黙ってればいいのに……
うるせえ!
それじゃあカッコがつかないだろうが!
「立地は攻撃を迎撃するため、極めて緻密に選ばれています。真正面からの攻撃ではこちらが不利でしょう。だからこそ、ピースラウンドさんの突破力を生かしてなんとかひっくり返したいのです」
「あ、ああなるほど……」
顎に指を当てて数秒考え込んだ。
あ? え? 結局何を求められてるんだ?
冷や汗をダラダラと流すわたくしに、隣のロイが肘でちょんちょんと小突いてきた。
「要するに火力で相手の陣形を破壊しろってことだよ」
「なるほど! ブチ抜けばいいのですね!」
「……まあ、はい。ええ。隊長これでOKですか? 本当に?」
「不安になるのは分かるが、OKだ」
なんだよ最初からそう言ってくれればいいのに。
改めて、ぶち壊す対象としてマップを確認する。確かに正面から突破しようとした場合、何層もの防衛戦に絡め取られ途中で失速するだろう。
「ということは最前面にいる兵力はある程度無視ですわね。最奥部に中心人物が待っているのでしょうが、横に複数の防衛ラインを重ねる形ですか。わたくしが正面から縦に分断しましょう、そうすれば分裂した防衛隊を左右から挟撃し、楽に進めるはずです」
「本当にOKだった……!」
副隊長さんが驚愕の声を上げる。
〇トンボハンター お前の戦闘用IQの起動スイッチは分からん
〇火星 うわっ限りなく最適解じゃねえか、突然頭良くなるのやめろ
わたくしは魔力を操作して、投影図の中心部を断つようにして蒼いラインを引いた。
「今描いてもらった通りに分断できるのなら、最高だけどよ。かなり負担になるぜ? 大丈夫か?」
「問題ありません。これぐらい朝飯前ですわね」
ユートの心配するような声に、胸を張って答える。
赤子の首をひねるようなもんだ。間違えた首ひねっちゃ駄目だな。
「では自分たちはスリーマンセルで左右から仕掛けましょう」
「迅速に最奥部へ到達するには……足止めも必要だな。左側の戦闘では私の小隊が担当します」
初動が決定したのを見て、騎士団の方々が発言を重ねていく。
会議は踊らず、されど粛々と進んでいった。
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