PART25 天魔轟臨/アフターハザード
〇101日目のワニ 要するにファフニールが暴れてお嬢が因子トリガーでルシファー召喚して時間稼いでもらってなんとかギリ立ち直って撤退した、ってことか
〇外から来ました ゴジラファイナルウォーズのあらすじのほうがまだ分かりやすい
戦場と化した観光地街から離れて。
大回りで旅館への山道を歩きつつ、わたくしはコメント欄と現状を確認していた。
全員無事だ。まあ、ちょっと最後カサンドラさんの追撃がモロ当たっちゃうタイミングあったけど……そこはなんとかなった。
「アモン先生……ありがとうございます。危ないところを助けられましたわ」
「気にするな。生徒を守るのは教師の役目……と、偉そうに語ることもできないな」
やや気落ちした様子の男が一人増えていた。
世界が元の姿を取り戻してやっと状況を確認できたという彼は、我らが火属性講師にして偉大なる悪魔のアモン先生である。
「すまない。我が輩としたことが……こうも致命的なタイミングで、居合わせることができなかったとは」
「そんな。アナタがいなければ、本当に危ないところでした」
彼の貢献は大きい。大きすぎる。
撤退は間に合うかどうか怪しかった。そこを確定させたのは、彼の魔法だ。
炎熱を操ることで発生させた蜃気楼。平常時のカサンドラさん相手に通用したかは分からないが、ルシファーが顕現するという極限状況では功を奏した。
「……で、だ」
「はい」
疲労困憊といった様子で一同、黙って歩いている。
意識を取り戻したロイとジークフリートさんなんかもう見てられない。二人ともマジで死んでるんじゃないかってぐらい落ち込んでる。
だが、最後尾を歩くわたくしとアモン先生は、そっと後ろに振り向いた。
「なんであいつはまだ顕現しているんだ……!」
「いや……ちょっと分かんないですわ……」
殿を務めているのは、ちょうど身体の半分ぐらいが光の粒子に解けつつあるルシファーだった。
なんでお前まだいんだよ、と冷たい目を向けるも、彼はそこはかとなく胸を張る。
「ああ、マリアンヌ。追撃はないぞ、振り払えただろう」
「……それは、良かったのですが。その……」
「それと、ちょうど聞きたかったことがある」
「……何ですか」
「このロックマンゼロというゲーム、難しすぎないか?」
「このタイミングで聞く神経が度し難すぎませんか……!?」
こいつ片手にゲームボーイアドバンス持ってやがる!
どこで買ったんだよ!
「ふっ、そう驚くものではないぞマリアンヌ。おれはある程度構造を理解すれば、魔力を編み込んで物質を再現することもできる。地獄で等身大のお前を作成するのに躍起になったりもした。ただやはり、お前の思考をトレースするのは難しく、断念したがな」
「キッモ。キッモ……無理。マジ無理。助けられたのを差し引いても無理です。はい無理!」
「おれの元に来ればPS4はおろか、PS5すらも遊べるぞ」
「………………………………」
「ピースラウンド嬢!?」
いかん。マジで心揺れた。
「というかルシファー、だからなんでアナタはまだ顕現しているのかというのをですね」
「ああ、それはお前に伝えたいことがあったからだ」
ルシファーはゲームボーイアドバンスを時空の狭間に入れて、わたくしの目を見つめた。
「分かるか、マリアンヌ。世界を滅ぼす舞台装置に過ぎないおれが……今はこうしてゲームを楽しんでいることの意味を」
「……以前おっしゃっていましたね。単に滅びを約束するだけではなく、その先も見据えていると。文化の発展がもたらすものを重視していると。ファフニールは、あまりそういう感じはしませんでしたが」
「ああ、そうだとも。そしておれも、以前はああだったんだ。だが……変わった。世界を滅ぼすだけでなく、ゲームや漫画も楽しめるようになった」
「……それが?」
「お前だってそうだろう、マリアンヌ。憎しみがお前の総てではないはずだ」
静かな言葉だった。
気づけば先を行くユイさんたちも足を止め、大悪魔の言葉に聞き入っていた。
「もしも、お前が本当に憎悪しかなくなったのなら、その時に改めて世界を滅却しよう。だが──そうでなかった。マリアンヌ、おれに嘘をつけると思わない方がいい。お前は先刻、確かに憎しみだけじゃなかったんだ」
「…………」
「だからあの瞬間にやめた。おれの手によって齎される破壊と滅亡は、今すぐに成さねばならぬことではない。だからといって途中で切り上げる道理はない。それでもやめたのは、お前が心の内に、炎を宿したからだ」
ああ、そうだ。
完全に心が折れていた。今だって、別に劇的に復活したわけじゃない。
だけど──
「……ッ?」
振り向いてロイを凝視すると、彼は訝しげに眉根を寄せた。
戸惑っているようだ。ふん、言葉にして言ってやる義理はないな。
「故にマリアンヌ。お前の答えを見せてくれ。お前が高らかに謳う勝ち鬨が好きだ。お前が迷わず突き進む姿が好きだ。だから……お前がまだやれるというのなら。おれは、お前の姿を見守りたいと思った」
「……ありがとう、ございます。寛大ですのね……」
「当然だ。とはいってもおれのアジェンダに揺るぎはない。ファクトベースを心がけつつも、コンセンサスを得られるよう努力しよう」
「その口調にならなければいい話だったな」
「マジで黙ってくださいます?」
ちょうどその時、ルシファーの身体の崩壊が加速度的に増した。
どうやらリミットのようだ。
「最後に一つ忠告しておこう、マリアンヌ。『流星』では『禍浪』には勝てないぞ」
「…………」
「だが、禁呪とはそれ単体で成立するものではない。保有者があってこそだ。勝機を見出すならばそこだろうな」
「ふざけたことを。いいえ、いいえ! 上等ですわ!」
砕け散っていくルシファーを見つめ、わたくしが右手で大空を指さした。
「ならば証明してみましょう! 最強なのは、わたくしの『流星』であると!」
「フッ……楽しみにしているぞ、お前の答えを……」
大悪魔は最後にそう言って、ついに粒子となってかき消えた。
〇つっきー ふぅ……いや~海水浴編楽しかったですね
〇第三の性別 勝手に終わらせるな
〇適切な蟻地獄 ここまでルシファーに気に入られるって凄いよな……もしかして乙女ゲーの才能はあるんじゃないか……?
は、って何だよ。他にも才能に満ちあふれてるよ。
それはともかく。
……なんだかんだ、助けられた。助けられまくった。借りができてしまったな。
〇つっきー 本当に大きな借りになってしまったね
〇外から来ました そうだな。裏ボスであることを忘れそうになるわこんなん
〇つっきー いやルシ様の新規絵とボイスでもう大変なことになってるからお嬢に超デカい借りができた。数秒失神してたし今同担にデータ送りつけて気絶させてる
〇日本代表 二次災害起きてんじゃねえか
怖……
ま、まあオタクってそういうものか。確かに推しの水着が突然実装されたりするだけでも発狂なのに、推しがストーリーの中核でバリバリ出てきたらそりゃ椅子から転げ落ちるわ。
「……マリアンヌ。これからどうすんだよ」
「一旦旅館に戻って、態勢を立て直しますわ。恐らく王都の方からも、情報が来ているでしょう。状況を把握し直し、こちらもきちんと策を練って、リベンジはその後です」
ユートの言葉に、ひとまずの方針を示す。
その中のリベンジ、という言葉を聞いて。
一同少なからずの驚きを示していた。
あ? 何だよ。何か変なこと言ったか?
「その、マリアンヌさん。それは要するに……」
「ええ。これは文句のつけようもない敗走ですわね」
「……ッ。驚いたわね。受け入れてるの?」
リンディの問いに対して。
わたくしはスゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と息を吸い。
「全ッ然! まるで受け入れられませんわ!」
ばさばさー! と近くの木々から鳥が逃げ去るぐらいの叫びを上げた。
〇ミート便器 ですよねー
〇太郎 知ってた
〇宇宙の起源 負けを受け入れるくらいなら死んでそうだし死んでリベンジできなくなるぐらいなら迷わず逃げる女
「精神攻撃を初動においてこちらにデバフをかけてくるなんて禁呪保有者の風上にも置けなくてよ!! あ~~~~~~もう思い出したらマジでムカついてきましたわ!! 頭に水ぶっかけられてもアケコンから手を離してはならないというのに!!」
「う、うるせえ……」
耳を押さえて呻くユートを無視して。
わたくしはキッと、先ほど戦場になっていた観光街の方向をキッと睨む。
今はもういなくなっているだろうが、関係ねえ。
「覚えていやがれ、というのは真剣ですわよ……! 受けた屈辱は十倍、いえ百倍にしてお返し致しますわ……ッ!!」
ああそうだ。ネクタイピンは、カサンドラさんが持っている。あれを取り返すまでは死ねねえ。死ぬわけにはいかねえ。
マリアンヌ・ピースラウンドは、ここからが強い。
強いっつったら強いんだよ。
「ロイ! ジークフリートさん! 次の決戦ではアナタたちの力も必要ですわ! 旅館に戻ったらよ~くお話ししましょう!」
「……ああ、分かっているさ」
「分かってる、だけど」
さっきから意気消沈している二人に対して、わたくしは。
「勝って終わったら──ヴァカンスの続きですわ! お揃いのアロハでも競泳水着でも何でも着ましょう!」
『!?!?!?!?!?!?』
二人の瞳に生気が戻る。
あっこれでいいんだ。ていうかロイはともかくジークフリートさんすら釣れるのかよ。溜まってるってやつなのでしょうか……?
「ま、マリアンヌあんたそういうこと簡単にねえ……!」
「なんですか。リンディには関係ないでしょう」
「ま、マリアンヌさん、メイド服ってどうですか……!」
「あっユイさんには関係あったのですね」
鼻息荒く迫ってくるユイさんをリンディが羽交い締めにして止める。
辟易しながら周囲を見れば、ユートがロイと真剣な眼差しを交わし、頷き合っていた。
「絶対に負けられなくなっちまったな」
「うん……へこんでいる場合じゃない。僕は、僕にやれることをやらないと」
青春の一ページにみたいになっていた。
自分でやっといてなんだけど、これで奮起するパーティ、かなり嫌だな。
「いやマリアンヌ嬢、落ち着け。ありがとう、少し衝撃で目が覚めた」
「ええ、それは良かったですわ」
「旅館に戻り次第服のかくに──方針の確認を行おう」
「ジークフリートさん? 何か聞こえたのですが……」
まあ、なんだかんだで復活したのなら良かった。
「ピースラウンド嬢……その、なんというか。個性的な仲間に囲まれたな……」
アモン先生は引き笑いだった。
「アナタの上司に比べたらマシですわよ」
「そういうこと言うのやめろ」
わたくしは一撃で先生を論破すると、拳を握って突き上げる。
「一度敗走しようと、最後に勝てば良いのです! ですが恐らく、次の敗北は絶対に許されないでしょう! 必勝を期すため、ただいまをもって、作戦を発令しますわ!」
『………ッ!』
「名付けて──『ドキッ☆禁呪だらけの戦争大会~メテオもあるよ!~』ですわ!!」
『………ッ!?』
余りのネーミングセンスに絶句する一同を率いて。
わたくしは反撃の狼煙を上げるべく、意気揚々と歩き出すのだった。
〇火星 異世界で通じるわけないだろそのネタ
〇苦行むり 多分これ純粋に意味分かんなくて困らせてるんだと思うぞ
一番恥ずかしいやつやん……
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