PART24 天魔轟臨/クローズ・トゥ・ジ・エッジ(後編)
あ~もう無理無理。店じまいだわ。
〇w34t5 gtuisg!h;!!!uirhs!!
〇ge4h 238r5ygohaep0r!!!
なんか、居る場所が切り替わってから、コメントずっとバグってるし。
詰んだか~?
あー……マジでこれは駄目だな。
今のわたくしは、死んではいない。それだけ。生きてるとは言い難いかな。ツッパリフォームはいつの間にか解除されていた。
身体はまだ動くけど……びっくりするぐらい精神が動かない。ただ事態を眺めているだけ。
ここで終わるんだとしたらダサい終わり方だな。
ゆっくりと周りを見る。
わたくしを抱きかかえたまま身動きが取れないユイさん。
ジークフリートさんを背負って、戦場を眺め絶句しているユート。
逃げ場がないか探しているリンディ。えっお前この状態で全然動けてるのかよ。すげえな。
まあほら、なんていうか。
いわゆる神域の争いって、見てるだけでこっちの魂がぶっ壊れそうになるんだね。
原因がわたくしなのは分かるけど。
だけど……お父様を、殺されて。仇を討つことも、自力じゃできなくて。そもそも相手がカサンドラさんっていうのがまだ実感なくて。
置いていかれた、と思う。
ギアを入れるタイミングを逃したというか、与えられなかったというか。
気づいていなかった自分の脆弱性が、たった一度のそのミスが、ここまで状況を悪化させた。
笑いそうになるわこんなん。
周囲を見渡し終えて、最後に。
目の前で倒れ伏しているロイを見た。
マントは砂や泥に汚れ、金髪は輝きを失っている。
彼の人差し指がピクリと動き、それから、ゆっくりと顔を動かし始めた。
生きてんじゃん。いや当たり前だ。外傷何にもないもんな。
そうだ、ロイはまだ生きてるんだ。生きている。
もぞりと頭を動かし、彼がこちらを見る。
逃げろとか言うのかな、って思ってた。
視線が重なった。
────全身の感覚がクリアになった。
ロイの瞳に諦観はなかった。焔が宿っていた。まだだ、まだだと叫んでいた。
射すくめられた。呼吸が止まる。
彼は、ロイは言っている。まだだろうと。お前もまだ戦えるだろうと。
……戦える。
……身体は、まだ動く。
ただ心がついてきていなかった。けれど、この婚約者はそれを良しとはしない。してくれない。
彼の碧眼が叫んでいた。そんなことをする女だったのかと。
ずっと一緒にいたから、知っているぞと。お前はそんなものじゃないだろうと。
言われている。諦めるなと。諦めるのはお前らしくないと。
────立ち上がらなければ、ならない。
あの日誓った。
流星を共に見た少年に誓ったんだ。
世界の頂点に立つと。誰よりも眩しい、散り際の輝きに総てを賭けると。
裏切ってはいけない。
わたくしは、あの日の少年と少女を裏切ってはいけない!
「……ッッッァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
喉が裂けるような叫びと同時、両足を踏ん張って、ユイさんの腕の中から立ち上がる。
「な────マリアンヌ、さん……?」
「だああああああああっ! ああああああもおおおおおおおお! さっきまでのわたくしは忘れなさい! あんなの、あんな無様な姿は、ピースラウンド家の長女として到底認められませんわ!」
右手で天空を指さした。
「わたくしが、天下無双!」
ルシファーが描いた夜空。
「わたくしが、古今最強!」
そこに切れ目を与える。
「わたくしこそが──最強の令嬢ッッ!!」
バキン、という重い音と同時。
世界が砕け散る、夜闇が吹き払われる、姿を取り戻すのは果てのない青空!
「ノーカン! ノーカンですわ! ちょっと倒れてましたけど……小銭が落ちてただけですわ!」
「最強の令嬢は小銭拾わないわよ」
大声で自己弁護すると、リンディから冷たい指摘が飛んできた。
余計なこと言うなよ、と振り向くが……彼女は微笑んでいた。安堵したような笑みだった。
「……申し訳ありません。お待たせしましたわ」
「気にしないで。それで? 一応、上書きされる前の地形なら、退避ルートがあるわよ」
「重畳。わたくしがなんとかしますから、機を見て皆さんを」
「オッケー、任せて」
古い付き合いの友人に、他の友人たちを任せて。
わたくしはファフニールとルシファーが激突している地点へと歩き出す。
ルシファーが暴れ散らかしたようだが、そもそもの話。
お前はわたくしが呼んだんだろーが!
言うこと聞け! こっちを見ろォッ!!
「…………ッ!? マリアンヌ、来たか────!」
言葉にせずとも、やつはこちらを振り向いた。
ルシファーは口元をつり上げ、歓喜するような表情を浮かべていた。
「好き勝手してくれましたわね! ですが!! アナタの主演はここまでですわ!」
「……ふっ。出力の低下……そうか。憎悪に呑まれなかったか」
〇鷲アンチ うおおおおあっ!? コメントできるようになった!? 復旧した!?
〇無敵 一体どうなって……なんでファフニールが亀甲縛りされてんの!?
〇日本代表 おい今三回も局所的な世界改変起きてたぞどうなってんの!?
悪いが説明は後回しだ。
右手を天へかざし、わたくしは詠唱をスタートさせる。
────循環する星を纏い、天を残らず焦がし、地に遍く満ちよ
────射貫け、暴け、照らし続け、光来せよ
────正義、白、断罪、聖母
────悪行は砕けた塵へと、秩序はあるべき姿へと
真正面。
拘束されたファフニールと、わたくしを見て笑みを浮かべているルシファーと。
そしてカサンドラさんが、少年を抱きかかえ、こちらを見て瞠目していた。
「マリアンヌ……! 貴女、まだ立ち上がる力が……!?」
ふっふっふ。
立ち上がる力、しか残ってねえんだなこれが。
────裁きの極光を、今ここに!
「完全解号──虚弓軍勢・流星」
降り注ぐは大地に満ちる流星群。
防御するべく水の翼を展開するカサンドラさんだが、コンマ数秒でわたくしの狙いに気づいた。
まあ、わたくし、背中を向けて脱兎の如く逃げ出してるしな。
「マリアンヌ……!? 貴女、逃げるの!?」
「ええそうですとも! 逃げますわ!」
流星群の配置は直撃狙いではなく、追走してくるルートを破壊するためのもの。
遅延もかけたからある程度継続して流星群は降り注ぐ。
既に背後でリンディたちが逃走を始めていた。
ああそうだ。
今この場は──退く。敗走と言っていい。
「逃がすと思って!?」
破壊の嵐を突き抜け、彼女が手裏剣のように圧縮水滴を飛ばす。
それらがわたくしやリンディの背中を貫き、だが直後にその姿はかき消えた。
「────ッ!? 蜃気楼……!?」
向こうの土俵にこれ以上乗ってられるかよ、こんなん撤退だ撤退。
ただまあ、最後にメッセージだけ残しておくか。
「カサンドラさん、これで勝ったつもりにならないことですわよ!」
「!?」
一旦急ブレーキをかけて振り向く。
流星群が造り上げる破壊の壁越しに。
わたくしは……地団駄を思いっきり踏みながら、腹の底から叫んだ。
「覚えていやがれですわ~~~~~~~~~~!!」
〇red moon 転生してから一番悪役令嬢っぽかったな今の
わたくしもそう思う。
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