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PART18 湯煙旅情ゲットアンダースタンド(後編)

 月に照らされる、個人用の露天風呂。

 そこでカサンドラさんはぽつぽつと言葉を紡いでいた。


(わたくし)ね、ずっと考えていたのよ。魔法を使えてどうするんだ、って」

「……と、いいますと」

「だってこんなもの──人を素早く殺せるようになるだけだわ」

「ああ、まあそうですわね(・・・・・・・・)


 何の気なしに相づちを打った。

 だというのに、カサンドラさんは勢いよくこちらに振り向いた。


「えっ……?」

「え? いえ、だって魔法なんて極めたところで、人を適切な速度で、適切な消費で殺せるようになるだけでしょう?」

「それ、は」

「ですが、それで終わりではないとも信じています。きっとこの力も、誰かを幸せにできると。悪人を誅するというのは少々直接的すぎますが、例えば……魔法に夢を見る子供たちの、夢を守ることはできますわ」


 どこまでいっても、わたくしにとって、この世界は個人の主観でしかない。

 きっとどこかには違う意見の人がいる。誰かを傷つけるためにしか発展していない魔法に絶望した人。或いは実際に魔法で傷つけ、傷つけられた人。

 思えばお父様はきっと、誰よりも魔法に詳しいからこそ、誰よりも魔法の残酷さを知っているのかもしれない。


「ですからきっと、わたくしももっと強くなれば、また別のものが見えるでしょう。また別の障壁に当たるでしょう。それをどう受け取るかは自分次第ですわ」

「…………」

「まあわたくしは誰よりも強く在りたいので、如何なる困難があろうとも乗り越えるだけですが……お父様だっていつかはわたくしが倒しますわよ」


 のぼせそうな感じがしてきたので、温泉から上がって、縁取り用の岩に腰掛ける。

 足だけちゃぷちゃぷと湯に浸す姿勢。

 するとカサンドラさんも同様に湯を上がって、わたくしの隣に座った。


「そう。貴女は、そう思っているのね」

「ええ。お気に障ったのなら──」

「いいえ、まさか。……ありがとう。(わたくし)も同意見よ」


 そう言って、彼女はふうと息を吐く。


「ごめんなさい、マリアンヌ。そろそろ上がるわね。(わたくし)これから仕事があるの」

「あら、これからですか……お忙しいのですね」


 カサンドラさんは月の光を浴びて、寂しそうに笑う。


「その……半分旅行、とおっしゃっていましたが。何か用事があるので?」

「そうね。旅行って言うのは本当よ。それと、仕事を兼ねているの。とっても大きな仕事……だけど、今はどうでもいいわね」


 ふと自分の手に、温かさを感じた。

 野良猫でも乗っかってんのかと思ったら、カサンドラさんの白く細い指が、わたくしの右手を撫でていた。


「!?!?!?!?!?!?」

(わたくし)、貴女に出会えて良かったわ」


 至近距離で見つめ合って。

 わたくしの手に、彼女のそれを重ねての発言。

 完全に自分の顔が茹だっているのが分かった。


「少し悩んでいたの。魔法をどう使うのか。この使い方は、本当に正しい使い方なのか、って」

「……それは」

「決めるのは自分自身なのでしょう? ……ふふっ。突き放すようで、誰よりも優しい人なのね」

「かいかぶりですわ。無責任この上ない言葉でしてよ」

「無責任であることを自覚していることが、この上なく責任に満ちているのではなくて?」


 ぎゃー言い返せねえ!

 なんかこう……ハズい! 照れる!


「まあ、まあ……犠牲を払えば、その分だけ強くなるという保証はないとだけ言っておきますわ」

「重々承知していてよ。払った犠牲に見合う結果は、当人が出すしかないのだから」


 なんか伝わってねー気がするんだよなあこれ。

 とはいえ、わたくしだって相応の犠牲を積んできた節はある。軽々しく否定することはできない。

 何よりも……空を見上げて、碧眼に月を映す、カサンドラさんの横顔。


「マリアンヌは、これから先も……犠牲を払う覚悟はあるのかしら」

「……犠牲、ですか」


 犠牲。

 強くなるための犠牲。

 ああそうだ──わたくしはただ、追放される悪役令嬢に相応しい強さを願っていた。

 ならきっと。

 カサンドラさんの方がずっと真摯に、強さを求めているのかも知れない。


「わたくしは」

「そろそろ時間ね、ごめんなさい……返事はまた今度に聞くわ」


 その言葉はすっと受け入れられた。

 間違いなくどこかで、また出会うと感じていた。


「それじゃあ、またね、マリアンヌ」

「……ええ。また会いましょう、カサンドラさん」


 最後の問いに答えられなかったのは心残りだったが。

 わたくしたちは微笑み、笑顔を交わして、別れた。


 ──次に彼女と会えたとき、ちゃんと答えないとな。








 しばらく一人で露天風呂を堪能してからお風呂を上がり、自分の部屋に戻る。

 窓際の椅子に座ったリンディが、呆れた様子でわたくしを迎えてくれた。


「長湯だったわね」

「至上のお風呂でしたわよ」

「ふーん。で、あんたどこ行ってたわけ? いないからユイが死んじゃったわよ」

「迷子になって個人用のお風呂に入ってましたわ……え? 死んだ?」


 見ればユイさんが布団にうつ伏せに倒れていた。

 耳を澄ますと『見れなかった……何も……何も見れなかった……』とブツブツ言っている。


「まあまあユイ。明日だってお風呂あるんだし、元気出しなさいよ」

「わたくしは明日のお風呂が怖くなってきましたが!?」


 風呂で何をするつもりだったんだよこの女。

 恐怖に震えながらも、そういや大事な話があるんだっけと思い出し、配信画面を立ち上げる。



〇日本代表 邦キチは数年後に映画とか全然見ないフットサルが趣味の男と付き合ってるよ

〇red moon オメーまたそれかよ

〇宇宙の起源 逆張りしかできないならもう生きてる価値ないよ

〇101日目のワニ 漫画読むの辞めろ

〇日本代表 夢見すぎなんだよオタク共が

〇外から来ました かつてポエムブチ上げてキッズにドン引きされたお前の方が夢に溢れてるよ

〇無敵 和を以て貴しとなす、ってな!(笑)

〇日本代表 お前らほんと殺すぞ



 寝ていいか?



お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 普段お風呂とトイレの時コメントいつもああいう感じかなw? [一言] 最近読み始めた!一話から面白くて!
[一言] アマ公さんほんとオタク、というか野郎の幻想に厳しいっすね でもこれからの一生永遠にポエムで煽られるんやろなぁ…
[良い点] カサンドラさんのお風呂配信はまだですか!!!!!!!!!!!!!
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