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「…実は僕は」
大きく間を空けて、告白した。
「…赤い本がどういう格好なのか知らなくて」
佐々木はあっと小さく声を上げた。
「そうですよね、そりゃそうだ。しまったなぁ、失礼。ならもっと自信持って言わないといけませんね。……はい、これがあなたの探していた赤い本です。間違いありません」
受け取った。
この至極地味な、赤い本を。
僕の手は小さく震えていた。
それは、探していたものに巡り合えたからではなくて、先程からの佐々木の言動が、いちいちキーマンとしての素養を感じさせたからだ。
今日僕は、この人に会うために自転車を漕ぎ出したのか。
佐々木はレジを指差して言った。
「大丈夫とは思いますけど、会計は済ませてくださいね。なんだかそのまま持って帰りそうな気がしたので、一応、一応言いますけど」
そうか、そうか。これも売り物か。
確かに言ってくれなければ危なかった。
さっきから佐々木と僕とのやりとりをいぶかしげに見ていた阿部は、自分の出番が来たかと姿勢を正した。
「あの、これお願いします」
「カバーは」
「え、えーと」
この男、客の顔とカバーのことしか頭にないのか。
僕は若干考えて、チラリと阿部を見ると、もう本に紙を引っ掛けて、「カバー掛けました」と言う。
容姿の判定結果が告知されているようなものだ。
ちょっと愉快だった。
『「値段は3456円になります」
「3456?」
目を疑う数字の羅列だ。
レジには、
『3200+税 3456』
と表示されている。
なるほど、3456か。
「じゃあ、これで」
一万円札を引っ張り出して、そこに置いた。』
「値段は3520円になります」
「3520……」
この本が値段によって価値を決めつけられていることに、僕はちょっと不満を感じないでもなかった。
でも、そこそこ高い値段を提示されているのでそれを許すことにする。
探した以上は買わなければならない。
財布から5000円札を取り出して置いた。
阿部はそれをひったくるように受け取ると、レジに5000と打ち込み、「お釣りは1480円になります」と言う。
先に1000円。それから480円。
僕はその釣り銭を、阿部の真似をしてろくすっぽ確認もせずに財布に入れた。
「ありがとうございました」
袋に入れられた赤い本。あぁ、本自体はこの程度のものか。
僕は小さく袋を揺らした。できれば今日中に、全部読んでやろうと思った。