表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bibidebabide  作者: 師走
5/25

5

背表紙を一つ一つつぶさに見ていけば分かるものだろうか。

何しろ題名は単純である。

見間違うことはないだろう。


しかし……、この本屋に果たしてそれがあるのかどうか。

僕は視線を這わせて今いるコーナー内を観察したが、ここにはなさそうだった。


とりあえずジリジリと歩きだす。

そうだ。店頭のレジにまで向かおう。


それまでに見つけることができれば手に取って買えば良いし、なければ注文でもすれば良い。

題名は掴んでいるんだから。


上の段を左から右へ、下の段を左から右へ眺める。

なんだかこんなやり方では見つからない気がして、自然と適当な目の動かし方になる。

探そうと思い立った時よりも、探している最中の方が、やり方の無謀さが身に染みてわかる。

理由はないが、どうしてだか見つかる自信はあった。しかしそれは冷静さを欠いていたというだけであろう。


ああ面倒だ、と完全に諦め切って、それでもまだ顔は棚へ向けたまま歩いていると、トントンと肩を叩かれた。


「なんですか」


店員だった。スタッフと分かるよう、緑色のエプロンをつけている。

まぁ店の中で声をかけてくる人がいるとすれば、知り合いか店員くらいのものだろう。


だから別に予想外の人物だったというわけではないが、僕は不審がるような表情をした。これはクセのようなものだ。


「あの、何かお探しかと思いまして」


挨拶を浴びせてきた店員とはまた別人らしかった。

僕はぎゅっとすぼめた眉をどうにかほぐして、「ああ、いや、別に」と返した。


確かに傍目から見ても私が何やら探していることは明白であっただろう。しかしいちいちそれを聞きにくるとは珍しいものだ。


店員は、僕が言外に拒絶の意思を示したのには気がついているけれど、かと言ってもう話しかけてしまった手前、やすやすと引くこともできないという体でウジウジ立っていた。


僕はその人が立ち止まっている数秒間がとても心にこたえてしまって、さっさと脇を抜けて通り過ぎようとした。


するとその人は聞き取りづらいくらいの声で「赤い本のことではないでしょうか」と言った。


「え?」

「図、星ですか」


店員は両手をエプロンにひとしきりなすりつけて、僕に向かって頷いた。


「はい、ええ、そうです……」

驚くと、素直な答えを口走るものだ。


「ああ、やっぱりそうなんですね」

店員は少し嬉しそうに言った。「…あなたもですか」


「あなたも、とは?」

「はい、実は数ヶ月前、同じように本を探している方がいらっしゃいまして」


唾を撒き散らすような人物ですか、と訊きたかったが、それは飲み込んだ。

代わりに僕は「人気な本なんですね」とだけ言って、店員に対応を任せた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ