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背表紙の赤い本が目に入った。
その瞬間、頭の中にぱっと閃きが起こった。
赤い本。
大学の試験問題が詰まっているあれではない。
また別の赤い本。
通称ではなく「赤い本」という題名を持つ本。
その本について、僕は実際のところを全く知らない。
知っているのは、どうやら面白いらしい、という曖昧な情報だけである。
その本について知らされたのは四日前、いや七日前だったか、もしかしたら一年前かもしれない。
確か、「〇〇の作り方」について書かれた本だと言っていた。
何かと何かを捏ねて、それから放置して、その後熱したり、冷ましたり、と、実に詳細に〇〇の作り方が書かれているのだそうだ。
不思議と〇〇の部分が何だったのか全く思い出せない。
誰に聞いたのかも思い出せない。
なぜなら僕はその本についてほとんど興味を抱かなかったから。
顔を赤色にして唾を飛ばしながら僕にその本の面白さを語る、そういう光景は思い出せるのに、その人物の顔容は薄もやの向こうに霞んで見えない。
それなのに、「赤い本」という題名だけはやけにはっきりと頭の中に残っている。
本の内容が面白いことへの期待は今も無い。
僕はその「赤い本」を探すことにした。