表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bibidebabide  作者: 師走
3/25

3

さらりと自転車から飛び降りて駐輪場へつける。


着いた場所は本屋だ。


本屋へ行こうと思って自転車に乗ったわけではなかったが、サドルへ跨る以前からここへ来ることは自分で気づいていた。



今日の穏やかでない心がここへ向かわせたのかもしれない。結構なことだ。



店の入り口には赤字で「新刊入りました」、とあって、恐らく人気があるであろう漫画の名前が書かれている。


僕は自分が恥ずべき存在だと言わんばかりに俯いてズンズン歩き、文庫本の置いてあるスペースへ出向く。


「いらっしゃいませーぇ」

背中に声が掛かった。


こういうのは困る。

僕は逡巡して、振り返った。


店員は棚の向こうにもう隠れてしまっていて、目は合わなかった。

それを知って、やっと少し安心した。


そして今度は怒った人のような格好で、適当に見繕ったページの短い本をペラペラとめくる。


いきなし途中から読み始めているので、だいぶん展開が進んでいる。

数行目を通したのち、ため息をつきながらそれを元あった場所へ返す。


僕が抜き取ったその場所にはぽっかりと穴が開いている。

これは、つまり空間の歪みだ。有るべきものが無い場合の、成れの果て。


しゃんと立っていたはずの本達は、その穴につられて傾いていた。

そこへまた本を戻す。

傾いた本達を持ち上げ、ねじ込むと、こちらの息さえも詰まるような気がする。


しっかり塞がってしまうと、今度は買うための本を探すことにした。


本屋は本を買うための店であって、立ち読みをするべきところではない、と少なくとも僕は考えている。だから立ち読みをした本を買うことはない。


ケータイと金と幾つものカードが入った財布。

僕はこの馴染みの財布のことは好きでない。直球で言ってしまえば、嫌いということになるだろうか。


しかし買い替える気は起こらない。必要がないからだ。それに、新しい財布を嫌う可能性は、好きになる場合よりもずっと高いと思っている。


財布の紐を握ると、ようやく店内の本来の姿がゆっくりと現れてきた。

あくせくしていては全く捉えられないこの広さ。


辺りを見回す余裕が出てきたということだ。

僕以外の客は数えるほどしかいない。そういう時間帯だ。

だからこそ、先に店員は僕に挨拶したのだ。


なんだか悲しくなった。

気持ちがヒトトコロに居たくないと言っている。

怒った後は悲しくなろう、と僕を誘っている。


そして足は重りをつけたように鈍くなった。

腑抜けた悲しさがほとばしるうちに、色んな本のタイトルを眺めて歩く。

文字の1つ1つがよく見える。店員の顔もきっと直視できるだろう。

うまくできている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ