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「これは」
「……4章目が、ありませんよね」
ありませんね、ではない。
確認の意図を持ってそう言っている。
「もしかしたら、さっきまでの一連が。」
「そう思います」
とすると、第5章はこれからの話だ。
「……まだ、続くのか」
「かも、しれません」
こんなに疲れている。
そう何度も立て続けに揉みくちゃにされていると、原形をとどめることができなくなりそうだ。
それが考えすぎだとしても、疲弊は人間を消極的にしてしまうものだ。「もう嫌だな。やめてほしいな、ほんとに」と、はっきり思う。
「でも、内容はまだわかりませんよ。そんなに激しいものでもないかもしれません。一見して日常生活が戻った風になる可能性だってあるんじゃないですか」
佐々木は前向きに言う。
「…僕がここを動かずじっとしている間は、第5章も始まれないだろうな」
「と思って、私もここから動かずにいるつもりでいます」
とは言え、永久に不動でいることは非現実的だし、やはり苦痛を伴う。
二人はそれでもなんとか逃れようと、ほぼ白紙の落書き帳のような赤い本を凝視したまま立ち尽くしている。
特に、佐々木は危うい。
阿部はレジから様子をうかがっていて、始めこそ業務の一環だろうと認めていたのだが、そろそろ組織的なサボりを疑いだしている。