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町内で一番大きな交差点に差し掛かった。
僕を抜いた自動車はすでに遠く、一点透視の道の彼方に霞んで見えなくなりつつある。
それなのに僕の鼻には排気されたガスの匂いがまとわりついている。
なんてひどいことをするのだろう。
鼻の粘膜がひりつく。
ガスの化学物質を吸入してしまったのだろう。
恐ろしいことだ。
吸入された化学物質は鼻の粘膜に浸み入り、僕自身の血流に乗って脳髄脊髄にまでも届き、今まさに悪さをしているかもしれないのだ。
更に忌々しくもそれら物質が及ぼす影響の全容を僕は知り得ない。
今の気分がひどくささくれているのも吸収した化学物質のせいかもしれないのに、僕はそれを確信することができない。
同様に物質のせいではないと確信することもできない。
なんとこの一時だけで少なくとも二つのできないことを僕は実感させられているのである。
そんなことはほんの一寸だって望んでいないというのに。
なんという敗北感、劣等感。屈辱の怒涛だ、辛苦の脅威だ。
だから、だから自動車には会いたくない。
今決めた。
僕はそういう理由で自動車には会いたくないのだと今決まった。
どこかに他の理由があったようにも思うが、恐らく思い出すことはないだろうから、今はこの理由こそが僕が自動車に会いたくない最大の理由だと言い切ってやろう。
信号機が黄色く点滅している。
とは言っても、この信号機は今さっき点滅を始めたわけではなく、昼夜問わず年中無休で点滅しているのだ。
そう、各自で注意して進めよというやつだ。
注意するべき自動車はもういない。交差する通行人も今はいない。
だからこうして横断歩道を前にして永く停止している必要は全くない。