15
いつかぶりに頭を起こす。
手鏡がそばにあったので見てみると僕の顔は鳥のそれである。
木々が行き交い、 どろりと溶けて最後には何も残っていない。
終わり方が美しい。締まりがいいとはこういうことだ。
トンネルがこちらへ来い来いと手招きする。
僕が行くのを渋っていると、 仕方ないなと、 あちらからやってきた。
数限りなく増えていく楕円のブヨブヨしたやつの、そのうちの一つが自分であると発見した時、僕はブヨブヨと震えていた。
短い。長い。
私が近づいた時、もうお客様は干からびたようになってしまっていて、「何を感じているのですか」と尋ねても、やあやあ、と叫ぶばかりだった。
赤い本、君がやったのか。
こうなるのか。
これは全く 見当違いも甚だしいところで、ただ単に私の恐れからなる妄想に過ぎないのだが、この六面体はお客様右手の内側で呼吸をしているようだった。
首筋に触れてみると燃えるように熱い。
突如、お客様はガバリと跳ね起きて両手をジタバタとまわしたかと思うと一歩二歩進んで、四つん這いになった。
私は彼の耳元で「今日は休日なんです」と話してみた。
するとお客様は、顔をちらりともこちらへ向けないで、へえ、とわずかに答えた。
「ずっと外にいると大変じゃないですか」と聞くと、そんなことはない、と断言する。
聞こえているのだ。今お客様は、私の言葉を聞き取っている。
「何か食べますか」と言ってみると、何かあるのか。
オウムのように聞き返された。
あるんですよ、行きましょう。
私は、数日前より彼がずっと面白そうな人物になったと感じていた。
頷いたお客様は、すっかり目を閉じきっていた。