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bibidebabide  作者: 師走
13/25

13

「今あなたが作ってるものが何か、それは簡単なものです。この本の続きですよ」


佐々木はあっさりと言う。


「ということは、僕が今言った内容」

「そう、それそのものです」


重大で、大切なものです、と佐々木は繋げる。


「じゃ、これで終わり?」

「まぁ、ひとまずはそうですね」


拍子抜けした。

もっと具体的な何かを創造するのかと思っていた。


「終わったんだ…」


始まりかたにしては実にあっさりした幕切れだった。

赤い本は、僕の思い浮かべた空間を足して完成したということだ。そのための本だったのだ。


「お疲れでしょう。帰り道はわかりますか」


言われて、体にどっぷりと疲弊がたまっていることに気づく。


「…帰れます?」

「え、あぁ、うん」


二度目で答え、僕はとぼとぼと歩き出した。


「待ってください。自転車が忘れられていますよ」

「ああ、そうだった」


引き返して、自転車を引きずると、金属が擦れたギリギリという音が鳴った。

スタンドが立ちっぱなしだったのだ。それをガチャンと倒す。


「さようなら」

「……さようなら」


得られるものがこれっぽっちだという不満すら感じ得なかった。

いいんだ、これで。

赤い本の体験をやったのだから、そぅ、これでいいんだ。


「この本はもう使わないでしょう?」

「…え?……あ、はい」

「真理、みたいなものですよ。一言で言い切れるようなものじゃないですが」


赤い本を指差す佐々木。

僕はどうにも返す言葉が見つからず、そのまま背を向けて自転車を引きずって歩いた。







そのうちに、妙な物がちらほら目につきだした。

道端に白い波がたっている。


帰り道を行っているのは間違いないのに、それだけで初めて通る場所のような気がした。



スコン!!


野球のボールが打たれた音が、頭に響く。



遠くの方からぼんやりと、やたら長い白い電車がやってくる。

窓がついていたが、そこには誰もいなかった。

その電車が通過した勢いで、波はなお激しく揺れ動く。


それがすっかり収まると、夜だというのに、僕の周りがとてつもなく明るく光り始めた。


目を細めて上を見ると、どうやら巨大な星が落ちてきているらしい。



地面に平伏し、体を丸めて何秒間かその姿勢でいた。

その後、ゆっくり顔を上げると、星はすっかり天高い位置に戻っていた。



ヒョコ、ヒョコ


片足の少女がやって来た。

僕の前で止まると、トントンと足踏みし、クスクスと笑って背中の上を飛び越えていった。



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