13
「今あなたが作ってるものが何か、それは簡単なものです。この本の続きですよ」
佐々木はあっさりと言う。
「ということは、僕が今言った内容」
「そう、それそのものです」
重大で、大切なものです、と佐々木は繋げる。
「じゃ、これで終わり?」
「まぁ、ひとまずはそうですね」
拍子抜けした。
もっと具体的な何かを創造するのかと思っていた。
「終わったんだ…」
始まりかたにしては実にあっさりした幕切れだった。
赤い本は、僕の思い浮かべた空間を足して完成したということだ。そのための本だったのだ。
「お疲れでしょう。帰り道はわかりますか」
言われて、体にどっぷりと疲弊がたまっていることに気づく。
「…帰れます?」
「え、あぁ、うん」
二度目で答え、僕はとぼとぼと歩き出した。
「待ってください。自転車が忘れられていますよ」
「ああ、そうだった」
引き返して、自転車を引きずると、金属が擦れたギリギリという音が鳴った。
スタンドが立ちっぱなしだったのだ。それをガチャンと倒す。
「さようなら」
「……さようなら」
得られるものがこれっぽっちだという不満すら感じ得なかった。
いいんだ、これで。
赤い本の体験をやったのだから、そぅ、これでいいんだ。
「この本はもう使わないでしょう?」
「…え?……あ、はい」
「真理、みたいなものですよ。一言で言い切れるようなものじゃないですが」
赤い本を指差す佐々木。
僕はどうにも返す言葉が見つからず、そのまま背を向けて自転車を引きずって歩いた。
そのうちに、妙な物がちらほら目につきだした。
道端に白い波がたっている。
帰り道を行っているのは間違いないのに、それだけで初めて通る場所のような気がした。
スコン!!
野球のボールが打たれた音が、頭に響く。
遠くの方からぼんやりと、やたら長い白い電車がやってくる。
窓がついていたが、そこには誰もいなかった。
その電車が通過した勢いで、波はなお激しく揺れ動く。
それがすっかり収まると、夜だというのに、僕の周りがとてつもなく明るく光り始めた。
目を細めて上を見ると、どうやら巨大な星が落ちてきているらしい。
地面に平伏し、体を丸めて何秒間かその姿勢でいた。
その後、ゆっくり顔を上げると、星はすっかり天高い位置に戻っていた。
ヒョコ、ヒョコ
片足の少女がやって来た。
僕の前で止まると、トントンと足踏みし、クスクスと笑って背中の上を飛び越えていった。




