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手の細部を追ううちに、僕の視線はそれから素直にも引き剥がされた。
大きな力に浚われて。
まぶたにも重みが存在していたことを思い出すように暗い世界へ没入する。
ただ黒い闇だけではなく、青緑色の残像が蠢いて見える。
だが、本に書いてあることはまさしく正しかった。
結局、僕は目を開ける段階にまで進んだのだ。
「……」
夜になっていた。
空にぼつぼつ星が見えた。
そして後ろから本屋が強烈な光を放っていた。
両手に抱えた赤い本へ目を落とす。
こんなに立っていても、これは落とさず持っていたらしい。
頭を少し動かしただけで、ギギイと音がしそうだった。
静かに呼吸は繰り返される。
そのうちに、後ろから声を掛けられた。
「あの、終わりました?」
…佐々木だ。すぐにあの顔が結びつく。
「第二章、をやったんですよね」
「……………」
答えない理由もないので、ただ肯定くらいはしようと思ったが、なかなか動きづらかった。
できる限りの動きは避けたいと体が言っている。
「私も実践してみているので、その先に何をすべきかは知っています。手伝いましょうか」
いや、構わない。何を手伝われることがあるのか。
そう言いたかった。でも言葉は出てこない。
「店はまだ閉まってませんから、パパッと済ませてしまいましょう」
閉店時間がなんだ。僕には全く関係のない話だ。
佐々木の都合に合わせてはいられない。そもそも、開店時間だからこそ、私と話してはいけないだろうに。
脳がどくどくと覚醒してくるようで、僕はようやく佐々木の方へ体を向けることができた。
冬ごもりから抜け出せた直後の熊みたいな気持ちでいる。
「そこまで!そこまでですよ、分かりますか。せっかく思考を停止して落ち着いたんだから、それ以上考えちゃダメなんです。この、動作を行うにあたって支障が出ないギリギリを保つのが大事で」
佐々木は私を両手で落ち着けて、赤い本をするりと抜き取ると次のページを見せた。
「ここから作成に取り掛かっていくんです。第三章に書かれてることをまとめますね。後ろの方に空白のページがあるので、そこに文字を浮かべて考えろというんです。明確な文字としてだけでなくて、何かのモヤモヤした感情が浮き出たように感じても、そのまま受け取ってください」
ほんのりと黄ばんだ空っぽのページを目の前に持ってこられる。
僕はそれを見た。




