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お茶会



 じっと庭を監視していた。


 ここは王家が主催するお茶会でよく使われる庭が一望できる場所だ。そこにテーブルと椅子を持ち込み、開始前から庭の様子を観察している。


 当然、護衛が一人ついた。この護衛は俺の暴走を止めるために置かれたものだ。

 俺は別にお茶会を駄目にしたいわけではない。ただジュリエットが心配なだけだ。あれほど可愛い娘なのだ。どこの変態が目につけるかわからない。それを阻止するためには手段を選ぶつもりはない。茶会に参加できなくても、覗き見ることはできるのだから。


 文官を一斉休暇に持ち込まなかっただけ良かったと思ってほしいぐらいだ。全員休ませると宣言した時の、国王の怒りを思い出し、舌打ちする。


 滅多に使わない常識を引っ張り出してくるものだから、少し脅しておいた。

 あんなことや、こんなことや、ちょっと変態じみた行為をばらされたくなかったら協力しろと。

 具体例を指折り数えて教えてやれば、最後は涙目だった。おっさんの涙目などちっとも美しくない。殺意が芽生えたぐらいだ。最近の突発の仕事を作り出す元凶でもあるので、少しのことでイラつく。


 当然、国王だけでなくあらゆる人間から反対にあった。すったもんだした末に勝ち取ったのが、この庭にいる権利だ。決められた位置ではあったが、観察できないよりはよほどいい。


 時々テーブルと椅子を調整しながら、しっかりとジュリエットの見える位置に移動する。ジュリエットはこちらに一度目を向けたから、きっとこれ以上動くことはないだろう。あの子はとても聡い子なので、俺がどうしてここにいるのかも悟っている。


 ジュリエットがちらちらとこちらを気にしている。隙を見て小さな笑顔と共にひらりと手を振ってきた。淑女としてはありえない仕草だが、俺の心は打ちぬかれた。


「はう……!」


 絵心のない自分を嘆いた。絵の才能があればあの可愛らしい様子を写し取ることができるだろうに。


 そんなどうでもいい後悔をしながら、和やかに進むお茶会を眺めていた。中央には王族である王妃と側室、それから今日の主役の二人の王子がいた。令嬢たちはそれぞれの工夫を凝らした贅を凝らしたドレスを身に纏い、いかにして王子たちの気を引くかを考えているようだ。


「王子の好きな色の情報を流したとは聞いていたが……ここまで一色に染まるのは面白い」


 青が好きだとハワードがこっそりと情報を流していた。二人の王子の目の色が青だったからなおさら青に飛びついた家が多かったのだろう。ジュリエットのドレスも青色だが、あれは王子の目の色ではない。俺の目の色だ。一人目立つと注意を引いてしまうので、あえて同じ色を噂させたと言っていた。


 なかなかやるな、と自分の後継者になる少年を思いニヤニヤが止まらない。


「ところで宰相閣下」


 俺の隣でお茶を傾けながら同じように茶会の様子を眺めていた部下のベイリーが声を掛けてきた。俺はそちらにちらりとも目をやることなく、反応した。


「なんだ」

「いつまでここにいるおつもりで?」

「終わるまでに決まっているだろう。寝ぼけたことを言うな」


 ベイリーの頭の悪い質問に答えてやれば、大げさにため息をつかれた。


「ジュリエット嬢は大丈夫です。ハワード殿がちゃんと側についていますよ。ですから部屋に戻ってほしいのですが」

「俺の仕事は昨日のうちに片付いているはずだ。一日ぐらいゆっくりしてもいいじゃないか」


 じろりと睨みつけると、ベイリーが肩を竦める。


「もうすでに朝の段階でいくつか仕事が積まれていました。あのペースで増えた場合、この時間までに山二つぐらいはできているはずです」

「山二つ、今すぐ焼却炉に入れてこい。俺が直接受け取っていない書類は無効だ」

「ははは、相変わらずの判断ですね。いいかもしれません」


 仕事をさせたいのか、仕事を滅したいのか。

 どっちなんだ。


 ややイラっとしながらも、再び庭へと目を戻した。


「……!?」


 驚きに目を見開いた。


 隣に座るベイリーと話した時間など、たかが数秒。

 その間に見知らぬゴミ……いや男子がジュリエットの側にいた。


 俺の可愛いジュリエットが見知らの男子に笑顔を向けている。何を言われているのか、どこか恥ずかしそうな、はにかむような笑顔だ。家で散々教えた社交向けの笑顔ではない。


 俺の繊細な胸がずきんと痛んだ。小さな痛みは次第に大きくなっていき、心臓を鷲掴みされているような痛みをもたらした。


 ここからでは男子の顔がよくわからないし、何を話しているのかも読み取れない。俺は立ち上がると、すぐさま男子の顔が見える位置へと移動した。


 ――そのドレス、よく似合っている。可愛いね。

 ――ありがとう。お気に入りのドレスなの。

 ――僕はウィリアム・フローレス。君、この間の催しに参加していたよね? 目が合ったの、覚えているかな?

 ――ええ、覚えているわ。わたしはジュリエット・ロバーツよ。ジュリエットと呼んで。

 ――じゃあ、僕のことはウィリアムで。


「勇気あるな、少年! 寿命が間違いなく半分になったぞ!」


 唇を読んで言葉にしていたベイリーが最後に小さく口笛を吹いた。


「ふふふふふふ」

「えーと? 宰相閣下、もっと心大らかに?」

「ふふふふふふ」

「あちゃー、完全にどこかにいっちゃっているな。読唇はまずかったか?」


 俺は低い声で笑いながら、頭をフル回転させてフローレス伯爵家の情報を引っ張り出していた。俺がある事実にたどり着く前に、ベイリーが先に気がついた。


「というか、フローレス伯爵、前宰相閣下の実家ですよね?」


 唯一勝てない男の顔が目に浮かぶ。意気揚々と俺に宰相の椅子を押し付け引退していった男だ。


 ふてぶてしいほどの笑みと腹をして、最後まで余裕の態度だった。引継ぎなんてなくても優秀なのだから問題ないだろうと、最終日に宰相の執務室の鍵の束を俺に手渡して出て行った。


 その後、引継ぎ用の手続きやら、書類やら、はたまた終わっていない仕事やらで大変だった。その当時を思いだし、ぐぬぬぬと歯を食いしばる。


 これはあの男からの挑戦状に違いない!


「前宰相閣下は政治からは手を引いているんですよね?」

「本人は宰相になるために中立派の伯爵家に養子に入った。引退したからとはいえ、今さら実家に近寄らないはずだ」


 そのあたりは祖父の教えを忠実に守っている。


「では彼は純粋にジュリエット嬢に好意を持っているのでしょうかね」


 二人の楽し気な様子に気が気ではない。ここから見ている限り、フローレス伯爵の息子だけではなくジュリエットも好意を寄せているように見える。


 もう我慢がならないと一歩足を踏み出した時、ハワードが二人に声を掛けた。ハワードが声を掛けたことで、フローレス伯爵の息子はあっさりと立ち去った。


 俺はいつまでもフローレス伯爵の息子の後姿を睨みつけていた。




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