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後宮妃王国総記伝  作者: 由良 椿
3/5

時の流れ

玉凜の性格設定に迷いましたが、人間じみた方にいたしました。

ですので、もしかしたらすききらいがあるかもしれませんが気に入ってくれたら嬉しいです。

「新王陛下、この度の天継(てんけい)誠にお慶び申し上げます。今日の()き日に立ち会えましたこと、この() 黄明(こうめい)慶びに堪えないところです。

一介の臣民とし忠義を尽くす所存でございます。新王陛下、耀玉国の長き弥栄(いやさか)をお祈りいたします。」


皆を見下ろせる玉座の上、豪奢な着物、華美な飾り、平凡な容姿の彼女には不似合いなほど絢爛豪華な衣装を着せられ、誘導されるがまま玉座に座らされていた。


官が次々と玉凛に挨拶をしていく。

人数が多すぎて内容など覚えていないが、これでも絞ってくれたのだという。





「本来は一言、御言葉を賜れましたら官一同恐悦至極に存じますが、なにせ何もかも急な事情ですので陛下の体調を優先し、略式とさせていただきます。天鳥が孵り民の前で誠の即位式を執り行なえる慶ばしい日を心待ちにしております。」


玉凛が物言わぬ人形として玉座に座らされる前、困った顔した男に言われた。

男の名は劉慧(りゅうけい)と言い、この国の宰相の地位にいる。


玉凛としても中流階級の出ではあるが、王宮作法などしらぬ庶民に毛が生えたいわゆる成り上がり、それも庶民よりはほんの少し裕福程度の家だった。

玉凛は本当に言葉通りの意味で考慮してくれた結果なのかは分からないが、何分何も知らない人間であるから、下手な事を言うよりいいのだろうと提案にのっている。


聞きなれない美麗賛美はとっくに玉凛の思考を麻痺させ、彼方へと思いを寄せさせる。


(お父さん、お母さん、そして陽春..。わたしが王だなんて驚いてるかな。

驚いているだろうなぁ。でも、どうでもいいか。わたし、わたし…あの家では要らない子だったたし。)


「玉凛の家はお金持ちでいいなぁ..。今度都の籍を買うのでしょう?玉凛のお母さんが私のお母さんに話していたよ!私、これからもずっと農民の籍だから羨ましい。都の籍がえらられば大学だって行けるし、将来素敵だろうなぁ。ねっ、もしかして名字も買えるのかなぁ。」


「そんなことないよ..。」

(そんなことない。都の籍の話だって初めて聞いた。私はあなたが羨ましい。優しいお父さんがいて、お母さんがいて、愛されていて。)


玉凛の家は弟の陽春が生まれた後父と母の愛は陽春だけのものになった。

いや、父は自分に似た容姿の私をもとから好いてはいなかった。

少しずつ大人になるにつれ、嫌う理由がわかってきたのた。

金で得た地位にふさわしい美しい妻。妻によく似た容姿のいい息子。

父の世界はそこで完結している。

世間体がとかく大事なひとなので、どこか適当に嫁にだすまでは平等にしているフリをしていた。

ただ、当の玉凛は平等などないことを知っていたのだが、世間に知られなければ玉凜がどのように思っていようとも父には関係の無い事だった。


母と陽春だけ連れていく旅行・母と陽春だけ貰えるお土産・母と陽春には振るわれない暴力


母は父に比べれば玉凛の事を少しは見ていたと思う。

愛しの我が子という意味ではない。

ただ単に習いの寺子屋で玉凛が他の子供よりは頭の良し悪しにいい評判があったからだ。

父が、容姿に劣等感を持っていたように美しさしかない母も学力に劣等感を持っていた。

弟の陽春は頭まで母似であったが認めたくない母は執拗に玉凛に勉学をさせたがった。

すべては近隣の奥様方に自慢するだけの事だ。


容姿は残念だか、稼ぎのいい夫。

容姿は残念だが、頭のいい子。

頭は悪いが、容姿のいい子。


「私は、あなたより幸せなのよ。」と言いたいがための行動である。




「玉凛様!玉凛様!!」


「は、はい。なんでしょうか。」


「なんでしょうか…って。いえ、とてもお辛そうな御顔をされておいででしたので。

やはり、本日に執り行うべきではなかったですね。天鳥が生まれていない今、せめて高官には周知させておいた方がよろしいかと思いましたが、わたくしの短慮でございました。王陛下の大事な御身を優先させるべきでした。申し訳ございません。」


「いえ、そんな事は..。わたしこそちゃんとできなくて..。」

「途中から上の空でしたからね。」


バシリと言われる言葉に思わず、傷つく。

けれど、けして感情を表に出さないよう振る舞えば心がいずれ忘れてくれる。


(私のせいだけじゃないじゃない。今日王になったばかりの人間が上手く振る舞えないのは私のせいなの!?上手く振る舞って欲しいならそもそも、風習を庶民と上流階級で分けるべきではないわ!!)


「…………. 一通りご挨拶も終わりましたし、今日はお身体をお休めくださいませ。」

「入りなさい。」


扉に劉慧が声を掛けると、一人の女官が入ってきた。

「お目見えしたのは一瞬と聞きましたが覚えはあるでしょうか。」


「今朝の….女の人ですね。」


「はい、先程はお見苦しい所をお見せいたしました….。

玉凜様が入る予定でした水仙の宮にて玉凜様のお世話を務めさせて頂く予定でした奏志と申します。」


「少しでも、顔を知っている人であれば僅かでもお心が落ち着くのではないかと呼びました。差し支えなければこのまま玉凜様のお世話役として王宮に配置しようかと思っておりますがいかがですか。」


「わたしは…構いません。どちらでも….。あの、王とは女官や侍女などの細かい配置も決めるのですか?」


「いえ。そのような事はございません。官の配置は官庁が王宮や後宮の配置は宮官庁が取り仕切っております。

ただ、奏志は優秀ですが今回始めて筆頭女官の地位を与えられたばかりの女官です。

王の宮務めをするには、そうですね。はっきり申し上げますと王のお力添えが必要でした。」


(つまり、わたしが一言「はい。」と言えば王がご所望した事だと、通例の出世を飛ばせるということかしら。そんな事していいのかしら。)


「…。わかりました。奏志を王宮付きにしてください。」


「御意。奏志、陛下を王宮へお連れしろ」


「はっ。玉凜様こちらへ」








-------------時は遡り辰の刻



「陛下!!主上はおられますか!」


水仙の離宮での事態を聞きつけ、上官に陛下の安否の確認を言いつけられた官が

息も絶え絶えに御所の戸を叩く。


「なにごとかっ!ここは陛下の御所であるぞ、無礼者めが。どこの官だ。」


「緊急事態だ通してくれつ」


「なんだ、騒々しい。」


「陛下っ。」


一人の若い官が御所に駆け、慌ただしく陛下に謁見を願ってきたと思えば。

顔を拝謁した瞬間、礼も取らずあまつさえ顔を青くするなどのような領分であろうか。


青年は思わず習慣で折りそうになる膝を心の中で叱咤し、常ならば不敬であると頭を伏せまじまじとなど拝見した事がないご尊顔をしっかりと確認した。

おそらく、目の前の男にとって自分の顔は一生忘れられないのではないか。

と予感を頂いて━



「新王が立たれました。陛下….いえ、凍棺様の鳥が天にご帰還されました。生与であらせられます。」


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