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後宮妃王国総記伝  作者: 由良 椿
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後宮王

彼女のそこそこ恵まれていて、そして人目には見えない不幸を抱えた人から見れば平凡な人生は鳥の一鳴きを持って劇的に変わった。


「ふふっ。でも、私あの時何よりあなたの悲鳴にビックリしてたわ。」


豪奢な着物を身にまとい微笑む少女に妙齢の女官が困った顔をする。

「そうは言いましても、わたくし本当にびっくりいたしました。まさか生きている間に新王が立たれるどころか生与(せいよ)がみられると思っておりませんでしたから。」


女官を困り顔にさせて微笑む彼女は玉王(ぎょくおう)━。

290年前、耀玉(ようぎょく)に立った王陛下であらせられる。


少女も女官も人の身では消して生きられてはいない過去に思いをはせる。




耀玉国━渓美(けいび)王朝144年のことでございました。

渓美の国は男の性の王が立たれ、国民は栄えた国ではないにしろそこそこの国として人生を往々に謳歌しておりました。


そこに一人の少女が後宮に召し上がるまで我々女官も人によっては百年近く続けたお勤めにどこか飽き飽きしながらも、これでも荒れているどこぞの誡景(かいけい)興俊(こうしゅん)のような国よりましである。と、仕事に精をだす日々でした。


当時、耀玉の王であらせられた凍棺(とうかん)様は、平民の身から王に立たれたお方で、

平民からの人気は高く反するように貴族との対立が激しい方でした。


けして賢帝の呼び声高いお方ではございませんが、愚王ではなく特にいわゆる庶民や()に莫大な人気を誇っておりした。


評価としては総合すると可もなく不可もなくでしょうが、政治の正解すべての人を満足させる策などないと一端の女官でも存じております。

確かに、凍棺(とうかん)様は愛されるべきお方だったのでしょう。


唯一、女官の立場で言わせていただくなら…そうですね。まあ、他の王に漏れず凍棺(とうかん)様も大変な女性好きということでしょうか。

ご存知の通り王位継承は、盲目の白き鳥━天鳥(てんちょう)により定められる習わしですから前王のように庶民階級出身の王が当たり前です。むしろ貴族とは名ばかり、外界━星海を越えてあるといわれる外界の国々のように”貴族“と名乗り特権階級を真似てみても、この世界に貴族の意味はなく。通常通り歴代の王のご家族の子孫としかとらえられてはおりません。

そしてご本人達の思想にかなわず、天は今だ貴族達からどの国も王を出したことはございません。


話がそれましたね。ですから、その、何を申し上げたいかというと、まあ..下界にいた際あまり女性達の瞳に映らない御方ほど後宮を豪華になさろうとする傾向がございますね。


不敬でございますか?

なれませんと…、この世界では元王陛下であらせられようとも崩御された方の悪口など不敬にはならないのですよ。

王の座を追われたと言う事は、天に見放された方なのですから。


ましてや何千年ぶりの生与など..。

正直、申し上げますと生与など余程の愚王に与えられると思っておりましたわ。







齢18になろうかという少女が一人余多いる側室の一人として後宮に召し上がろうとしていた。後宮にはすでに多くの妃達が火の華を咲かせて居たところ登場した花は貴族でもなく、高官の娘でもない。おまけに与えられたのはいわく付きの水仙の離宮というのだから、どこぞの下官が恐れ多くも、夢でも見て娘でも送ってきたのだろうと気位の高い花々と控える御付きの女官は胸をなでおろしていた。


王位継承は血統ではない。だが、王引いて妻、子。または一部の官には永遠に近い命が与えられている。ともすれば何百年政治の舞台にいる人間の寵愛の略取は死活問題といっても差し支えない。現に天永を与えられなかった側室の父親など、上の娘が気に入らないならと下の娘。かなわないなら姪。そしてさらに孫まで差し出した業突く張りもいる。


「ここが、わたしの..。」

「はい。水仙の宮でございます。玉凛様の宮でございますのでご自由にお使いください。玉凛様はお付きの女官を連れてこられないとの事、僭越ではございますがこの奏志(そうし)が身の回りのお世話をさせて頂きます。」


顔に不安以外の色を浮かべない少女。ほかの妃のように野心でも、喜色も浮かばない様をみて奏志は密かに、せっかく着いた水仙の宮の筆頭女官の地位も降ろされる日が早いな。と心でため息をついていた。

後宮といえど政治の舞台若さだけでとりわけ美しくもない少女が寵愛を受けれる可能性は低い。いや、低い方が幸せである。なまじ後ろ盾もないのに寵愛を与えられても受ける被害の方が大きかろう。奏志が今すべき事は、このひと時の主が主上、王陛下に飽きられて下界へ下げ渡されるまで女官としての働きを他の妃達に見て頂く事である。


幼さを顔に残し、不安を押し隠している気丈な少女には酷であるがこに後宮で、いやこの宮殿で真に主に仕えている人間はいないのだから。


頭を下げていた間、見られないことをいい事にけして主人に向けてよい表情をしていなかった奏志だが、いつも通り柔和で優しさを感じる表情を取り付けながら頭をあげようとしたその時だった。

せっかくつけた柔和な顔が一瞬で崩れ落ち、この世のものを見る目ではない目で少女を

正確には先ほどまでいなかった少女の肩にとまっている全身が純白の羽で覆われ長い尾を持った盲目の鳥。

天鳥が大きく鳴いたと同時に絶命したのを。


奏志は今しがた自分の目の前で起こったことが理解できなかった。

だが、口から勝手に出る悲鳴と共に長く務めた女官の業か役目を果たしていた。


「王です!新王です!生与であらせられます!!」


宮の前には一人悲鳴を上げ去った女官と絶命した鳥をみて呆然と立ちすくむ少女がのこされていた。


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