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7.なんちゃって禁断の恋

「先生」


大学の研究室。夕日の眩しさに目を細めたとき、背後から軽やかな声が聞こえた。


「どうした」


さっきまで騒いでいた生徒たちと一緒に、彼女も帰ったものだと思っていた。不意を突かれ、やや声が上ずっているのは気づかれているだろうか。


「あのね、今日、うちに誰もいないの」


うれしそうにそう言った彼女は、持っていたペットボトルを机に置いた。さっき教室を出て行ったのは、コレを買いに行っていたのだろう。


その隣には、俺が飲み干した空のペットボトルがある。


彼女は小さな声で「また置きっぱなしにして」と笑って言った。



――今日、うちに誰もいないの



頭の中で、その言葉を何度も反芻する。


それが何を意味するのか、すぐにわかった。


俺は少しだけ眉を顰め、彼女に一歩近づく。


「いないのか」


「うん。いないの」


「本当に?」


「何回も確認した」


しばらくの間、二人きりの研究室に沈黙が流れる。

ブラインドの隙間から差し込む光がゆっくりと角度を変えて彼女を照らし、俺はようやく口を開いた。


「いや、しかし、いないと見せかけているだけかもしれない」


「まさか」


疑り深い俺。これはいつものことだった。


「用心するに越したことはない。油断は禁物だ。ここで軽率な行動を取れば」


「先生」


「なんだ」


「いくじなし」


「…………」


しんと静まり返る研究室。彼女を半眼で睨むが、ふんと鼻で笑われた。


――カチャ


テーブルの上に銀色の鍵が載る。


「本当にいないのか、確かめに来れば?」


俺は素早くその鍵を取った。


「行けばいいんだろう!?行ってやるよ」


二人の視線がぶつかり合う。

セミの鳴き声がやたらと大きく聞こえた。


「じゃ、私はその間ファミレスに……」


「ちょっと待て!おまえもやっぱりいるかもって思ってるんじゃないか」


形勢逆転とばかりに俺が笑うと、彼女はあからさまに目を逸らす。


「だって!昨日みんなで除霊したけど、夜になったらやっぱりいるかもしれないじゃん!空っぽのペットボトルのフタがカタカタカタカタしたら怖いもん!」


「あれは、中の空気が温まってキャップを押し上げることで起きる現象だ!心霊研究会のメンバーともあろうおまえが、そんなことも知らないのか!」


テーブルの上に置いた空のペットボトルを指差して俺は指摘した。

あんなものは心霊現象ではない!


「はぁぁぁぁ!?先生だってビビってるんでしょう?心霊研究の第一人者とか言っても結局は空振りばっかりだしー」


「おのれ、昨日の除霊が成功したのを喜んでおきながらその態度!もっと敬えないのか!」


低俗な言い争いは続いた。が、結局は帰った部長を呼び戻し、俺たちは三人マンションへと向かうことになる。


すっかり日が暮れた頃、彼女のマンションは相変わらずの静けさだった。他の住人は「気持ち悪い」と言って引越してしまったから。


部屋に入ると、昨日までの不快な空気はない。


――パチッ


電気をつけて、エアコンを入れる。


「はぁ、涼しい」


熱のこもったワンルーム。

俺は昨日壁に貼ったばかりの霊験あらたかなお札を見て、その効果を実感した。


「ほらな。やはりいない」


すると連れてこられた鈴木部長が笑った。


「昨日は4~5人の気配ありましたよね」


彼は霊感が強い。

ポロシャツの腹を掴み、パタパタと仰ぎながら部屋を見て回る。


「でも」


「なんだ鈴木」


「こうして集まってメシ食うのって、楽しいですよね。ずっと友達いなかったんで……うれしいです」


「「「鈴木ぃぃぃ!!」」」


俺たちの声が重なった。

やたらとハモったのは気のせいだと思う。


この後、俺たちは朝まで飲み明かして親睦を深めた。





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