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6.なんちゃって待ちぼうけ

たくさんの人で賑わう夕方6時。

私は仕事帰りのスーツ姿で、呆然と立ち尽くしていた。


「まさか、ね」


今日こそは、今日だけは。


絶対に来てくれるって信じてた。


一人呟く私のことを、通りすがりの人たちは目にも止めない。


冷たい。


まるで、こんな日にも来てくれない彼みたいだ。


「誕生日なのよ……?来てくれたっていいじゃない」


来ない理由はいくらでもある。


でも、誕生日なんだから来ると思い込める理由はそれだけで十分だった。


あぁ、いつだってこう。

待っても待っても裏切られる。

どれほど呼びかけても、願いは届かない。


街角でひとり、ガクンと膝をついた。


バッグがドサッと落ちる音がするけれど、もうどうでもいい。


「うっ……ううっ……」


唇から悔しさが漏れる。

いつのまにか溢れた雫が、ポタポタと地面の色を変えた。


「この時間ならって、思ったのに。会社から走ってまで……」


金曜の夜。

飲みの誘いを断ってまで走った私は、報われなかった。


そりゃ、「今日も無理かな」と思わなかったわけじゃない。

確実に来るって保証なんてなかったし、これまでだって何度も裏切られてきた。


でも、それでも信じたかった。

誕生日だったから。


チープな理由だけれど、夢を見たかったの。


ーーポンポン


泣き疲れてうなだれる私の肩に、軽い感触があった。


ゆっくりと振り返る。


「泣かないで」


そこには、まっすぐにこちらを見つめる双眸があった。

彼は呆れている。苦笑もしている。


でも、こんなところで打ちひしがれる無様な私に声をかけてくれた。


「ん。交換してあげる」


「……いいの?」


小さな手に握られているのは、どれほど焦がれても来なかった愛しの君。


「もー、お姉さんが20回もまわすから、俺のところにコレ来ちゃったじゃん!俺はそっちのドラゴンソルジャーが欲しかったのにぃ」


ごめん。

おとなげなく20回もガチャポンまわしてごめんなさい。


「あんまりムダ遣いしちゃだめだからね、お姉さん。お母さんに叱られるよ!」


「はい、すみません」


少年は私に、推しのアクキーをそっと手渡す。


神々しい光、ずしりとした重み。

ようやく出会えたことがうれしくて、感動でまた涙が流れた。


「……おとななんだから泣くなよ」


「ず、ずびばせん」


ハンカチで顔を拭うと、少年は笑っていた。


「じゃ、帰るわ。塾あるから」


「ありがとうございましたぁぁぁ!!」


夕暮れの街、雑踏の中へ少年は消えた。


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