ある日、森のカフェで
ドンドン!!
扉を誰かが叩く音がする
ドンドン!!
扉は開かれる
「いかがなさいますか?」
私は机に伏せ、悩みこんだ。
「それは……恐縮なのですが……お聞きしても?」
「ええ、もちろん」
あたりは新品のランプに照らされぼうっと暖かい色をしている。
「失礼なのですが、それは正義ですか?」
彼は黙り込んだ。黙り込んで、そのあとこう答えた。
「はい。そのつもりですが」
「そうですか……私は確かに正義を注文しましたが、これは実に……」
それを眺め私は言う
「面白いことをいいますね。”ピザ”を注文したとして、出てきたのがモッツアレラピザだったから、あんたは苦情を言っている……」
「ああ、申し訳ない……しかしこれはトリックアートのようで、なんだか……」
私はそう言ったが、彼はどうにも腑に落ちないような表情をし、ついに返事をしなかった。
「わかりませんか? 提供しているあなたと、受け取る僕では、見え方が違うじゃないですか」
「はあ……私は同意できませんね。それだと正解の形があるじゃないですか」
彼の表情は変わらない。理解していないのではなく、納得していないのだ。
「私は、正義とは形ないものだと考えます。タバコの煙のように……」
「ほう……タバコの煙とどういう関係が?」
「私はタバコの煙が嫌いです。しかし、喫煙者にとっては魅力的な白煙でしょう」
私はコーヒーが冷めていることに気付き、カップに口をつけたのに飲まなかった。
「ああ、もうこんな時間だ。きっと、また来ますよ」
「お待ちしています」