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#6

 結局、ネルが委員長になった。

 性格的に攻撃系と考えられるが、一概に判断をしてはならないだろう。アリシア教官のような監視の専門家ということもあるだろうし、考え難いが沖田小次郎のような防御特化の可能性もあるからな。


「架神くん」

「どうしたんですか教官?」

「後悔してないですか?」

「それはない。安心してください」

「これから班として行動していくなら戦術はすごく大事になりますよね?」

「当然な話です」


 実際、二人しかいない班が不利なのは明らかだ。人を集めるだけなら誘惑系の魔法を使えばどうとでもなるのだが、それだと俺自身が楽しめないし面白味もなにもないからな。そんなことを考えていると白銀髪ボブカットに赤縁眼鏡をかけた少女が向かってくる。


「架神くんだっけ?」

「そうだ」

「班員、一人だけでやっていくつもり?」

「俺は人海戦術が嫌いだからな。誰を選ぶかは班長が決められると教官も言っていただろ?」


 言い終えた俺は再び話を吹っかける。


「お前、本当に科学七割か?」

「え?」

「三割しかない魔力でそれはないだろ?」

「私は嘘は吐いていないわ」

「なるほどな」


 おそらく特異体質なのだろう。脱げば脱ぐほど魔力が高まるとかいう変態と一緒だ。


「あのさ、俺の班に来ないか?」

「は?」


 ネルは本当に「は?」という顔をしていた。


「俺も葵も魔法使いだ。科学系が班にいると戦術面に幅ができる」

「呆れた」

「だろうな」

「架神くん、私を受け容れるだけの才能があるのかしら?」

「わからない」

「わからないじゃ駄目でしょう?」

「だろうな」


 面倒臭い。


「ただし本能的に俺を敵に回したくないから声をかけてきたんじゃないのか?」

「そうかもしれないわね」

「認めるのかよ?」

「すごく嫌な予感がする」

「そいつは正しい。その予感を信じろ」


 周囲がざわついている。まだ俺の班に入るとは言ってないんだけどな。


「うーん……ネルって何者なんだ?」

「強者よ」

「なるほどね」


 沖田小次郎級に素敵な奴だ。過信じゃなくて自負している。どんな能力なのか暴いてみたいところだ。するとネルが悪辣な笑みを浮かべる。


「やめておきなさい。私の得意な魔法は未来視よ。架神くんの次の手がはっきりわかる」


 なるほど確かに合点がいく。魔法の未来視で標的の行動を読み、七割あるという科学で仕留めるのだろう。


「二人ともやめなさい」


 アリシア教官が仲裁に動いた。騒がしくなった教室を放置するわけにもいかなかったのだろう。しかし入学試験で俺の戦闘を見ていたのであろう連中が口を挟んでくる。


「ネルもすごいけど……架神もやばいんだ。入学試験のときグレン先輩を子供扱いにしていたんだぞ? ただ箝口令が出ているからここだけの話にしてくれよ」

「本当かよ?」

「それで殺したんだ」

「殺した? グレン先輩なら今朝見たぞ」

「生き返らせたんだよ!」

「生き返らせた?」

「そのあとまた殺したんだ」

「なにを言ってるのか理解しているのか?」

「はっきりとこの目で見た。ほかにも証人なら大勢いる。アリシア教官だって知っているんでしょう?」

「ここまで険悪な雰囲気になると正直に話すしかないわね。本当の事よ」


 やれやれという風にアリシア教官は肩を竦めた。代わりにネルが詰問してくる。


「あなた、本当に何者なの?」

「自己紹介なら済ませただろ?」


 ネルは露骨なくらい悔しそうに俺を睨んだ。


「ところで俺の班に入らないかという話どう考えているんだ?」

「答えはNOよ!」

「はいはい、班が決まったみたいね。説明を進めるから席に戻ってください」


 ぱんぱんと手を叩いてアリシアは生徒を自席へと戻らせていく。


「それでは班長に立候補した人には【多重索敵<サーチライ>】を詠唱してもらい合否を判定します」


 班員に班長を選ばせてから合否を問うとは面白い。班長が落第すれば選んだ班員も見る目がなかったということになる。結果的に言えば七人の候補者に【多重索敵<サーチライ>】を発動できない者はいなかった。


 しかし【多重索敵<サーチライⅡ>】を詠唱できたのは俺だけである。自慢できる魔法ではないのだが、ほかと差を付けておくのは悪くない。そもそも監視なんて親衛部隊の専売特許だったからな。俺の出る幕なんてなかったんだよ。


「全員、合格です」


 アリシアの言葉を聞いて俺とネル以外の班長候補者がほっとしていた

 その後、授業が再開される。


「これはあくまで班長資格があるかどうかの試験であって実戦で使えるかまでは考慮していません。それは架神くんの【多重索敵<サーチライⅡ>】を目の当たりにしてわかったでしょう? しかしここは魔法・魔術・科学の能力を高める学校です。いずれ素質を開花させる生徒は現れますよ」


 それから本格的な学科の授業になり俺は熟睡してしまったらしい。目を覚ましたとき授業が継続されていたことだけが救いだろうか? ぼんやりとした意識の中で鐘の音が聞こえる。


「アリシア先生、班分けするということは模擬戦などもあるんですよね?」

「もちろんです」


 ネルの質問にアリシアは当然の如く返答した。


「それなら方式を教えてください」

「総当たり戦よ。だから生徒それぞれの向き不向きや班としての総合力も計れるんです」

「私の班と架神くんの班を初戦で組んでもらえませんか?」

「どうしてです?」

「お互いの戦術を知らないうちに勝負できるほうが楽しいじゃありませんか?」

「架神くんはどうです?」

「なかなか面白い提案じゃないですか? 受けて立ちましょう」


 瞬間、ぐいっと葵に腕を引かれた。


「本当にいいんですか?」

「俺がネルに負けると思っているのか?」

「そうじゃなくて実戦演習に適性分けは関係ないんですよ? 私と二人だけの班なんてミントさん怒りませんか?」

「むむむ」


 確かに一番の問題どころはそこかもしれない。しかし初戦はネル班が確定したのだから焦る必要はないだろう。俺は冷静沈着に結論を出した。


「葵が構わないなら俺は大丈夫だ」

「あとでなにかあっても私は責任持てませんよ? それでもいいんですか?」

「もちろんだ」

 

 研修という名のくらだらい授業と実習を終えた一カ月後――ディスタニア魔法学園の新入生の数班が孤島に集められていた。おそらく監視するのに適した広さなのだろう。


「見取り図はこれです。あとで知りませんでしたはなしですよ」


 アリシア教官は資料を配りながら忠告する。

 背の高い木々に覆われた薄暗い森もあれば、平野から荒野に渓谷から山まで揃っている。戦術を立てる上で参考にすればいいわけだな。


「それでは初戦はネル班と架神班です」


 アリシアが宣言するとネルが俺を睨む。


「以前に伝えた通り試験は成績に影響するので、対戦者たちを倒す勢いで頑張ってください。ただし生徒の生命に危険を感じたら即座に教官が制圧に向かい敗北を命じます」


 あくまで試験であって戦争じゃないからな。

 アリシア教官がコイントスをして裏表を問うてくる。ネルが表を選んだので俺は裏にした。手を開いて見せられたコインは表でネルの勝ちとなる。


「勝者が先に陣地を張ってください」

「そんなのいらないわ。私の班があんな二人構成の班に負けるわけないもの」

「手間のかかる委員長ね。それなら両班が陣地を張ってから使い魔の合図で開始でいい?」

「私は構わないわ」

「俺もそれでいい」

「わかりました。それなら問題ありません」


 早速ネル班が動き出し、俺と葵も孤島を駆ける。適当な場所で陣取り、使い魔の合図を待つ。

 しばらくすると鴉が上空から開始を宣言した。


「ネル班、架神班、模擬戦を開始してください」

「戦術は考えてあるんですか?」


 葵が不安げな顔で俺に問いかけてくる。


「二人しかいないんだから戦術もなにもないだろう?」


 反面、ネル班は五十人を超えている。いくら俺でも正面衝突となれば捌き切れるか怪しいところだ。命を落とすことはないにしても、葵に被害が及ぶのは忍びないからな。


「逆に葵はどう考える」

「沖田小次郎先輩に応援を要請します」

「もしそれが通用するなら模擬試験にならないだろ?」

「ですよね……ただ向こうもそれを見越して数の暴力に訴えてくる戦術を選ぶんじゃないでしょうか?」

「要するにこちら側に奇襲の機会を与える戦術は取らないというわけだな。そうなると返り打ちしかないというわけか?」

「ですから沖田小次郎先輩に応援の要請を?」


 どんだけ沖田小次郎に会いたいねん!


「それは素直に諦めろ」

「じゃあどうするつもりなんですか?」

「俺が【大迷宮<ラビリンスⅡ>】で奴らの統率を撹乱する。その後は俺が各個撃破していく。その間、葵は隠れていればいい」

「そんな自暴自棄な戦術が成功するわけがありません。魔法を切り抜けた生徒に集中砲火で蜂の巣にされるのが必然です」

「だろうな」


 それでもなんとかなりそうな気もするが、あまり褒められた戦術ではないんだよな。仮に裏を掻いたところで戦力差が埋まるわけじゃない。本当ならもっと勝利を望める案が不可欠だ。


「私が囮になります」

「なんで?」


 思わず本音の「なんで?」が出てしまった。


「えーっとですね……とりあえず【絶対強制召喚<エンド・オブ・ザ・サモンⅤ>】でしばらくは凌げる自信があります」

「ちょっと待て! なんだその魔法?」


 そんな魔法は一億二千年前にはなかったぞ。


「好きな人を強制的に目の前へ召喚できる魔法です。最近の流行りですけど本当に知らないんですか?」

「そっち方面は不勉強だった。ちなみに【Ⅴ】ってどれくらいの使い手なんだ?」

「おそらくですが……私しかいません」

「ちなみに魔法の効果は?」

「沖田小次郎先輩を召喚できます」


 こいつ……やばいくらいのメンヘラやん。


「とりあえずさ……そんな魔法を使えるならどうして教えてくれなかったんだ?」

「私の秘密兵器だからです」


 そう告げられるとなにも言い返せない。

 というか一億二千年の間に意味不明な魔法が誕生していたんだな。気を付けないと本当に足元をすくわれる可能性がありそうだ。


「それなら囮は任せたぞ。俺は隠密に各個撃破に専念する。戦術が決まったからには先手必勝だよな」

「わかりました」


 それぞれ別の方向へ動き出す。正直なところ沖田小次郎を召喚するという意味不明な魔法に頼るのは心配だが、万が一、葵の命が危険に晒されるようなことがあれば教官たちが全力で救ってくれるだろう。


 さてと。

 俺は背の高い木に覆われた森に潜伏する。不意打ちを狙うなら平野や荒野より圧倒的に有利だからだ。さらに囮の葵が逃げ込むのも身を隠しやすい森になるだろうからな。


「まずは情報収集」


 俺は【通信傍受<インターセプト>】を唱える。比較的高度な魔法だが、察知は簡単なんだよな。どこまで会話を盗めるかが勝負どころだ。


「ネル、向こうは二手に分かれた」

「当然の戦術でしょう。二人が固まっていれば一網打尽にされるだけですからね」

「どうする?」

「ABCは森山葵を攻撃、DEは本部の警戒です。おそらく向こうの戦術は架神くんの奇襲に賭けているでしょうからね」


 ほぼほぼ読まれているな。


「悔やまれるのは私の班に索敵魔法に優れた生徒がいなかったことね」

「それは失礼。もう架神と森山の居場所は把握しましたよ」

「本当かしら?」

「あくまで現状だけど見取り図に合わせると架神はA1で森山はH8にいるね」


 そいつは続けてネルへ告げた。


「私たちの会話、傍受されてる」

「それを利用して嘘の情報を流していたのだけど、あまり強硬するとこちら側に損かもしれないわね。切れる?」


 刹那――会話が途切れた。

 なるほど一筋罠ではいかないな。班長級がごろごろいるわけだ。当然の話、俺は即座に移動する。班長であるネルさえ倒せば勝てると考えていたが、なるほどなるほどそう簡単な話ではないらしい。


 どうやら舐めていたのは俺かもしれないな。

 しかしその直後に使い魔の鴉が情報を伝えてくる。


「ネル班の五名が敗北を宣言しました」

「は?」


 逡巡したものの、すぐに納得はした。

 おそらく葵を狩りにいった連中が返り打ちにされたのだろう。とりあえず【絶対強制召喚<エンド・オブ・ザ・サモンⅤ>】どんだけ強いねん!


「ネル班の七名が敗北を宣言しました」

「いやいやいや」


 もうどっちが本陣がわからないな。

 確かに新入生が沖田小次郎に勝てるわけないが、それにしても召喚されたからといって本気で戦うか? もし戦闘を強制させる能力まであるなら冗談抜きで興味深い。


「まあ考えても仕方のないことだ」


 俺は戦術を変えて森から移動することにした。あれこれ動いても敵の姿が見当たらない。いきなり十二名もやられて慎重になったのか?

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