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AR増幅・幻覚キノコ――クズアイテムの効果

「逆をやってみる。人差し指」

「はい」

 咥えた。舐める。

「あ、あ、あっ。ダメっ。舐めちゃダメっ。あっ、んんっ、ダメ……んんっ。イッ……」

「大体分かった?」

「……もうちょっとだけ、お願い」

 滑利の瞳が潤んでいた。

「ん、あ、イクっ」

 咥えてから五秒くらいだ。

「あ、あっ……はぁ。言ってる事、分かった気がする。これならね、あの……」

「言い難そうだからいいよ」

「きっと、あの、ダメになると思う」

 まだ震えていた。

「セット切り替えて。これで勧誘されたらどうなる?」

「私は、ないよ? 絶対だよ? だけど、そういう子なら……ね。おかしくなったままにもなりそうだし」

「こういうクズアイテムが関係してくるとなると、」

 滑利の横に寝た。滑利の脚の方が頭。上下逆に寝た。

「クエストっていうか何のせいで何が起きるのか分からなくなる」

「何と因果関係があるのか分からないね」

「そう。でも、ここまで解けても実際どうやって勧誘して何が起きてるのかは分からない」

 ニュースではまるで新規参入が楽しい、と宣伝してたようなものだ。

 可愛い子。笑顔。誘う感じ。

 強烈な、誘う感じ。

 もう記憶が消えても問題はないかのようなイメージ。

 誰も犠牲者が出たと言ってはいなかったし、昨日のような悲惨な報道もない。

「今日からの新規参入組は、昨日の事件自体知らないかも知れない」

 あまりニュースを見ない人も多い。

 星識は何でそんなに見るのかと言われる方だ。

 ここから先は有料、という新聞みたいなものはあるが見てはいない。

 いざとなったら調べるか。

 いや、もう知りたい。その衝動の方が強い。

「最初は無料だしARは大抵持ってる。サービスを受けて二週間は何の情報も要らない。メールアドレスくらいだ。その間にさっきのキノコ貰えば、どうかな」

「星識君、探偵みたいだね」

「そうじゃないけどさ」

「あの……実験、いい?」

「こっちはAR最低限にしとくよ? それでいいかな」

 氷結の石、だ。普段から全部入れてある。なぜかレア度が高い。

 フロストドラゴンを倒さなければならないというのも厳しい。

 要らないだろうからだれも狩りには行かない。

 二人で散々狩った。今では召喚も出来る。

「うん。二人とも正気じゃないと危ないと思う」

「二人での実験方法があればやってみるけどね」

「え、えっ。私は、その、いいけど」

「自動的にアイテム食べるの居たな。絶対要らない系だ」

 解が二つ浮かんだ。

「黒い牙。アイテム消費はする。でも一回死なない。痛いけどな」

「それ、入れとこう。ね。痛いくらい何でもない」

「後は腐り石。何であるのか分からないけど、」

「外せないアイテムも五分に一個壊す。ね」

 メインスロットは十個。腐り石で一つ。残り九個。四十五分で全部消える。

「そんなに耐えられるか、だな」

「や、やってみる?」

「滑利の実験は?」

「腐り石のが出来れば、いい」


「セットした」

「私も」

 発狂するんじゃないか。恐怖が先立つ。

「あんまり凄いことはしない。約束だ」

「……うん」

 シャツもジーンズも脱いでいた。

 滑利も下着は付けている。

 四十五分で目覚ましもアラームも鳴る。もう一分くらいは消費しただろう。

 ただ、頭を撫でる。

「……んっ、あっ」

 滑利が身体を密着させる。

 汗か何か興奮する香りに包まれる。これもARか?

「ああっ、あっ」

 お互い身体を密着させただけで痺れるような感覚がある。

 滑利はどうしようもないから必死で抱き締めているのだろうが、それが却って興奮状態を上げる。

「キ、キス……」

 顔を寄せた。衝動でキスする。

「ん、んっ、んんっ、んっ」

 意識が蕩ける。痺れる感覚と陶酔する感覚しかない。

 これは、強引に止めないと一日中でも続ける。

 その考えも薄れていく。

 肌。触れ合いたい。溶けてしまいたい。

 気が付くと白い裸の胸を掴んでいた。

「ひっ、ひあっ、ひっ、ああああっ」

 悲鳴に近い滑利の声。

 たぶん乳首を舐めた。

「ひっ、ひぐぅっ、ひぐっ、イッ、アアアアっ」

 それだけで何度も全身が反る。痙攣する。

 ――これは、狂う。

 自分が何をしていたのかが分からない。

 ただ、このままでは狂う、一瞬だけそう思った。

 セットをAR最弱まで下げた。

 言葉が喋れないだけでなく浮かばない。

 ――依存症になる。

 そうも思った。

 何もしなくても滑利は痙攣し続けている。

 最後だ、と思って胸に舌を這わせた。

「まら、ひぐぅ、ひぐっ、ひっ、あ……あっ」

 人のセットまでは変えられない。

「檻も要らない。帰るなと言う必要もない」

 罪悪感はあったが滑利のお腹を撫でる。

「あああ、あああっ、あっ、ひぐっ、ひぐううううっ」

「一日もあれば人間じゃなくなる」

 五分でこれだ。

「ああ、あああっ、あっ、触ってっ。お願いっ、あぅ、あっ」

 目を剥いている。もう意識はあまりない。

 それでも感覚は腐り石で減っていく筈だ。

 泣きながら触るように頼む滑利を宥めて、四十五分待った。

 目覚ましでもアラームでも正気に戻らない。

 不安になる。

 五分で行ったきりになるのか?

 滑利には可哀そうだったけれど風呂場まで運んで水を浴びせた。

「あ……あっ、はっ」

 まだ痙攣は続いていた。収まっていく。

「帰って来た?」

「ん……んっっ、星識くん酷いっ」

「水を浴びせたのは謝る」

「そうじゃなくて……触ってくれなかった」

「続けてたら入院レベルだと思う」

「それでも……」

「良くないよ」

 滑利の唇から涎が零れている。

 シャワーの水滴ではない。

「また……いつか、五分でいいから、ね」

 正面から拒否はしないでおく。

「いつか、な」

「うん……絶対、ね」

 要求でもあり、請願でもある。

 手に入れる為なら何でもする、そういう目だ。

「……そうだね」

 見えない檻だ。やろうと思えば、これだけでもこの家から一歩も出ない滑利を作れる。

 どんな命令でも聞く。

 そうなる。

 滑利は完全には戻って来ていない。

 変わってしまった。

 必ず元に戻す。そう誓った。

 五分でまだ良かった。

 一日。もう、誰も戻れない。

 呼び出す。無料でインストールする。

 買ってきただろう幻覚キノコをスロットに全部入れる。

 後は思いのままだ。

 意識が戻る時もあるんだろう。

 誰かを呼び出したければ単にスマホのロックを外せというだけでもいい。

 成りすまして呼び出すだけだ。

 指紋? 眼底?

 生体認証の一切はむしろロックを外しやすくするだけだ。

 一度呼び出して強引にでも引き込んでしまえば。

 二度と帰りたいとは言わない。

 男もそうだろう。正気を保つのが難しい筈だ。

 氷結の石の値段を見た。

 氷結の石は倍くらいの値段だった。

 簡単に買い占められる。

 需要はそんなに無いのか。

 通常の使い方ならば狂うほどではない。

 仮にそうしておく。

 星識は常にフルだ。

 メインスロットではなくサブスロット。

 必要ならサブスロットを切り替えてAR強度を下げる、それだけだ。

 問題は幻覚キノコだ。値段の上限で売っている者も居た。

 まずRMTを探す。金で買う者が出る。他に手が無い。

 今日にでも幻覚キノコはゲーム内通貨では買えなくなるだろう。

 いや、もう既にRMTアイテムが主流か。

 送金はSNSでも他の何を使おうとも出来る。

 波のプリントされたタオルを滑利にそっと被せた。

 まだ震えていた。

「風邪を引いたら医者に行く時に大変だ」

 寒くはない。真夏だ。

「着替えてちょっと寝るといいよ。ご飯はあるからお腹空いたら言って」

「う、うん」

 腕を引いて、なるべく触れながら二階に向かった。

 滑利の冷たい腕が締め付けるように抱いて来る。

 ベッドでも体温くらいになるまで一緒に居た。

 一度も滑利は星識の身体を離さなかった。


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