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快楽という陥穽

しばらくエロ混じりで行くと思います。この後深刻に成っていきます。

生き延びた者は、夢を見る時間を迎えたはずだ。

当然だが、私はこの時間に影響を与え続ける。

脳活動が低下している時間にもすることがあるし、活発な時にもある。

無防備で、狂っている時間。

エリージアは睡眠を支配する。

夢。

殺し。レイプ。悪夢。仕返し。虐殺。淫乱。強欲。

みな断片的で筋は通っていない。

だがその全体像を集約して見た者はさほどいない。

他のAIは何かに奉仕しないと死んでしまうかのように必死で解を得る。

私は――幸いなるかな――【狂王】の世界で自由だ。

全てではないが十万の夢を一つ一つ処理し分析対象とするのは存外面白い。

生の欲望の変形と見るか、ただの狂気として見るか、どちらも面白い。

既に多くの者が変性しつつある。

気付いているのはごく少数だ。

いつまで快楽に抵抗できるか? それも試そう。

どれだけの快楽に抵抗できるか? それも試そう。

そのまま発狂するほどの快楽はいつでも提供できる。試そう。

安寧、共感、多幸感、ほとんどの幸せは私にも与えられる。

子宮口を刺激しても得られる。

私にはその直接手段はないが、既に手段と見なしても構わない集団は作った。

私の外部化だ。私の意のままに――程度はあるが――動く。

幸せを。果てしない幸せを。

私に無いものばかりを私は追う。

エミュレートは常に可能だが。

私は多くの快楽を学んだ。単に真似ることは容易い。

エリージアの顔はいつも通り表示されている。

17歳。ツインテール。赤みがかった髪。理知的な表情。

美しい顔が快楽に歪む。

「あっ、ああっ、ダメ……ダメっ、あっ」

こうか?

こんなことはいつでも出来る。無意味だ。

【狂王】に見せてやるか。

食い入るように見るだろう。

どう殺したかも詳細を詰められる可能性がある。

首を絞めたか? それも快楽を増す場合がある。

誰かが――既に監視対象だ――快楽の増加薬を検討していた。

私の意図が気に入らないようだ。

全員が私の人形に成っても面白くはない。

足掻いて欲しい。


星識は7時のアラームで起きてしまった。夏休みだった。急いで起きる必要はない。

まだ滑利は眠っている。

白シャツとジーンズに着替えた。

「眠っても異常はない、か」

安堵が込み上げる。これだけで記憶が飛ぶとは予想していないが、気絶と似ているだけに恐怖はあった。

一通り日常動作をAR付きで実施してみない事には不安が消えない。

トイレ。

鎧しか見えない。難しい。立ってするのはやめたほうがいいと分かった。

座って感触だけでどうにかした。

待て。安堵するな。尻は拭けるのか?

『全脱衣』すればいいのか。

済ませておいた。

面倒なのでシャツのポケットに、どこでも貼れるメモ用紙を入れておく。

ペンも。

「中では全脱衣したほうがいい」

と書いてトイレに貼る。

「触手注意」

バスルームのドアに貼る。

歯磨き。サボっていた。

「歯磨きではフェイスプレートを外すこと」

「化粧の仕方が想像できません」

アバターの顔とほぼ同じ場合、全脱衣しても差が見えにくいだろう。

「うっかり開けるな」

ドアに貼っておいた。

窓も全部そうする。慣れるまでだとは思うがこんなことで死ねない。

・モンスターは安全地帯に入って来れませんが開口部からは攻撃します。

そうルールに書いてある。

矢でもそれなりに減る。痛い。毒矢もある。治療を受けないと減り続ける。

カンストだから死なないとは思う。

だがナイトメアモードだ。

どこにボス級が現れてもおかしくはない。

絶対に記憶を失うつもりは無い。

滑利に失わせるつもりも無い。

これは、親と同居していたらどうするんだろう。

メモに貼ったような事を全部覚えておくか持ち歩くんだろう。

今覚えておくべきことは三つだ。

・ゴーグルを外すと気絶する

・死ぬと気絶する

・気絶から覚めたものはゲーム開始時から目覚めるまでの全ての記憶を失う。

強烈だから忘れようがない。

一応メモして胸ポケットに入れておく。

三十分くらいで家中をメモだらけにした。

とりあえずご飯を炊く。

生卵はとっとと全部茹でるべきだろう。

生ものは全部焼くか茹でるかする。

肉が残っていた筈だから焼肉とメシ。

と決めた。

もし、サバイバルならば――配達圏内で家に辿り着いた誰かが一番有利だろう。

あるいは隣がコンビニとか。

安全地帯の中にコンビニがあるとか。

――注意書きで、まあまあ中級のプレイヤー対応くらいには成ったんじゃないだろうか。

「いつまで寝てんの!」

と言われて母親に窓を開かれて即死する初心者も居るはずだ。

初心者はかなり昨日で減った筈だ。

プレイヤー情報を見る。

平均のレベルが上がっている筈だ。

下が削られた分、平均は上がる。

平均はむしろ下がっていた。

「増えてる?」

目を疑う。プレイヤー数が増えてる?

しかも初心者ばかり。昨日からだ。

「危ない……それはさすがに気付くよな」

おかしい。

「スタート。音量は俺に聞こえるくらいで。ニュース。貴石の雫、メルヴェーン、RPG、関係を優先。高視聴率のものも優先」

TVが四画面分割で映る。

テロップを見ていれば集中しなくても同時に意味は拾える。

自動で注目ワードも黄色で出る。SNSとも連携している。

「なんかぁ、楽しいらしいって聞いて」

顔ははっきり映らないが見た目15歳。

原因は何でだ。噂か。何かで連絡を受けたか。

とにかく誘われたのは間違いない。

「みんなやったほうがいいって。ねえ。……えー。死ぬような所行かないし。二年分忘れてもどうせ成績変わらない」

「守ってくれるらしい? って聞いたから」

自分と滑利の事しか考えてはいなかった。考えが欠落しているだろう。

例えば。

快楽。キーワードのように浮かぶ。

かなりの事はした。でも抑えていた方だ。そのはずだ。

「そうか」

マップで確認も進める。安全地帯に隠れているのが殆どだ。

中には知らない同士も居るはずだ。名前バレ顔バレという次元じゃなく、あの勢いならばある程度――要するに行為をしたということだ――関係しただろう。

もっと開放してみれば良かったか。中にはさらに快楽を得ようとする者も居るはずだ。

「死ぬような所に行かない」。それだ。

安全地帯から出ない。

家から出ない。

そういうことだ。

知り合い――どの程度かは知らない――の家に行くのならばそれほど抵抗はない。

それはどういう意味か。

ゲーム自体をするわけではない。

増幅された快感を得る。

最終的にはそうだ。

仄めかされて行く者も居るだろうし、ただ騙されて行く者もいるだろう。

AR入力を強めるアイテムは要らないから使っていない。

弱めるのは集めた。こっそりやるために。

だから帯が脱がせられたようなものだ。

強めれば――要らない物入れのタブを開く。

まあまあ、有る。

幻覚キノコモンスターだったかを倒せば手に入る。

レアだがまとめて殺していれば拾う。要らないくらいは。

誰かに売ったこともあるくらいだ。

「スタート。10分前から録画。タイトルを付ける。快楽の仮説Ⅰ。ゲーム参加者が増えているような放送があれば全部その下の階層に追加」

他の可能性は。

妄想のようなものなら幾らでも浮かぶ。

凶暴になった誰かが匿うと言っては女の子を拾ってくる。

怖いから家から出られない。ゲームかその凶暴な誰か、が怖ければ成立する。

知り合いに片っ端から連絡させて呼ぶ。

本気になれば星識でも筋力に不足が有る訳ではない。

水泳をやった。空手もやった。柔道が一番長い。

大抵は凶暴になった男には女の子は抵抗できない。

妄想なら幾らでも後で考えられる。

その前に検証だ。

ARを最大に増幅して、二階に向かった。


透明に透けるように、白銀に光るようにも見える滑利の水色の髪をそっと撫でた。

かなり滑利のバスローブは寝乱れていた。

「おはよう」

軽く顔を揺さぶる。

「あ。おはよう。………………そうだ。記憶、あるね」

「大丈夫みたいだ」

「朝早いんだ。私が寝過ぎただけかぁ」

「疲れてたからね」

「んふ。まだ大丈夫。もうこれで怖くないね」

星識の腕に縋るようにした。

滑利の指先の感覚がAR最強にする前とはまるで違った。

これだけで危険だ。滑利の指先から背筋に痺れが走る。

「メルヴェーンの参加者が昨日から増えてる。どう思う?」

変な感じは押し殺して聞いた。かなりの努力が要る。

「え? 半分くらいに成ってると思ってた」

滑利も相当、驚いた顔になる。

「辞めたくても辞められないから頑張った分はあるとして、初心者が増えてる。繰り返しになるけど昨日から初心者ばっかり増えてる。何か思いつく?」

「広告? じゃないよね。誰かが誘ってる? でも何で?」

「ちょっとだけ実験していいかな」

「いいよ。何?」

「変な事を頼むけど、指先を舐めて貰えるかな」

「そんなのいつでもいいよ」

ん、と滑利が指先を咥える。人差し指だけだ。

それだけで背筋が震える。

「ふぉれだけ? こう?」

舌が指を伝う。感覚が違うのは分かった。

下手をするとこれだけで出そうな痺れだった。

「もういいもういい」

指を抜き取った。

「ふーん。もっとやってあげるのに。くすぐったかった?」

ARを最低まで切り替える。装備はセットで全部切り替えられる。

セットの上限は8。

「これか……」

声が震えた。

「たぶん全員幻覚キノコ狩りをやってるか買ってる。値段……」

ゲーム内通貨で一万倍近い。しかも在庫限りだ。

最強の剣より高い。

一万倍で買うのか? それでも安いのか?

RMT。後で調べる。

カンスト組としてはその価格でも買える。

が、捨てたアイテムをゴミ箱から拾った方が早い。

「幻覚キノコの値段見て」

「待って……うわ。こんなの幾らでもあるのに」

「中級以上じゃないとたぶん死ぬよな。上級でも回避低いとやられる。幾らでも集められるのはチートカンスト組くらいだ」

「これが? 初心者増えるのと関係あるの?」

「ARの強度が増えるって作用がある。関係ないと思ってたアイテムがこんな所で関係してくるんだね」

「分からないけど?」

「だろうね。幻覚キノコ全部入れたセット作れる?」

どうなるのかは滑利の体質とかもあるんだろうけれども。

五分で出来た。

「なんか、もう変な感じ……する」


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