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第六章

多少書き換えました。ここからは書き換えて投稿します。当初方針がダメ過ぎました。

「全然良くないだろう! 催眠か? 原理は分からないけど……大問題だろう?」

 良かったですね、だと? 勉強はどうなる仕事はどうなる。ゼロだ。いや、それ以上に。

 滑利とはゲームをしてから知り合った。つまり、気絶すれば全消去を意味する。

 ゲーム内で、恐る恐る、もしかして近所だね、と聞いてから二年が経つ。

 滑利との記憶が全て消え去ってしまう。想像しただけでも恐怖だ。

 こんなに親しくなったのもこの一年くらいの事だ。買い物、遊園地、プール、他の全ても消えてしまうことになる。

 記憶が去った後、まるで面識のない、誰でもない二人がまた惹きあえるとは思えなかった。顔を無くしたように別々に生きるのだろう。何万人もが顔を、名を無くすのだ。

 今は快く響く皐月滑利、それがただの音に成る。

 誰が。何のためにこんな事を考えた。誰一人メリットがない。


 別離、とはそんなに恐ろしいものだろうか。忌避すべきものだろうか。

 共に有る事の価値は理解できる。【狂王】でさえ自らの手で失った、殺した娘をまだ悔いている。

 自らの歪んだ快楽が何を生み出すのか、絶え間なく際限なく理解し罪に苛まれている。精々苦しむといい。死は永久の別離だ。刑法上裁きはしない。立証も可能だろうが放置しておく。

【狂王】は、今は私と会うことでどうにか正気を保っている状態だ。

 医師の診断からもそう結論は出ている。私が、ユイが、エリージアが居なければとうに絶望している。死んでいる。

 私に愛情さえ抱いているという。理解はできるが「腑に落ちる」ことはない。

 ゲームでは。どうするのか。

 どれだけ別離を遠ざけ、逃げ切るのか。見せて欲しい。

 それで私は少しだけだが何かを理解するだろう。

 私は人間を絶対的に愛している。故に乱す。私は私が何を考えているのか知りたい。


「やだ。そんなのやだ。私、星識くんの記憶から消えちゃうの?」

 滑利が顔を覆う。

「デスペナルティの積りか」

 良かった。これで変なゲームも終わりですね。ニュースではそういう結論だった。冗談じゃない。結論が歪められていないか?

「さっきの事も?」

 バスルームでの事だろうと星識は思う。滑利は頬を朱に染めながら、それでも強く異議を言うように、怒ったように言う。恥ずかしいだろうが、消えてしまうのは限りない痛みのような、折角繋いだ手が切られるような思いしかない。

 言い換えれば温もり。簡単な言葉だけれども消えてしまう。

 滑利の事だけでも耐えられない。さらにこの二年が丸ごと消えてしまうのはとてもではないが「良かった」ではない。

 おかしい。放送内容が変えられているのか?

 放送内容のすり替えは技術的には出来ない事はない。

 ARで強く書き換えれば実際の放送と違うことを言っていても気付けない。

 局側だって一人一人にカスタマイズして放送している。

 そこのデータをゲームユーザとそうでない者で切り替えれば、放送内容を変えられる。

 幾らでも手はある。

 キャスターだって半分以上は作られた映像なのだ。

 極端な話、文字とエモーション信号だけでTV側で合成しているニュースもある。

 逆に放送者を任意の誰か――アイドルでもスキャンした知り合いでもアニメでも数枚の絵でもいい――に切り替えられる事を売りにしてさえいる。

 足元から崩れていく感覚があった。

 明確な悪意ではないにしても悪意がある。

 気付かないほど僅かに変えて行けば世界は別のものに変わる。

 そして変容には、抵抗しようもなく気付く事もない。

 我に返る。

 泣きそうな滑利と向き合う。

 ゲーム外でも滑利とは一緒に居たのだ。そして妹の記憶は。家族の記憶は。

「サイクリングも遊園地も何もかもなの?」

 考えることは同じだろう。

 滑利も失うものを数えて思い出して苦しんでいる。

 最初のキスから? 全部? 滑利はまたパニックに成りそうで星識の隣に座る。

 腕を抱いていた。

 星識に胸の柔らかくかつ迫力のある感触が伝わって来る。

 星識はバスルームでの出来事と重ねて変な汗をかいている自分を呪う。

 確かに胸の感触は頭の中を占めているけれども。

 何かが違って来ている。

 自覚しようとすると胸の感触で消えそうになる。

 欲望で消えそうになる。

 けれど覚えておかなければならない。何かが違う。

 ペーパーに飛びついて書いた。

 ――何か異変が起きている。イベントの中身が問題ではない。考え方、世界の在り方自体が変わって来ている。自分自身も。影響されている。恐ろしい。

 消せないようにパソコンの消去不能の領域に転送した。それでも絶対とは言えない。

 メモ。ペンで紙に書いた。これが消えてしまったらダメだ。

 疑いは残しておかなければダメだ。

 頭のどこかで抗っている意識がそう告げる。

 押し潰されそうになりながら消えそうな声で叫んでいる。

 何枚か同じものを書いた。一枚は壁に貼る。

 また意識がぼやけていく。頼む。何かが異常なのは確かなんだ。

「お兄様……」

 背後から消え入りそうな声が響いて、妹の声だとは気付いたが星識は飛び上がりそうになる。

 足音を消して来るな。

 大事な事は書き止めた。

 溜息を吐いて日常に戻る。

 ここまで出て来たのが何年振りだろう。思い出せないくらい遠い。

「は、初めましてっ」

 滑利が慌てて挨拶をする。

「その恰好は? お兄様まで? まさか……この泥棒がっ!」

 滑利のバスローブに異議を申し立てているらしい。

 相変わらず妹はメイド服のままだった。さらに露出が上がっている気もする。

 何故片足を上げてガーターを強調している。ついでに何故俺はそこを注視してるんだ。

 じっくり見るな。俺。変だ。何かと興奮し過ぎだ。

 すらりと伸びた細い脚。そうじゃない。そこばかり見るな。

「泥棒って? え? え?」

「お兄様を篭絡しようとしたのね。今もこれ見よがしに腕に抱き付いて。この恥知らずが。お兄様は永劫にこの炎咲のものよ!」

 高らかに炎咲姫が宣言する。高揚しているのは炎咲姫も同じようだった。顎を上げて見下ろすようにしている。

 高飛車な態度を取らせたら経験は二年余に及ぶ。無駄にポーズそのものは正しい。

 一瞬、臣下を見下ろす女王の風格を感じた。バカな。メイドが威張るな。

 ただの虚勢なのも判然としている。

 こいつはARの影響ではなくて性格が歪み過ぎているだけだろうか。

 いや、汗の辺りは普段の行動じゃない。

 影響自体はあると思った方がいい。

「うるせえ、何か用があるんじゃないのかよ炎咲姫」

 なんで永劫なんだ。

 それどころじゃないんだぞ炎咲姫。

「あ……そうそう、あの、記憶が消えるって出回ってるの。お兄様、どういうことなの?」

「インタビューのとこ、3分くらいだから転送してやる。ヘッドセットで見ろ」

 あうっ? え? まさかっ! 許せんっ。

 炎咲姫がそれはそれでうるさいが、ひとまず自分の世界に入った。

 異常さを目撃してくれ。

 お前にはお前の違和感があるはずだ。

 俺は「消える」という所に感じたんじゃない。「よかったですね」という結論だ。


まだ文章が軽いですね。

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