【88】
精霊の里改め、サーヴァンティル精霊国。
『━━━と言う訳で、ヴィル坊達はハイエルフの里に向かった次第じゃ。こちらに何かあった時は報せて欲しいと言うておったぞ』
ヴィルムの送還で帰還したラディアは、謁見の間とも言える大樹の元に鎮座するサティアに経過を報告していた。
その両隣に側近であるジェニーとミーニが控えており、ラディアからの報告を吟味しているといった様子である。
『ハイエルフ族がメルディナ殿を、ですか。プライドの高いあの者達が、エルフ族である彼女に固執する理由がわかりませんね』
『う~ん・・・むしろ、プライドを傷つけられちゃったから許せない~って感じなのかな~?』
『何にせよ、ラスタベル女帝国との繋がりが濃厚になった以上、放置する選択肢はありません。ヴィルム殿達には、このまま調査を行ってもらいましょう。ラディア、御苦労様でした』
労いの一言を受け取ると共に、ラディアの雰囲気が目に見えて弛緩する。
『・・・ふ~、相変わらず堅苦しゅうて敵わんのぉ。ジェニーよ、もちっと何とかならんのか?』
『こ、こらラディア! まだサティア様との謁見が終わった訳ではないんだぞ!』
肩が凝ったとばかりに揉みほぐしながらだらけた顔になるラディアを叱るジェニーだが、当の本人は気に止める気配すらない。
それどころか、その場で胡座をかいて座り込み、頬杖をつくと楽しそうに笑い始めた。
『かっかっかっ! お主は肩肘を張りすぎじゃよ。ほれ、母上をよく見てみぃ。すでに儂らの話など聞こえておらん』
『はぁ? 何を言って・・・あ・・・』
ラディアの指摘に怪訝な表情で振り返ったジェニーは、視界に入ってきた光景に思わず絶句してしまう。
そこには、生気の感じられない瞳で虚空を見つめながら、か細い声でぶつぶつと何かを呟く、女王としての威厳が微塵もなくなってしまったサティアの姿だった。
『ヴィルくんが帰って来ないなんて何でそんな事にだってこの前帰って来たばかりだし出発する前にすぐに帰って来るって言ってたから帰って来たら一緒に遊べると思ってお仕事頑張って終わらせたのに帰って来ないなんて何でそんな事に━━━』
『サ、サティア様、お気を確かに! だ、大丈夫です! ヴィルム様ならハイエルフ達との一件が片付いたら、すぐに帰ってきますから!』
呪詛にすら聞こえる呟きにある種の危機感を覚えたジェニーが慌ててフォローを入れると、それまで微動だにしなかった彼女の身体がピクリと動く。
それと同時に呪詛も止まったかと思うも束の間、次の瞬間、まるでカラクリ人形のように首だけが回り、光の失われた瞳がジェニーを捉えた。
『ひっ!?』
『それが片付いたら、ヴィルくんは帰って来るの?』
『え、えぇ、もちろんです! ヴィルム様もきっと帰りたいと思っているはずでしょうから!』
本能的に怯んでしまったジェニーだが、能面のような顔で自分を見つめるサティアに顔を引きつらせながらも、何とか落ち着かせようと説得を試みる。
その説得が効いたのか、サティアの瞳に光が戻ってきたのを見た彼女はほっと胸を撫で下ろした、のだが━━━、
『だったら、私達がその原因を片付けてしまえば解決ね! ヴィルくんの大事なお友達を拐おうとする輩なんて、サーヴァンティル精霊国の全戦力を持って殲滅してあげるわ!』
斜め前方上空一万フィートをいくその決断に理解が追い付かず、一瞬、意識が飛んでしまった。
『・・・はっ!? や、やめてくださいサティア様! ミーニ! ラディアも! サティア様を止めるのを手伝ってくれ!』
暴走し始めたサティアを止めようとしているジェニーがミーニとラディアに助力を乞うが、当の二人は自分達の話に夢中で聞こえていないようだ。
『それにしても~、ヴィルム様はよくハイエルフの特性に気付けたよね~。手掛かりなんて、あの首飾りと死んだ時の状況くらいしかなかったんでしょ~?』
『うむ。儂も里の誰かが教えておったのかと思ったわい。ヴィル坊の推測が正しいと知った時のメルディナ達の顔は見物じゃったの』
『ミーニ! ラディア! 聞こえてるんだろ!?』
尤も、ちらちらとジェニーの方を見ては意地の悪そうな笑みを浮かべているあたり、意図的なものを感じるが。
『ヴィルくん待ってて! すぐにお母さん達も行くからね!』
『行きませんし行かせません! 不用意な行動はやめて下さ~い!』
その後、サティアを落ち着かせる為に、相当な時間と労力が費やされたという。
短めですみません。
最近サブタイトルが合ってない気がします。
よくよく考えた結果、無理に変なサブタイつけるならつけない方がいいんじゃね?という結論に達しました。




