【87】黒幕ラディアさん
『なるほどのぉ。儂がおらん間に、そのような事になっておったのか』
「ゼルディア王には大体の事情を話したよ。本当なら一度帰るつもりだったけど、このままハイエルフの里に向かう事にする。ラスタベルとの繋がりが濃厚な以上、放っておく事は出来ないからね」
ハイエルフ達の襲撃があった翌々日、十分な休息をとったヴィルム達は、ディゼネールの面々を国元に送り届けて帰って来たラディアに事情を説明していた。
事情聴取の際、同盟国として協力を申し出てくれたゼルディア達だったが、ラスタベルに加えてディゼネールの支援に手を回す事になった彼らにはあまり余裕がないと判断した上で、丁重に断っていた。
「それで、戻って来たばかりで疲れてる所悪いんだけど、ディア姉はこのままメルとミオを連れて、この事を母さんに報せて欲しい」
「えっ、私も!?」
『何でよ! ワタシだってメルを拐おうとした奴らをやっつけたい!』
「あいつらの狙いはメルだったんだ。それがわかっているのに、わざわざ目の前に連れていってやる必要はないだろ?」
ヴィルムの瞳にはメルディナやミゼリオを気遣う感情が色濃く出ている訳だが、当事者とその事情を知る者から見れば納得がいかないらしい。
「ま、魔霧の森程じゃないけど、私達が住む森だって結構入り組んでるわよ? 案内役は必要だと思うけど」
「フーを連れていくから大丈夫だ。ある程度の距離まで近づければ、魔力感知で大体の位置は掴める」
「じゃ、じゃあ、食糧の確保とか! あの森、結構毒のある実とかが成ってたりするから危ないわよ?」
「食糧はしっかり用意するさ。毒を含んでるかどうかは大体わかるし、最悪は食える魔物を狩ればいい」
「えぇっと・・・ほ、ほら! 私がいれば、他のエルフ達に協力してもらえるかもしれないじゃない?」
「メルの話を聞く限り、むしろハイエルフ達に協力する可能性の方が高いんだが・・・」
自身を連れていくメリットをアピールするメルディナだが、それらはデメリットを覆すまでには至らない。
ミゼリオがヴィルムの頭の上で、髪を掴みつつ『連れていきなさいよー!』と駄々をこねているが、彼の表情に変化がないのでなかなかシュールな光景になっている。
そんな中、メルディナとミゼリオに助け船を出したのは、意外な事にラディアであった。
『ヴィル坊の言いたい事はわかるがの、メルディナとミゼリオの気持ちも汲んでやってはどうじゃ? ヴィル坊とて、自身の問題が預かり知らぬ所で進んでいくのは気分の良いものではあるまい?』
「ディア姉・・・でも、俺はメルを危険に晒したくない」
『ラスタベルが侵攻してきた時は防衛を頼んでいたではないか。あの時に比べれば、まだ危険は少ないと思うがの?』
「そ、そうよ! あれだけの魔族達と戦うより、ハイエルフ達と戦う方がまだマシだわ!」
「うっ・・・」
逃げ道は用意しておいたとはいえ、命の危険がある事を承知で頼み込み、実際にかなり危うい所まで追い込まれた事実に変わりはないのだ。
今や、メルディナを家族と同等に大切な者として認識しているヴィルムにとっては痛い所を突かれた形になった事だろう。
『くっくっくっ、ヴィル坊の負けじゃな。まぁ、良いではないか。男の子ならば、好いた女の子の一人や二人、守ってやれいよ』
「はぁ・・・わかったよ。メルは俺が守る。ただ、ハイエルフ達に狙われてる事に変わりはないんだ。一人での行動は、極力控えてくれ」
「そう来なくちゃ! ・・・ん?」
ヴィルムが折れた事に喜ぶメルディナだったが、ふとラディアの発言に違和感を感じたらしく、それに理解が追い付くと同時に慌て始めた。
「ちょっ! ラディア様!? さりげなく何を言ってるんですか!? て言うか、ヴィルも否定くらいしなさいよ!」
「うん? 俺はメルの事、好きだぞ?」
「へっ・・・? なっ、なっ、なな何をっ!?」
ヴィルムのストレート過ぎる肯定に、メルディナの顔はヒノリの髪以上に赤く染まり、頭からは沸騰した水の如く湯気を発しながら言葉を失ってしまう。
その様子を見ているラディアが楽しそうにニヤけている所を見ると、ほぼ間違いなくこの状況を狙っての発言だったのだろう。
「ヴィルムさん、真っ直ぐ過ぎんだろ」
『ん~・・・まぁ、ヴィルなら許してあげてもいいかな!』
「・・・お師様は、メルちゃんの事が好きなんですね」
同じく観戦者となっていた三人だが、その反応は様々である。
オーマは気恥ずかしいのか若干頬を赤く染め、ミゼリオは何故か上から目線でうんうんと頷き、クーナリアは少し残念そうに顔を伏せた。
『おや? クーナリアはちと残念そうじゃの? ヴィル坊は少々鈍い所がある故、はっきり言わんと伝わらんぞ?』
「そ、そんな事ないですよ? お師様とメルちゃんが好き合ってるなら、私も嬉しいですし」
「クーナまで何言ってるのよ!?」
最早、先程までの真面目な空気は微塵もなく、今後の方針そっちのけでやいのやいのと騒ぐ面々。
ヴィルムの事を憎からず思っているメルディナだが、場所が場所という事もあって素直な思いを口にする事が出来ず、かといって否定するのも躊躇われるといった状況である。
そして彼女と同じくヴィルムに師として以上の感情を持ち始めたクーナリアの方は、その師と親友が好き合ってる事を知り、複雑な思いを感じながらも身を引く決断をしたといった所だろうか。
「大丈夫だよ、メルちゃん。私は二人の邪魔になるような事はしないから、ね?」
「だから~・・・あぁ、もう! ヴィルからも何か言ってあげてよ!」
何故、周囲が騒いでいるのかわからないといった様子で腕を組んで首を捻っていたヴィルムだったが、メルディナに話を振られた所で自分が感じている事をそのまま口にした。
「別に今のままでいいんじゃないか? 俺はクーナの事も好きだから、邪魔になんて思わないぞ?」
そう、自分が感じている事をそのままに。
「え・・・? ふぇぇぇえっ!?」
「ちょっとヴィル、本気!?」
『ん~・・・クーナはメルと仲がいいし、認めてあげてもいいかな!』
「ヴィルムさんて・・・」
まさかの予想外極まりない発言に、当事者二人は面白い程に取り乱し、ミゼリオは相変わらずの上から目線で、先程まで赤面していたはずのオーマは一転して恐れを含んだ視線を送っている。
外界では基本的に一夫一妻制であるものの、王族等の例外がある為、一夫多妻制の概念は存在する。
ヴィルムは精霊女王の息子といった立ち位置なので例外として見れなくもないが、一般人側寄りであるメルディナやクーナリアにとっては受け入れ難いのかもしれない。
尤も、当の本人にそこまで考えがあっての事かと言われれば疑問ではあるが。
そして、ディゼネール魔皇国の王族であるオーマが恐怖の感情を持っているのは、自身では到底無理な行動を平然とこなしてしまう、未知の存在を見た者のそれと言える。
なお、この状況を作り出した張本人は、我慢の限界といった様子で肩を震わせながら笑っていたが、それを咎める余裕がある者はこの場にいなかった。
意図せずして文字数が2828に・・・(汗)
来週は休日出勤が決まっている為、投稿が間に合わないかもしれません。
たまには連休とか欲しいなとか思いつつ、少しずつ執筆していこうと思います。
・・・ゲームやりたい。




