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【84】潜む者達


深夜。


夜間の警備兵以外の者達が深い眠りについた頃、城内には暗闇に潜む六人組の姿があった。


黒装束に身を包んだ彼らは所々で身を隠しつつも、まるで城内を知り尽くしているかのように迷いなく歩を進めていく。


「(所詮は人間族だな。我々が相手とはいえ、一国の城にこうも易々と侵入を許すとは)」


「(仕方があるまい。今の我々は気配どころか魔力すらも絶っているのだ。いかに優れた達人であろうとも、我々の存在に気付く事など出来んよ)」


「(無駄口を叩くな。ターゲットの部屋だ)」


明らかに人間族を見下すような会話をしながらも、彼らの動きに油断や慢心は見られない。


リーダーらしき者が放った言葉も、注意というよりはさっさと目的を達成したいが為といった所だろう。


「(二人は見張り。お前は退路の確保。俺が精霊様を抑えている間に、お前達がターゲットを捕縛しろ)」


下された指示に黙って頷いた五人は、素早く自身の配置につく。


「(・・・よし、いくぞ)」


万全の配置を確認し、彼らが目的の部屋へと突入しようと身構えたその時━━━、


「グブッ!?」


「「「「っ!?」」」」


突如として背後から聞こえたカエルが潰されたような声に驚いた()()が、すぐさまその場から飛びすさり、振り返ると同時に戦闘態勢をとる。


そこには暗闇の中であるにもかかわらず、彼らを正確に見据えているヴィルムの姿があった。


「さて、何か言い残す事はあるか?」


「ッ、ッ!?」


「ゥ、グッ・・・」


その片腕には首を絞められた者が、その足下には背中を強く踏まれた者が呼吸困難に陥っている。


侵入者である者達の素性を聞き出そうとしない所から察するに、ヴィルムの中で彼らが敵対者だという認識は揺るぎないものとなっている為、尋問する必要もないと判断しているといった所だろう。


「ちっ! こうなったら多少騒ぎになっても構わん! 奴は俺が抑える! お前達はターゲットを捕縛して撤退しろ!〈エアロガイスト〉!」


言うが早いか、リーダー格の男はヴィルムに向かって突風を巻き起こす。


おそらくは捕まっている仲間を気にして殺傷力の低い魔法を放ったのだろう。


そしてあわよくば、その仲間達を解放する狙いもあったのかもしれない・・・が、その選択は完全に間違っていた。


「今だ━━━何ッ!?」


「馬鹿なッ!?」


「カハッ!?」


突風が発生すると同時に目的の部屋までの距離を詰めようとする三人だったが、その内二人に拘束されていたはずの者達が投げつけられる。


投げつけた張本人━━━引き起こされた突風をものともせず、残った一人に接近したヴィルムは、その鳩尾に強烈な一撃を叩き込んで昏倒させた。


「ちょっと、何の騒ぎ!?」


「何の音ですか!?」


「誰だこんな夜中に! うるっせぇんだよ!」


こうも派手に激しい戦闘をしてしまえば、余程に鈍い者でもなければ目を覚ますだろう。


メルディナとクーナリアが慌てた様子で、そしてオーマは苛立ちを隠そうともせずに、勢いよく扉を開けて姿を見せる。


「くっ! 撤退だ!」


ヴィルム一人すら突破出来なかったのだ。


戦闘不能者が出た事に加え、敵の人数が増えてしまったとなれば、退かざるを得ないだろう。


尤も、ヴィルムに捕まっていた二人はすでに意識を失っており、その撤退命令に反応出来たのは残りの二人のみであったが。


「クーナはメルを守れ! オーマはそこで気絶している奴らを逃がすな!」


「は、はい!」


「お、おう!」


まだ状況が掴めていないクーナリアとオーマに最低限の指示を出したヴィルムは、窓を割って外へと逃げた三人を追って同じように飛び出した。


混乱しつつも、出された指示に従って武器をとってメルディナに寄り添うクーナリアと、駆けつけてきた兵士達に捕縛用に縄を持ってくるように頼むオーマ。


「えっ? えっ?」


守られる対象として名前を呼ばれたメルディナの混乱は二人よりも大きいらしく、何とか状況を把握しようと周囲を見渡すものの、その程度で理解出来るはずもない。


そんな中、兵士の到着を待つオーマは、気絶した三人を一ヶ所に集め始める。


しかし、少しばかり手荒に扱った為か、その内の一人が被っていたフードが(めく)れてしまった。


「えっ・・・? この人達、もしかして?」




* * * * * * * * * * * * * * *




ヒュマニオン王国郊外にある森の中。


三人もの犠牲を出した上で王国を脱した侵入者達は、追ってくる気配がない事に安堵し、蓄積した疲労を回復する為に小休止をとっていた。


最早、彼らの表情から余裕は失われ、屈辱と恐怖の感情に支配されているように見える。


「・・・まさか、失敗するとはな」


「たかが人間族に手も足も出んなど、屈辱以外の何物でもない」


「言うな。今はこの情報を皆に届けねばならん」


リーダー格のバンダナエルフが失意に暮れる二人を嗜めると、マスクをしている方の男が自嘲気味に笑い始めた。


「くっくっくっ。私達が一人の人間族に負け、目的も達成出来ず、すごすごと逃げ帰った情報をか? それはさぞかし下位の奴らが喜ぶだろうよ。私達の降格は確実になるのだからな!」


「・・・言うな」


マスクの男が言った事はバンダナエルフの方も理解しているらしい。


自制する為に強く噛んだ唇の端からは、胸中に渦巻く屈辱を示すかのような一筋の赤い血が流れた。


「おい、お前も何とか言ってやれよ」


冷静であろうと堪えるバンダナエルフに対して、自暴自棄になったマスクの男は止まらない。


不安を紛らわせようと、隣で身体を休めている男に声をかけるマスクの男だったが、返事がない事に苛立ちを覚えて睨むような視線を向ける。


「おい━━━ひっ!?」


そこには首が折れ曲がり、虚ろな瞳で自分を見つめる男の顔があった。


「戦闘態勢をとれ!」


「嘘だろおい! 気配なんて全くなかったじゃないか!?」


「集中を切らすな! いつどこから襲ってくるかわからんぞ!」


お互いの死角をなくす為に背中合わせで陣取った二人は、即座に魔法を放てるように魔力を集中する。


(どこだ? どこにいる!?)


僅かな動きも見逃さないように、些細な音も聞き逃さないように、全神経を研ぎ澄ませて周囲を探るバンダナのエルフ。


しかし辺りは彼の緊張を嘲笑うかのように、不気味な静寂が広がっている。


二人の緊張が極限に達しようとしたその時、背後から━━━つまり、マスクの男の正面から、小さく葉が擦れる音が聞こえた。


「う、うわああああああっ!〈バーストフレア〉!〈バーストフレア〉!〈バーストフレア〉!」


「なっ!? この馬鹿!」


恐怖に精神を汚染されて半狂乱となったマスクの男は、広範囲に及ぶ攻撃魔法を無差別に放ち始めた。


「くっ! 仕方ないか・・・!〈エアリアルバースト〉!〈エアリアルバースト〉!〈エアリアルバースト〉!」


派手な炎と爆発音を撒き散らす為に索敵は不可能とみたバンダナのエルフは、即座にマスクの男と同じ、広範囲に及ぶ攻撃魔法を連発する。


(これなら逃げ場はないはず。倒せはせずとも、負傷して・・・いや、負傷を恐れて退いてくれれば!)


最後の手段に一縷(いちる)の望みを賭けるバンダナのエルフだったが、その望みは淡くも潰えてしまう。


突然、背後から鳴り響いていた爆発音が止まったかと思うと、背中合わせに立っていたマスクの男が崩れ落ちたのだ。


反射的に振り向いてみれば、マスクの男の首もまた、無惨に折れ曲がっていた。


(そ、そんな・・・一体、どうやって?)


理解不能の異常事態に、まるで滝のように冷や汗が流れ落ちる。


「お前には聞きたい事が山程ある」


その言葉を最後に、彼は意識を失った。


タイトルが適当になってきた感(汗)

最近はタイトルのコレジャナイ感が凄いので、いい感じのが思い付いたら訂正したいです(願望)


2019年9月10日“忌み子と呼ばれた召喚士”第二巻が発売されました!

詳しくは活動報告にありますURLよりTOブックス様のオンラインストアを御覧下さい!


また、コミカライズの方も決定致しました。

こちらは情報が入り次第、御報告出来ればと思っております!

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