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【82】ヒュマニオン王国の同盟加入


「急な訪問に対応して頂き、感謝致します。ゼルディア王」


ヒュマニオン王国の王座の間にて、拝礼の構えを持って頭を垂れているのはヴィルムである。


その後ろにはラディアとジオルドが控え、更に後方ではメルディナ、クーナリア、オーマの三人。


そして、メルディナの肩の上にはミゼリオの姿も見える。


あの後、予定通り翌日の昼前にヒュマニオン王国へ到着したヴィルム達を待っていたのは、リーゼロッテが率いる第三騎士団だった。


手紙を読んだゼルディアからの指示を出したらしく、ほとんど待たされる事なく王座の間に通されたのだ。


流石にディゼネール兵達全てを国内に入れる事は不可能な為、彼らは城壁の外で待機であるが、食料などの野営物資はラスタベル軍の遠征用のものを回収してあるので、問題ないだろう。


「ゼルディア王よ、我からも礼を言おう。誠に感謝する」


「我が国と友誼を結んでおるヴィルム殿と名君と名高いジオルド王との話し合いだ。余程の事でもない限りは断らぬよ。さて、手紙には報せたい事と頼み事があると書かれておったが・・・?」


「えぇ。ですがそれらを話す前に、まずは謝罪を━━━」


唐突に謝罪の言葉と共に頭を下げるヴィルムの姿に疑問符を浮かべるヒュマニオン王国の面々だったが、彼の口から語られる話を聞いている内に、その表情は徐々に驚愕一色に染まっていった。


以前に話した自分(ヴィルム)の出生は偽りであり、魔霧の森の奥地━━━精霊達が棲まう場所で育てられた事。


力を求める冒険者や権力者達から家族(精霊)を守る為、里の存在を隠していた事。


ラスタベル女帝国の台頭は特殊な兵器が開発された事が要因であり、ディゼネール魔皇国はその兵器により侵略されてしまった事。


この兵器を使うには精霊達の生命エネルギーが必要であり、魔霧の森に棲まう精霊達を狙って進行してきた為に返り討ちにした事。


敵対勢力を完全に殲滅出来なかった事で情報の漏洩は避けられないと判断した為、近々精霊の里の存在を大々的に公表する事。


公表するにあたり、サーヴァンティル精霊国としてディゼネール魔皇国との同盟を宣言する手筈になっている事。


一連の出来事を話し終えた後、そのあまりの衝撃に言葉を失っているゼルディアを前に、ヴィルムは本題を切り出した。


「ゼルディア王。以前交わした個人的な友誼、この場を持って解消させて頂きます」


「「「なっ!?」」」


重鎮達が絶句するのも当然だろう。


彼らはヴィルムやヒノリの力を間近に見ているが故、その繋がりが切れるかもしれないともなれば落ち着いてはいられない。


「何故ならば、我々サーヴァンティル精霊国は、ヒュマニオン王国との()()()同盟を望んでいるからです。そして、同盟が成った暁には━━━」


しかし、周囲が絶句した直後、ヴィルムの口から続いたのは予想外の言葉だった。


個人的な友誼を結んだままでは、ヒュマニオン王国はヴィルムと同等━━━つまり、サーヴァンティル精霊国や同盟国であるディゼネール魔皇国より下の立場になってしまう事を懸念したヴィルムの配慮ではあるのだが、彼らからしてみれば何故優位な立場を自ら手放すのかがわからない、といった所だろう。


更には同盟国には、少量ながら魔霧の森でとれる稀少な素材が定期的に流されるという。


あまりにも好都合過ぎる条件は、逆に彼らの猜疑心を刺激するには十分だったようだ。


「ディゼネール魔皇国も貴国との同盟を望んでおる。我々は、サーヴァンティル精霊国がその存在を世間に晒すという危険を省みず、我々の命を救ってくれた恩に報いたい。その為にも、貴国の協力が必要なのだ」


「・・・我々にとっても全くデメリットのない条件だ。こちらこそ、是非とも同盟に参加させて欲しい」


だがゼルディアだけは考え方が違ったらしく、即断即決でこの話に応じる。


驚きの表情をゼルディアに向ける重鎮達だったが、すでに王が決断を下している以上、明確な悪意がなければ口を挟む事も出来ない。


結果、サーヴァンティル精霊国、ディゼネール魔皇国、ヒュマニオン王国の同盟がここに成立した。






「さて、同盟が成ったばかりで申し訳ないのですが、ひとつ、ゼルディア王に御相談があります」


「相談・・・?」


同盟が成った直後に、という事で若干怪訝な表情を浮かべるゼルディア。


事前の打ち合わせにもなかったのか、ジオルドも何を言い出すのかとヴィルムの方に視線を向けている。


「えぇ、あくまでも御相談です。無理強いはしません」


「ふむ。まぁ、聞いてみない事には判断出来ないな」


「では・・・ヒュマニオン王国には同盟国として、ディゼネール魔皇国の復興支援に協力して頂きたい」


これはジオルドも頭を悩ませていた問題である。


ラスタベル女帝国との戦の際、防衛地点として兵力を配置していた箇所の悉くを魔導大砲(マテリアルカノン)にて破壊されていたからだ。


当然、最終防衛地点である城や城下町も。


「同盟を結んだからには任せよ、と言いたい所なんだがな。今はラスタベルの民達の救援も行っていて国庫に余裕がないのだ。ディゼネールやサーヴァンティルに攻め込んだ国とはいえ、民達に罪はないからな。勿論、支援はするが、期待に応えるだけの事は出来ないかもしれん」


「ヴィルム殿? 気持ちは嬉しいが、それではヒュマニオン王国の負担が大きすぎる。同盟を組んだとはいえ、これから信頼関係を築いていかなくてはならない段階で支援を要求するのは少々心苦しい。我が国の復興は、我々が出来る範囲でやっていく故、心配はせんでくれ」


「いえ、その答えが聞けただけで十分です。元より、ヒュマニオン王国にだけ負担を強いる気はありませんよ。ね? ディア姉」


色好い返答ではなかったにもかかわらず、ヴィルムの表情に陰りは見られない。


むしろ予想通りだと言わんばかりの不適な笑みを浮かべると、すぐ後ろに黙して控えていたラディアに声をかけた。


話を振られたラディアはそのまま歩を進めると、ヴィルムの隣に陣取る。


『自己紹介が遅れたのぉ。ゼルディア王よ、儂の名はラディア。ヴィルムの姉にしてサーヴァンティル精霊国における精霊獣の一人じゃ。此度は同盟の話を受け入れてくれた事、嬉しく思うぞ』


空気が、固まった。


おそらくは話し合いを邪魔しないように、あえて気配を抑えていたのだろう。


自己紹介と共に解き放たれたそれは、他の存在とは一線を画すものであり、以前、直に感じたヒノリのものと同等以上に感じられた。


『かっかっかっ! そう固くなるでない。ヒノリが随分と脅したようじゃが、儂らは敵対せぬ者を不必要に害する気は毛頭ないわ。それに、今の貴殿らは協力者じゃし、のぉ?』


「・・・?」


その反応が面白かったのか、豪快に笑ったラディアは、ゼルディアの目の前で軽く拳を握って見せる。


何をしようとしているのかわからない、といった表情でその拳に視線を引き寄せられるゼルディア達。


次の瞬間、ゆっくりと開かれた彼女の手のひらからは、大小様々な形をした(きん)が止め止めなく溢れ出てきた。


土属性の魔力を持つ者ならば一度は挑戦を試みるであろう鉱物の生成だが、これを成功させた者は未だに存在しない。


鉱物を生成する際、余分な魔力が生成された鉱物に含まれたままとなってしまい、全く別の物質に変化してしまう為である。


しかしながら、今、ラディアが出したのは紛れもなく(きん)そのものであり、前人未到の魅技を直に目の当たりにしたゼルディア達は開いた口が塞がらない。


『サーヴァンティル精霊国からも資金を提供しよう。あまり派手にやると金の相場が下がってしまうのであろうが、ディゼネールの復興に使う程度の量ならば問題あるまい』


まるで悪戯が成功した時のような笑みを浮かべたラディアだったが、周囲に与えた衝撃はその域を遥かに超えていたらしく、彼らが正気を取り戻すまでに相当な時間を要したようだ。


今までの常識が何度も覆った話し合いであったが、結果的には良好な関係を築いていけそうだという事に胸を撫で下ろした者も多くいた事だろう。


なお、この場にいなかったハイシェラは、小さくなれる事と話せるようになった事がルメリアにバレてしまい、彼女の私室に閉じ込められていた事を記しておく。


2019年9月10日“忌み子と呼ばれた召喚士”第二巻が発売されました!

詳しくは活動報告にありますURLよりTOブックス様のオンラインストアを御覧下さい!


また、コミカライズの方も決定致しました。

こちらは情報が入り次第、読者の皆様に御報告出来ればと思っております!


これからも忌み子と呼ばれた召喚士をよろしくお願い致します!

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