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【81】ヒュマニオン王国へ


サーヴァンティル精霊国とディゼネール魔皇国の同盟が締結されてから数日後、ヒュマニオン王国の重鎮達は次々と入ってくる情報に忙殺されていた。


「先日の一件ですが━━━」


「いや、それよりも食料問題の解決策を━━━」


「派遣した部隊からの報告によると━━━」


ディゼネール魔皇国を難なく打ち破ったラスタベル女帝国を警戒するべく斥候を放っていたのだが、つい先日入ってきたのは当の国がすでに壊滅状態にあるという理解し難い情報であった。


これを聞いたゼルディアは情報の確認と共に、ラスタベルの民を保護するべく動く事を決意。


即座にラスタベルへの部隊を編成し、住民達の救助と保護を命じた。


女王と兵力を失い、街が壊滅状態となったラスタベルにこの救援を断る道などあるはずもなく、部隊が到着次第受け入れる方針が決まっているらしい。


尤も、ゼルディアが助けたいのはラスタベルの民達だけであり、軽々しく他国に戦争を吹っ掛けるような上層部を助けるつもりは毛頭ないのだが。


「住民達の保護が最優先だ。追加の物資も準備しろ。あとは各国に協力要請の書状を出して━━━」


「お父様!」


重鎮達が忙しなく動き回る中、勢いよく扉を開けて入ってきたのは、ヒュマニオン王国の第三王女であるルメリアである。


「ルメリアか。見ての通り今は忙しい。すまないが、話があるなら後にしてくれ」


「忙しいのはわかっております。ですが、ハイシェラがヴィルムさんからの手紙を持ってきたのです。どうか、お目通しを」


「ヴィルム殿からの・・・?」


”ヴィルムから”という言葉に反応したゼルディアは持っていた資料の束を机に奥と、ルメリアから受け取った手紙を読み始めた。


自然と重鎮達の動きも止まり、その視線がゼルディアへと向けられる事となる。


「ふー・・・」


やがて手紙を読み終えたゼルディアは、大きな溜め息を吐くと共に天井を仰いだ。


「へ、陛下、手紙には何と・・・?」


「ヴィルム殿がこちらに向かっているようだ。ディゼネール皇と兵士達を連れて、な。到着は明日あたりになると書かれておる」


「「「「はっ━━━!?」」」」


何の脈絡もない、予測不可能な事態に、言葉を失い硬直する重鎮達。


手紙を持ってきたルメリアも中身は見ていなかったらしく、口元に手をあてて絶句していた。




* * * * * * * * * * * * * * *




ヒュマニオン王国から見て東方にある平原。


そこにはヒュマニオン王国に向けて疾走する集団の姿があった。


だが“疾走”と言葉にしてみたものの、そう表現するには少々強引だと思われる。


何故ならば、その集団の移動速度が常軌を逸している上、氷上を滑るかのように上下に揺れ動く様子が全くない為だ。


「いやはや、ラディア殿の魔法は素晴らしいな。まさか、数千の兵士達をまとめて移動させる手段があるとは思わなんだ」


「この分なら、予定通り明日の昼前には到着する。そろそろメルディナとハイシェラが到着している頃だろうし、出来るだけ早く謁見が叶うといいんだが・・・」


現在、ヴィルムとラディアはディゼネール魔皇国の面々を連れてヒュマニオン王国へと向かっている途中である。


ジオルドの発言通り、大地の表層を動かす魔法〈グラウンスライド〉により、数千に及ぶ人数を苦もなく運んでいるのは紛れもなくラディアだ。


『かっかっかっ! 友誼を結んだヴィル坊に加えてディゼネール皇までおるんじゃ。どう控え目に考えても、明後日の朝には場を整えるじゃろう』


すでに丸二日以上魔法を使い続けているはずの彼女だが、ヴィルムからの魔力供給がある為か、全く疲れた様子が見られない。


彼女が本気を出せばすでに目的地に到着しているのだろうが、速度を抑えているのはクーナリアやオーマ、そしてジオルド達ディゼネールの面々を気遣っての事だろう。


「ヴィルムさん! もう回復したから、また訓練に付き合ってよ!」


「・・・またか」


「はぁ・・・オーマくんは元気ですねぇ」


つい先日までは人が変わったように落ち込んでいたオーマは、すっかり元の調子を取り戻していた。


どうやら「自分の命はヴィルムの手の中にあり、いつ殺されてもおかしくない。ならば、常にご機嫌を伺いながら怯えて生活するよりも、この強くなれるチャンスを最大限に生かそう」という結論に至ったらしい。


一応、ヴィルム自身からも「害意を持たない限りは殺さない」という言質をもらっている事も切っ掛けのひとつだろう。


そしてヴィルムの呆れ気味の言葉からもわかるように、開き直ったオーマは体力が回復する度に実戦訓練をねだっていた。


その数は姉弟子であるクーナリアの倍以上である。


「まぁ、俺が言い出した事だし仕方ないか。オーマ、構え━━━」


『ヴィル坊、ちょいと待つがよい』


もう何度目かもわからない訓練が始まろうとしたその時、両者の間にラディアが割って入る。


「ディア姉?」


(わっぱ)よ、今回は儂が相手をしてやろう』


目をぱちくりと瞬かせるヴィルムを背に、身構えたまま呆気にとられているオーマに対して、にやにやと楽しそうな笑みを向けるラディア。


その後ろでは、彼女のヴィルム以上に容赦のない訓練内容を知るクーナリアが僅かに眉を顰める姿が目に入る。


「・・・え? ラディアさんが?」


『応とも。ヴィル坊はお主よりも遥かに格上じゃが、毎回同じ相手というのはあまり良くない。実力も思考も人それぞれじゃからのぉ。様々な相手と戦ってこそ、対応の幅も広がるというものじゃぞ?』


(言ってる事に間違いはないんだけど・・・二日間身体を動かしてないからってのが本音なんだろうなぁ)


基本的に身体を動かす事が好きなラディアは、彼らの訓練を見ている内に我慢出来なくなってしまったらしい。


その気持ちを汲んだヴィルムは特に何を言う訳でもなく、クーナリア達のいる後方に大人しく下がった。


「確かに、そうかも。でも、ラディアさんは移動の魔法を使ってるだろ? いくらなんでもそんな状態で戦えるの?」


『かっかっかっ! 何を言い出すかと思えばそんな事か! 安心せい。童くらいが相手なら、この程度は”はんで”にもならんわい』


「ぐっ、言ったな!? 絶対一本とってやる!」


数千人を同時に、それも高速での移動させる大魔法を制御している事を指摘したオーマだったが、それを歯牙にも掛けずに笑い飛ばすラディアの態度に些か頭にきたらしい。


愛用の薙刀を下段に構え、勢いに任せて彼女斬りかかるオーマ。


(メルちゃんはいないし・・・オーマくん、怪我しないといいけど・・・)


その結果は━━━クーナリアの懸念した通りだったと記しておく。


まだまだ暑い日が続いてますね。

もう少し涼しくなってくれるとありがたいのですが・・・(汗)


“忌み子と呼ばれた召喚士”第二巻の発売日は、2019年9月10日です。

詳しくは活動報告にありますURLよりTOブックス様のオンラインストアを御覧下さい!

よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] ”ヴィルムから”という言葉に反応したゼルディアは持っていた資料の束を机に奥と、ルメリアから受け取った手紙を読み始めた。 「机に奥と」 → 「机に置くと」 でしょうか?
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