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【79】同盟 (後編)


「オーマ、こっちに来なさい」


「えっ? は、はい・・・」


名前を呼ばれたオーマは突然の事に驚きながらも返事をしているが、彼の普段の言動からは想像出来ない程に暗い雰囲気を醸し出している。


操られていたとはいえ、尊敬する人(ヴィルム)の仲間を傷付けた事が負い目となっているのだろう。


「ヴィルム殿、我が愚息から話は聞いた。何でも短期間ながら稽古をつけてもらったとか。そのような恩義を受けておりながら、貴殿の仲間を傷付けてしまった事、愚息と共に謝罪する」


「ヴィルムさん。すみません、でした」


「・・・一応、謝罪は受け取っておこう。それで? オーマがジオルドの子供だという事はわかったが、それが何の関係があるんだ?」


どうやらオーマはジオルドの子供━━━つまり皇子の立場だったらしい。


ジオルドに促されて頭を下げるオーマの姿は、年相応のように感じられる。


その姿を黙って見ていたヴィルムだったが、一度深い溜め息を吐くと、このタイミングで親子関係を明かしてきたジオルドにその真意を問い質した。


「うむ。先にも言ったが、ヴィルム殿の同盟案をそのまま適用すれば、精霊の里を下に見る国が出てくるだろう。そこで、だ。ディゼネール魔皇国の皇子であるオーマを貴殿にお預けしたい。オーマは我の第十八子ではあるが、皇位継承権は第四位だ。我々ディゼネールが精霊の里を対等に見ていると他国に認識させるには十分だろう。無論、我々が裏切らぬ為の人質としての意味もあるがな」


「と、父さん!?」


ジオルドがつい先程思い付いた事をオーマが知る訳もなく、急に身の振り方を決められた本人は明らかに動揺している。


「オーマ、お前の潜在能力は相当なものだ。今回の件でわかったが、お前はこの父を超える可能性を秘めている。人質と言われて複雑だろうが、ヴィルム殿ならばお前の潜在能力を引き出す事も出来るだろう。これは我々にとっても、ヴィルム殿達にとっても、そしてお前にとっても有益になる話だ。行ってくれるな?」


「・・・わかった」


気まずさと不安感からか、呟くようなか細い声で返事をするオーマ。


そのやりとりを見ていたヴィルムは二人の話が一区切りつくと同時に、俯くオーマへと声を掛けた。


「オーマ」


「は、はい」


短期間とはいえ、その圧倒的な実力に触れてきたオーマにとって、ヴィルムの呼び掛けは死神の囁きにすら聞こえているかもしれない。


事実、それを証明するかのように彼の身体は小刻みに震え、元々青白い肌は更に色を失くしかけている。


「正直に言えば、俺はまだお前を許していない」


当然だろう。


洗脳されていたとはいえ、メルディナやクーナリア、ハイシェラを瀕死の状態にまで追い詰め、精霊達を捕らえる侵略者達に加担したのだ。


身内を何より大事にするヴィルムにとって、洗脳されていた(そのような)事は言い訳にすらならない。


「お前が生きているのはメルディナとクーナリアのおかげだ。あの時、二人の懇願がなかったら、そして万が一、二人の命が助かっていなかったら・・・今頃、お前はこの世に存在していなかったという事を自覚しろ」


「ぅ・・・」


「む・・・」


ここで、ジオルドやオーマを含むディゼネールの面々は、自分達がとんでもない勘違いをしていた事に気付く。


ヴィルムの家族や仲間を傷付けられた怒りは、収まっている訳ではないという事に。


メルディナとクーナリアの懇願があったから、そして精霊(家族)を守る為の利用価値があるからこそ、自身の怒りを飲み込んでいたに過ぎないという事に。


オーマに向けて放たれた言葉は、ディゼネールの者達全てに当てはまる。


“お前”などと言ってはいるが、オーマだけに言っている訳ではない事は明白だろう。


「ジオルド皇の指摘は納得した。同盟の都合上、お前を預かる事にするが・・・もし俺達に対して害意を持つような事があれば、その場で息の根を止めてやる」


「わかり、ました・・・」


ヴィルムの言葉と共に放たれた殺気に、周囲の気温が一気に下がったのではないかと錯覚する。


その殺気を真正面から受けたオーマは、辛うじて返事をするのがやっとだった。


『ヴィ━━━』


『(待て、ヒノリ)』


殺気に反応したヒノリがヴィルムを止めに入ろうとしたが、隣にいたラディアがそれを小声で制止する。


『(ディア姉? 待てって言ったって、これから同盟を組む国に対してあんな態度じゃ不味いわよ?)』


『(心配無用じゃ。ヴィル坊は、ちゃ~んとわかっておるよ)』


不和を生みかねない状況に焦るヒノリに対して、ラディアは微笑を浮かべながら髪をかきあげる余裕すらある。


『(あ、本当だ。ヴィー兄様、本気じゃない)』


少し遅れてフーミルがそれに気付き、そのすぐ後にヒノリも気付く。


そうこうしている内に、ヴィルムから放たれていた氷のように冷たい殺気が、一瞬の間に霧散した。


「とは言ったものの、絶対服従を()いる訳じゃないから安心しろ」


「・・・えっ?」


唐突に変わったヴィルムの雰囲気についていけなかったオーマは、混乱のあまりに目を白黒させている。


「今言った事は本気だが、それはあくまでも“お前が俺達に対して害意を持った時の話”だ。別に何でも言う事を聞く奴隷が欲しい訳じゃないし、お前をいたぶって楽しむ趣味もない。メルディナもクーナリアもお前を好意的に見ていたからこそ、助けて欲しいと願ったんだろうからな。今後は俺の監視下に置くが、それだけだ。一部を除いて、基本的には自由にするといい。必要なら、修練にも付き合ってやる」


先に放った殺気は、これから同行者となるオーマに対する忠告だったのだろう。


ヴィルムにとっては敵対者に近い認識ではあるものの、すでに身内と認めたメルディナとクーナリアが助けて欲しいと願ったオーマを、無下に扱うという選択肢はないらしい。


「最後に、もうひとつ。お前の命を助けたメルディナとクーナリアだけは、絶対に裏切るなよ?」


「は、はいっ!」


状況が飲み込めずに呆けた表情をしていたオーマだったが、言い含めるようなヴィルムの言葉を受けて、はっきりとした了解の意を返した。


「ジオルド皇、貴方の御子息、責任を持って預からせて頂く。この同盟が永遠のものとなるよう切に願う」


「・・・貴殿の寛大な心に感謝を。そして、我々の絆が永遠に続かんことをここに誓う」


オーマの返事を聞いたヴィルムが拝礼の構えをとると、数瞬遅れてジオルドも同じ構えをとる。


お互いが構えを解くと同時に、どちらからという訳でもなく固い握手が交わされた。


それと同時に、一際大きなディゼネール兵達の歓声が上がる。


ここに、精霊の里とディゼネール魔皇国の同盟が成立した瞬間だった。


難産でした。

書いては書き直しの繰り返しで、どうにも筆が進まず遅刻してしまいました。


“忌み子と呼ばれた召喚士”第二巻の発売日は、2019年9月10日です。

よろしくお願い致します!

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