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【75】精霊の里防衛戦⑪ ~ ~


『ヴィルム~、こっちは片付いたわよ』


『ヴィー兄様、遅くなって、ごめん』


オーマが気絶し、ヴィルムがラディアとの融合を解いてからしばらくして、西から空を飛んできたヒノリと南の渓谷から走ってきたフーミルが合流する。


「二人ともお疲れ。こっちもほぼ終わった所だよ」


若干疲労しているようにも見える姉と妹に労いの言葉をかけたヴィルムは、〈アースロック〉によって胸元まで埋まっている奴隷兵士から手を放した所であった。


その手に握られていたのは、一見ただの鉱石のようでありながら、赤黒く光を反射する何とも気味の悪い小石。


『何、それ? すごく、気持ち悪い色・・・』


『どうやら、こやつらはこの石で操られておったらしいのぉ。さっきの小僧が正気を取り戻す直前、何かを砕いた感触がしたんで調べてみたらこれが出てきたという訳じゃ。あのディランとかいう男からヴィル坊が聞き出した情報じゃからの。間違いはあるまい』


小石の効果は人間であるヴィルムだけでなく、回収にあたった精霊達にも効果が見られなかった事から、洗脳状態とするには他にも何らかの条件があるのだろう。


そして、ヴィルムが情報を聞き出したというディランは・・・ズタボロの状態で転がっていた。


「さてと・・・」


「あ、が、ぐっ」


最早身体の自由は利かず、目を動かす事しか出来ない状態となったディランだが、その視線がヴィルムを捉えると同時に明確な恐怖の感情が表れる。


「吐いた情報が嘘だった時の為に生かしておいたが・・・もう必要なさそうだな」


「待って、くれ。全ては、ロザリア様が、望まれた事、なんだ。もう、お前達に手出しは、しない。だか━━━ごっ!?」


息も絶え絶えに命乞いをし始めるディランだったが、そんなものがヴィルムに通じる訳もなく、頚椎を踏み砕かれて死ぬ事となった。


「なるほどな。そのロザリアって奴が今回の首謀者か」


『ヴィルム、その事なんだけどね?』


首謀者の名前が判明し、ヒノリも自身が西方戦線で見聞きした情報を話し始める。


複数の魔導具が存在する事、今回持ち込まれた物は全て試作品にすぎない事、シャザールの助力があった事、ラスタベルの冒険者ギルドのマスターが敵であった事。


「そうか。シャザールが動いてくれたのか」


『えぇ、良い人と知り合えたわね』


(シャザールが持ってきた()()は、まだ秘密にしておこ~っと)


進行してきたラスタベル軍を無力化して余裕が出てきたヒノリに対して、ヴィルムは未だに鋭い表情を崩さずに思考を張り巡らせていた。


「・・・里の存在が漏れた以上、いつ、誰が精霊(みんな)を狙ってくるかわからない。ここは俺達を敵に回せばどうなるか、きっちり報復するべきだ。幸い、今回はシャザールって証人がいるから、俺達が一方的に敵視される可能性は少ないだろうしな」


一部を除き、集まった情報から、ラスタベル女帝国とその国にある冒険者ギルドに主犯がいると推察したヴィルムは、今回の襲撃に対して大々的な報復を決心する。


「ヒノリ姉さん、ディア姉、フー、疲れてるのに悪いけど、もう少し付き合って欲しい。やるからには、徹底的にやる」


『今回は止めないわよ。私も頭にきてるしね』


『任せぃ。久しぶりの表舞台じゃ。少々派手に暴れてやろうぞ』


『ん。徹底的に、やる』


すでに精霊獣三姉妹はその気になっているらしく、ヒノリは平静な表情ながらも髪の毛が炎のように揺らめき、ラディアは獰猛な笑みを浮かべながら長い舌をチロチロと動かし、フーミルは全身の体毛を逆立たせている。


精霊(家族)を目的に侵略してきたラスタベル女帝国に対して激しい怒りを持つのは当然の事だろう。


「シィ姉さん、メル達の事を頼めるかな?」


『あぁ、勿論だ。命を賭けてまで我々を守ってくれたんだからな。喜んで任されよう』


ヴィルムの頼みを快く受け入れたシィユは、気持ちよさそうに眠るクーナリアを抱き上げる。


メルディナはミゼリオの指揮の元、数十人の精霊達に御輿のように担がれ、ハイシェラは小さくなると同時に数人の精霊が付き添う形となった。


「・・・あと、奴隷にされていた奴らも」


『ふっくっくっくっ。おいヴィルム、不本意なのが顔に出ているぞ?』


ヴィルムにしては珍しく、拗ねているような膨れっ面がおかしかったのか思わず吹き出すシィユ。


「当たり前だろ。メルとクーナから頼まれなきゃ、助けようなんて思わなかったさ」


『それもそうか。まぁ、こちらの事は任せろ。思いっきりやってこい』


シィユ達から見送られた四人は顔を見合わせて頷き合うと、凄まじい速度を持ってその場から姿を消した。






* * * * * * * * * * * * * * *






魔霧の森を発ってから約半日。


ヴィルム達はすでにラスタベル女帝国の領内にまで到達していた。


ラスタベル軍が魔霧の森へと辿り着くまでに十日以上かかっていた事を考えれば、普通ではあり得ない事だろう。


鷹の名に相応しい、キレのある飛行で大空を舞うヒノリ。


大地の表層を進行方向へと動かし、その上を走る事で更なる加速を得ているラディア。


それが当たり前であるかのように、衝撃波を撒き散らしながら平然と走り続けるフーミル。


そして人間であるヴィルムは、膨大な魔力を惜しげもなく注ぎ込んだ身体強化で彼女達と同等の速度を発揮していた。


程なくして、侵略者達の本拠地であるラスタベル女帝国に到着したヴィルム達は、想定外の事象に驚く事になる。


「これは・・・どうなってるんだ?」


そこにあったのは、廃墟となったラスタベルの城とその街であった。


ようやく一段落です。

次回にエピローグ?を入れてラスタベル編は終了ですね。

ヴィルムにメルディナ、クーナリアの両名を愛称で呼ばせるのにかなりの時間を要してしまいましたが、個人的に表現したい箇所でもあったので、満足してます!

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