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【74】精霊の里防衛戦⑩ ~ 絆 ~


「〈アースロック〉」


ディランやオーマ、その周りを固める奴隷兵士達の足下が隆起し、瞬時に彼らを拘束する。


「な、何だ!? 新手か!? くそっ! テメェ離しやがれ!」


同時に、ディランの手からこぼれ落ちた吸魔の宝珠を踏み砕いたのは、北方からきたラスタベル軍本隊を殲滅してきたヴィルムである。


「何てことしやがる!?」


「シィ姉さん、皆と一緒に奴らを見張っていてくれ」


『あぁ、任せろ』


動揺して叫ぶディランを無視し、助け出してきたシィユ達にディラン達の監視を頼んだヴィルムは、辛うじて立っているだけという状態のメルディナとクーナリアの元へ駆け寄り、二人を優しく抱き締めた。


「すまん。敵の戦力を読み間違えた俺の責任だ。だけど、皆を守ってくれてありがとう。心から感謝する」


それは本心なのだろう。


実際、ヴィルムがメルディナ達にこの場を任せたのは、奴隷兵士達は陽動部隊であり、クーナリアやハイシェラをメインにメルディナとミゼリオのサポートがあれば問題なく戦線を維持出来ると判断したからである。


「良かった、わ。ヴィルが、間に合って」


「お師、様・・・? 良かった、です」


ヴィルムが到着した事で気が緩んでしまったのだろう。


先程まで自分の足で立っていた二人は、安心しきった表情でヴィルムに身体を預けていた。


「何故、逃げなかった? 危ない時は逃げろと言っておいただろう?」


それぞれに合わせた魔力を送り込みながら、事前に打ち合わせておいたにも拘わらず、危険な状態に至るまで逃げなかった二人に問い掛けるヴィルム。


「私達を、暖かく受け入れてくれた、精霊様達を、危険に晒すような真似、出来る訳、ないでしょ?」


「えへへ・・・お師様の、家族ですから。それに私も、皆さんが、大好きですから」


「━━━ッ」


二人の答えを聞いた瞬間、ヴィルムは思わず言葉を失ってしまった。


(俺は、まだ心のどこかで疑っていた。仲間とは言っても所詮は他人。いつか、どこかで裏切るかもしれないと思っていた)


産みの親には捨てられ、限定された生活圏で育てられてきたヴィルムは、精霊達(家族)への依存が極めて強い。


それ故、仲間として外界を旅していた二人をある程度は受け入れつつも、どこかで一線を引き、距離を置いていた節があった。


(でも、この二人は自分達の命を危険に晒してまで皆を守ってくれた・・・もう、俺は二人を疑わない!)


「メル、クーナ、あとは俺に任せてゆっくり休んでくれ。シィ姉さんとミオはメルディナ達を。皆はハイシェラを頼む」


抱きかかえた二人をシィユに預けたヴィルムは、彼女達に背を向けると同時に凄まじい殺気を放ち始める。


「お師様、オーマくんも、奴隷の皆さんも、操られてるだけなんです。出来るなら、助けてあげて下さい」


「多分、奴隷兵士達はディゼネールの人達よ。命令を出していたあいつさえ倒せば、正気に戻す方法も探せるはずだわ」


「わかった。二人がそう言うのなら、そうするよ」


振り向いたヴィルムが二人に微笑む。


それは今までとは違い、彼が精霊や妖精、つまり家族に向ける、出会った時にクーナリアが見惚れてしまった、優しい笑顔。


奴隷兵士部隊に等しく降り注いでいたヴィルムの殺気は、二人との会話と同時に一点にのみ集中する事になる。


「ぅ、ぐっ!?」


その対象となったディランは、未だかつて体験した事のない殺気と威圧を向けられ、滝のように冷や汗を流し始めたが、腐っても将軍という地位を任されているだけの事はあり、無様に気絶するような事はなかった。


気絶してしまっていた方が幸せだったのかもしれないが。


「ぐぅぅ・・・! お前ら! その拘束を何とかして俺様を助けろ! 早くしろぉ!」


ディランの命令に身体を捩って拘束から脱出しようと試みる奴隷兵士達だったが、胸元から足先に至るまでがっちりと固定されている為、抜け出せる者はいなかった。


ただ一人を除いては。


「・・・オーマか」


真横からの鋭い一閃を片手で掴んだヴィルムが視線を移すと、そこには無表情のまま薙刀を引き抜こうとしているオーマの姿があった。


しかし、強化状態のクーナリアを上回る膂力を持ってしてもヴィルムに握られた薙刀はピクリとも動かない。


引き抜く事は不可能と判断したのか、薙刀から手を放したオーマがヴィルムに殴りかかる。


「操られているとはいえ、俺の家族に手を出したんだ。本来なら息の根を止めてやる所だが・・・」


恐らくは岩をも砕く威力を持つであろう豪腕。


その拳撃はまともに腹部へと炸裂するが、殴られたはずの本人は全くダメージがないかの如く、その腕を掴んでしまった。


「徹底的に叩きのめす程度に抑えてやる。メルとクーナに感謝しろ!」


言うが早いか、ヴィルムはその手に掴んだオーマを軽々と投げ飛ばす。


人型の生物が水平に飛んでいく光景は、滅多にお目にかかる事が出来ないのではないだろうか。


そのままどこまでも飛んでいくかと思いきや、突如として隆起した岩壁に叩き付けられる。


「メルやクーナ達が受けた痛みはこんなものじゃねぇぞ!」


重力に従い、地面に倒れ込むオーマだったが、すでに追い付いてきていたヴィルムがそれを許さない。


顎に強力な一撃が決まり、身体を浮かされた後は最早成すがままだった。


胴体を中心に、ありとあらゆる箇所に打撃を叩き込まれるオーマ。


何度目になるのか、ヴィルムの拳がオーマの胸を捉えた時、“パキン”とガラスが砕けたような音と同時に、彼の瞳に光が戻る。


その瞳は明確にヴィルムを認識しており、彼の洗脳状態が解けた事を意味していた。


「━━━ ヴィルム、さん。オレ・・・」


「ようやく目が覚めたか。なら、これが最後だ。歯ァ食い縛れ! この馬鹿野郎ッ!」


ヴィルムの鉄拳・・・否、拳骨が、オーマの頭に落とされる。


すでに大きなダメージが蓄積された状態で、頭に強すぎる衝撃を受けたオーマは意識を取り戻したのも束の間、今度は気絶する事となった。


一段落まであと二話程の予定です。

・・・連続更新間に合うかなぁ(汗)

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