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【73】精霊の里防衛戦⑨ ~ 立ち上がる者達 ~


「オーマくん!!」


その小柄な体格から放たれているとは思えない重い一撃を辛うじて受け止めながら呼び掛けるクーナリアだが、当のオーマは全く聞こえていないかのように反応を見せない。


明らかに異常としか思えない虚ろな瞳と、幽鬼を思わせる雰囲気でありながらも強力な攻勢を仕掛けてくるこの状況に、彼女は心当たりがあった。


(あの時の、リスティさんと同じ・・・でも、リスティさんよりも速くて、重い! 身体強化は、完全なはずなのに!)


以前、ユリウスに操られていたヒュマニオン王国第三王女の元護衛騎士、リスティアーネ。


意識があるなしの違いはあるものの、その時の状態に酷似している事からオーマが洗脳状態にあると判断したクーナリアは何とか彼を正気に戻そうとするものの、効果が出ているとはいえない状況である。


先日、精神的に不安定のまま戦ったとは違い、身体強化が万全に発揮されている中で押し負けている事に焦り始めるクーナリア。


上空にいるメルディナやハイシェラも何とか彼女を援護しようとしているが、周囲の状況などお構いなしに群がってくる奴隷兵士達の対処に追われている為に手が回っていない。


「はっはっはっ! いいぞいいぞぉ! そのまま動けなくなるまで痛め付けろ! 魔法部隊! 邪魔な牛娘はあいつが抑えている! 今の内にあの飛竜を撃ち落とせ!」


癇に障る高笑いをしながら下されたディランの命令に、上空を飛び回るハイシェラを見据えた奴隷兵士達がほぼ同時に攻撃魔法を放った。


『グルァ!?』


「『ハイシェラ!?』」


(まば)らであればともかく、数百以上もの攻撃魔法が同時に放たれてしまっては、メルディナを背に乗せているハイシェラは回避しきる事が出来ずに被弾してしまう。


精霊獣(フーミル)の加護を受け、半精霊と化したハイシェラは強力な風の障壁を纏っている為、数十発程度であれば問題ない。


『グルルル・・・・ルァン』


「ミオ! 急いで回復魔法を!」


『う、うん!』


しかし、間断なく襲い掛かる攻撃魔法からメルディナとミゼリオを守る為にほぼ全てを受けてしまっては話は別である。


小さいながらも幾つもの裂傷や火傷を負ってしまったハイシェラは力なく落ちていく。


急降下中につき、不安定な態勢で集中力を欠いてしまった為に回復魔法の発動は間に合わない。


最後の力と言わんばかりにメルディナ達が自分の下敷きにならないように、そして自身を緩衝材とする為に身体を滑り込ませたハイシェラが、地面に叩きつけられる。


その背中に乗っていたメルディナも無傷であるはずがなく、墜落した衝撃と痛みに苦悶の表情を浮かべていた。


『メル! ハイシェラ! しっかりして!』


「メルちゃん!? ハイシェラ!?」


唯一、自力飛行が可能な為、無事だったミゼリオが心配そうに呼び掛け、事態に気が付いたクーナリアはそちらに気をとられて大きな隙となってしまう。


「ッ!? しまっ━━━」


そして、その隙は劣勢に置かれていた彼女にとって致命的なものだった。


「かフッ!?」


掬い上げにより、腹部にめり込む薙刀の柄。


そのまま上体を浮かされてしまったクーナリアは避ける術を持たず、次々と打ち込まれる攻撃になすがままになっている。


いくら並外れた身体強化を施しているとはいえ、その当人が押し込まれてしまう膂力で滅多打ちにされてしまっては耐えきれるはずもない。


最早、クーナリアには踏ん張る余力さえ残っていなかったのだろう。


盛大に吹き飛ばされた彼女は、しばらく地面を滑るように転がると、すでに倒れて動けないハイシェラの巨体にぶつかり、ようやく止まった。


その様子を面白そうに見ていたディランは、余裕を持った足取りでクーナリア達に近付いていく。


「なかなか頑張ったじゃないか。褒美に、お前らも俺様の傘下に加えてやるよ」


懐から取り出したのは、ヒュマニオン王国で起きたクーデターの首謀者、ベイルードが持っていた霊縛の従輪に酷似した輪状のアクセサリーらしき物。


「これを嵌めれば、お前らも晴れて俺様の傘下って訳だ。まぁ、ロザリア様には及ばないが、二人とも俺様好みだし、大切に扱ってやるよ。戦場でも、ベッドの上でもな」


『そんな事させない!』


下卑た笑みを浮かべながら近付いてきたディランに両手を向けて魔力を集中させるミゼリオだったが、当人は全く意に介した様子を見せない。


それどころか、メルディナ達を守ろうとするミゼリオを滑稽なものを見るかのように笑い始めた。


「はーっはっはっはっ! 今更精霊が一人出てきたくらいで何が出来る! 安心しろ。お前はお前で新兵器のエネルギーとして、カラッカラに干からびるまで利用してやるよ!」


悔しげに唇を噛みながらも、ディランを睨み付けるミゼリオ。


『ミゼリオ! 加勢するわよ!』


その凛とした声と共に、高笑いしていたディランに向けていくつもの属性が入り交じった魔法が迫る。


「ちっ! 俺様を守れ!」


驚きと同時に下された命令に、間に入ったオーマが魔法を叩き落とし、打ち漏らしたいくつかの魔法は奴隷兵士達が肉壁となって防いでしまった。


ミゼリオを中心に、メルディナ達を守るように現れたのは、里に住まう精霊達。


『メルディナ達が傷ついてまで私達の里を守ろうとしていたのに、ごめんね』


『ボク達の里を守るためにクーナ達が頑張ってるのに、見てるだけなんて!』


『ヴィルム達が来るまで待機だって言われてたけど、もう我慢出来ない!』


ラスタベル軍が精霊達を弱体化させてしまう魔導具を持っている以上、参戦するのは危険だと考えたサティアから待機命令を受けていた精霊達だったが、自分達の為に傷付き、敵の手に落ちようとしているメルディナ達を見捨てる事は出来なかったのだろう。


「わざわざそっちから出て来てくれるとはな。これならロザリア様にも御満足頂けそうだ」


奴隷兵士達を盾にして攻撃魔法を防いだディランは、それを仕掛けてきた者が精霊だとわかると強気に挑発し始める。


その様子から、ディランが自分達を弱体化させる何かを持っていると察した精霊達だったが、その場から逃げようとする者は一人もいなかった。


「はっはっはっ! どうやら精霊ってのはあまり頭が良くないみたいだな! それならお望み通り、全員捕まえて絞り尽くしてやる!」


ディランが色鮮やかな光を放つ水晶━━━吸魔の宝珠を見せびらかすように取り出すと同時に、精霊達を酷い虚脱感が襲う。


『あ、ぐっ』


『そ、そんな・・・』


最上位の存在である精霊獣にすら少なくない影響を与える効果の前に、彼女達は抗う事すら出来ない。


「さぁて、覚悟は出来てるだろ? 連れていけ」


命令を受けた奴隷兵士達が精霊達を捕らえようと手を伸ばす、が━━━


「させ、ない。精霊様達に、手出しさせるものかっ」


「守る、です。お師様の、家族を。大事な、人達をっ」


それを遮ったのは、二つの影。


身体中に走る痛みを耐えながら、霞む目に力を込めながら、自分達を受け入れてくれた精霊達を守る為に立ち上がるメルディナとクーナリア。


『グルルルル・・・!』


まだ身体が動かせないものの、殺気を感じさせる眼光でディランを見据えているハイシェラ。


その周囲にいる精霊達も、諦めたような表情をしている者は一人もいない。


「あーあー・・・どいつもこいつも、まともに動けねぇ癖にウザッてぇったらありゃしねぇ! 大人しくしてろよ! このくたばり損ない共が!」


彼女達が諦めた様子を見せない事が気に入らないのだろう。


苛立ちを露にしたディランは、吐き捨てるように怒鳴り散らした。


この後、彼は自身の発した言動を後悔させられる事になる。


「おい、それは俺の家族に向かって言ってんのか?」


自身の命よりも、家族を大切に想う男の手によって━━━。


出張と連勤が一段落してお休みを貰えたので連日更新です。

間に合えば、あと三話(ラスタベルとの話が一区切りつくまで)くらい頑張りたいと思います。

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