【07】少しばかりの憐情
第7話です。
サクサク行きますよ~♪
「死んだか」
レイドの死体を見下ろしながら呟くヴィルム。
その声には何の感情も感じられない。
『余程ヴィル坊が恐ろしかったのじゃろうな。儂は好きなんじゃがのぉ、あの表情』
いつの間にか移動してきたラディアが茶々を入れる。
ラディアの声に反応したのか、表情から棘が消えるヴィルム。
「他人にどう思われようが関係ないよ。ディア姉がそう思ってくれてるならそれでいい。と言うより、家族にあんな表情向けないって」
『おぅおぅ、嬉しい事を言ってくれるのぉ』
互いに表情を綻ばせながら会話する二人。
今回は完全な不意打ちだった為、隠蔽する場所も少なく手早く処理を終える。
残ったのは二人の少女が捕らえられた馬車だけだ。
拘束された二人を馬車の外に出すが、牛人族の少女の方は衰弱している様だった。
エルフの少女は、牛人族の少女の側を離れそうとはせず、ヴィルムを警戒していたが、ふと周囲に傭兵達がいない事に気が付く。
「連中ならもういねぇよ。必要だったとはいえ騙して悪かったな。とりあえず拘束は解いてやるから、暴れないでくれよ?」
疑いの眼差しを向けながらも小さく頷くエルフの少女。
それを見たヴィルムは、ラディアに拘束を解く様に頼む。
ラディアが、少女達を拘束している部分に軽く触れると、拘束具はポロポロと崩れ落ちていった。
関節部をくるくる回しながら状態を確認するエルフの少女。
暴れ出す気配はないと判断したヴィルムは、牛人族の少女に目を向ける。
拘束は解かれているが、衰弱している為、自力で立つのは難しいようだ。
ヴィルムは、衰弱した少女の様子を見ている。
レイド達に暴力を受けたであろう、身体のあちらこちらに残った打撲痕。
おそらく食事も必要最低限しか与えられていなかった為か、体力の低下も著しい。
「アイツにやられたのよ。牛人族として欠陥品だからって。ほんの少し、他の牛人族と身体つきが違うだけなのに」
ヴィルムは少し逡巡した後、衰弱した牛人族の少女を抱き上げる。
「・・・里に連れて行く。色々と制限させてもらう事にはなるが、こんな場所で魔物の餌になるよかマシだろ。それと、アンタにも来てもらうぜ。拒否は認めない。嫌なら、この場で殺していく」
「ぁぅ・・・。わ、わかったわ」
僅かに殺気の篭った視線を受けたエルフは、ビクッと身体を震わせたかと思うと、コクリと頷いた。
「ディア姉、悪いんだけど、死体の処理とその子を頼むよ。俺はこの子を連れて先に帰る。このままだとちょっと危ない」
『ほぉ、ヴィル坊が精霊以外に興味を示すとはのぉ。珍しい事もあるもんじゃ。委細承知じゃ。小娘、すぐに処理してしまう故、大人しゅうしとれよ?』
「は、はいです!精霊様!」
エルフの少女は別の意味で緊張しているようだ。
まるで普通であれば手の届かない、憧れの存在に出会った時のように。
特に問題もなく処理を終えたラディアは、エルフの少女を小脇に抱えると、先に戻ったヴィルム達を追う様に走っていった。
* * * * * * * * * * * * * * *
『あ、おかえり、ヴィルム・・・ってその子どうしたの?』
「ただいま、ヒノリ姉さん。後で説明するから、女王様に侵入者の排除完了報告とエルフと牛人族の子を保護した事を伝えて欲しい。特にこの子は衰弱しているから俺の寝床で治療する。エルフの子は後からディア姉が連れてくる」
里に戻ったヴィルムは、帰りを出迎えてくれたヒノリに女王への報告を頼む。
本来であれば自身で報告にあがるヴィルムだが、腕の中で衰弱している少女の手当てを優先する為だ。
いつもは自分が寝る為に使っている、木材と魔物の素材で作られたベットに少女を寝かせる。
続いて、少女の額と腹に触れ、意識を集中する。
魔力の質と循環経路を調べる為に。
確認を終えたヴィルムは、彼女に合わせて変換した自身の魔力をゆっくりと流し込んでいく。
これは少女の自己治癒力を高める為。
本来であれば、同質の魔力を持つ者同士でないと反発し合ってしまう魔力の譲渡。
しかし、幼い頃から多くの精霊や妖精達と接して生活し、多種多様な魔力に触れてきたヴィルムにとって、魔力の質を変換して相手に譲渡する事は簡単であると言えた。
次第に、青ざめていた少女の顔に赤みが増していく。
ある程度の魔力を送った所で、ヴィルムは一息つく事にした。
「・・・そういう事か。ま、とりあえずこれで衰弱死する事はないだろ」
先程と違い、穏やかな表情で眠る牛人族の少女。
(つい、自分と重ねて見ちまったな。・・・種族として欠陥品、か)
少女の寝顔を見下ろすヴィルムの頭に、自身が精霊達の里で育てられた理由が過る。
流石に当時の記憶はないが、災厄を呼ぶ忌み子として、魔霧の森に捨てられていたらしい。
運良く巡回に来ていた精霊に拾われていなければ、既にこの世に存在していなかっただろう。
そんな事を考えるヴィルムの耳にヒノリやサティアの声が聞こえてきた。
『ヴィルムー!お母さん連れて来たよー!』
『ヴィルくん!女の子を寝床に連れ込んだって聞いたわよ!ダメよ!そんな事しちゃ!ヴィルくんにはまだ早いわ!』
(ヒノリ姉さん、また誤解を招く言い方をしたな)
呆れながらも、自分を拾い、育ててくれた家族の声に、ヴィルムの頬は自然と緩む。
「母さん、それは誤解だから落ち着いて。ディア姉が帰って来たら説明するから。あとヒノリ姉さん、わざと誤解を招くような言い回しはやめてね?」
『え~?お姉ちゃんそんな事しないよ~?』
「そんなにニヤニヤしながら言っても説得力がないよ。大方、『母さん大変!ヴィルムが女の子を抱き抱えて自分の寝床に連れて行っちゃった!』って感じで言ったんでしょ?」
『うわーお、一言一句間違っちゃいないわ。やるわねヴィルム!』
悪びれる所かサムズアップを決めるヒノリ。
『あ、あら?お母さん、また早とちりしちゃった?・・・ヒ~ノ~リ~?』
悪ふざけだったと聞いて、ヒノリにジト目を向けるサティア。
『あはははは~。だってヴィルムってばいつも冷静じゃない?いつも私達に笑顔を向けてくれるのは嬉しいんだけど、たまには慌ててる表情とか見たいかな~、なんて・・・』
『そうね!その意見には激しく同意よ!ヴィルくんの色んな表情、是非とも見てみたいわ!』
『だよねだよね?ちなみに私は恥ずかしがってるヴィルムが見たいわ』
当の本人を他所に盛り上がる二人。
『何ぞ楽しそうじゃのぉ。今、戻ったぞ』
姿を現したのはラディアだった。
小脇に抱えられたエルフの少女は、何故かぐったりとしている。
「はぁはぁ・・・、せ、精霊様激しすぎますぅ。も、もっとゆっくり・・・」
息も荒く、喘ぐ様な呟きを聞いた三人が、ラディアにジト目を向ける。
『な、何じゃその目は!儂は別にやましい事なぞしとらんぞ!』
三人から疑いの眼差しで見られた事で、流石のラディアもたじろぐ。
その目は自身が小脇に抱えたエルフの少女を捉え━━━
『こ、このたわけ!気絶なんぞしとらんでさっさと起きんか!』
━━━盛大に床へと叩きつけた。
「はみゅん!?」
床に叩きつけられたエルフの少女が、面白い声をあげる。
「あぃたたたた・・・、はっ!?精霊様、ここはどこなのですか!?」
鼻の頭をさすりながら起き上がったエルフの少女は、今までと違った場所にいる事に気が付く。
『ここは古来より、儂ら精霊達が住んでおる場所じゃ。今までここを訪れた者は数える程しかおらん』
ラディアに言われ慌てて周回を見渡すエルフの少女。
その表情は一気に喜色へと変わる。
自然を愛し、共存するエルフ族にとって、精霊とは崇めるべき対象である。
その精霊達の住まう里に招かれるという事は、非常に誉れ高い事なのだ。
「この里を気に入ってくれたようで何よりだ。水精霊と契約している事や、さっきの襲撃時の言動から見て、信用出来ると判断したから連れて来た。もし裏切るような事があれば容赦はしないから、そのつもりでいてくれ」
しかし精霊ではなく、ただの人間であるはずのヴィルムに口を挟まれた事で不満そうな顔になる。
「あ、アンタは!一体何の権限があって精霊様の御里の事情に口出しするの━━━ふみゅん!?」
一気にまくし立てようとする彼女の額に、ヴィルムのデコピンが炸裂。
「ふぉぉおぉ!?」と意味不明な声をあげながら、額を押さえつつ床を転がり回る事になった。
「もう一人の子が目を覚ましたらきっちり説明してやるから、それまでは休んでろ。母さん達にも準備が出来たら知らせるよ」
ヴィルムの言葉を皮切りに解散していく面々。
エルフの少女は涙目になりながらヴィルムを睨んでいたが、ラディアに首根っこを捕まれて、猫の様に連れて行かれた。
彼女達を見送ったヴィルムは、手製のイスに腰掛ける。
ふと視線を移せば、かなり騒がしかったにも関わらず、全く起きる気配を見せない牛人族の少女。
自分の境遇に少しばかり似ている少女。
深く眠る彼女の寝顔を見ながら、ヴィルム自身も休む事にした。
実を言うとメインヒロインは決めてなかったりします。
最初に出て来るのがヒロインだったら、やっぱりヒノリになるのかなぁ?
でもこれから外界(森の外)に住むヒロイン的なキャラも出したいし、そうなるとヒロインの数多すぎやしませんかね?w