【69】精霊の里防衛戦⑤ ~東方戦線~
「せぇぇぇやぁぁぁぁぁっ!!」
気迫に溢れるクーナリアの雄叫びが戦場に響き渡る。
身の丈以上の大斧を軽々と振り回し、自身に群がる奴隷兵士達を次々と蹴散らしていくその姿は、可愛らしい見た目の彼女からは想像し難いものがあるだろう。
「おいおい、こっちの兵士達は魔族だぜ? あの牛人族どんだけ強ぇんだよ」
奴隷兵士━━━前回の戦で捕らえた元ディゼネール魔皇国の兵士達を苦もなく撃破していくクーナリアに、呆れた様子を見せるディラン。
実際のクーナリアにそこまでの余裕はないのだが、端から見ると無双しているようにしか見えない。
「それに━━━」
と、視線を移した先では、個々で勝てないのならばと密集陣形をとってクーナリアに突貫する構えを見せる奴隷兵士達が、上空から放たれる風の息吹に巻き込まれ、吹き飛ばされている様子が目に入った。
「・・・あっちもヤバそうだな。しかも風の息吹以外に水属性の魔法まで紛れてやがる。どう考えても誰かがあの飛竜に乗ってるだろ」
クーナリアを取り囲もうとすればハイシェラの放つ風の息吹に吹き飛ばされ、散開したりハイシェラを攻撃しようとすればクーナリアの大斧とメルディナの水魔法で撃破されていく。
「気に入ったぜ。あいつらも奴隷にしてしまえば、かなりの戦力向上に繋がるな」
劣勢に立たされている自軍の状況を把握しながらも冷静に敵戦力の分析をしているディランの口元が醜く歪み、その視線は自身の隣に佇む奴隷兵士らしき少年に向けられた。
「命令だ。あいつらを生かしたまま捕らえろ。多少痛め付けても構わん」
上空では、クーナリアの援護に回っているメルディナが奴隷兵士達の様子に違和感を感じていた。
「どうもおかしいわね。ハイシェラの姿を見て驚きの声ひとつあげないなんて」
外界ではAランクと評されている飛竜。
その通常種よりも明らかに巨大であるにも拘わらず、奴隷兵士達には恐れどころか僅かな表情の変化すらも見られない。
「━━━って、そんな事考えてる余裕はないわね! ハイシェラ! あっちに敵が集まり始めてるわ!」
『グルオオオオオオッ!!』
もう何度目になるのか、メルディナが群がり始めた奴隷兵士達の位置を報せると、ハイシェラが雄叫びと共に風の息吹を叩き付ける。
「私達もいくわよ!〈アクアランス〉!」
『いけいけー!』
メルディナ自身もハイシェラに任せるだけでなく、魔法や弓矢での攻撃を仕掛けようとする者を見つけ、ミゼリオと共に撃破していく。
その合間に、地上で激しく動き回っているクーナリアが疲れを見せる前に体力を回復し、大斧に付着した血糊を洗い流すなどのサポートも忘れない。
「ミオ、身体の調子は?」
『大丈夫よ! いつもよりいいくらい!』
「良かった。何かおかしいと思ったら、すぐに言ってね」
事前に報されていた精霊の弱体化能力を警戒しているメルディナだったが、今の所、ミゼリオに目立った変化はないようだ。
しかし、精霊がいる事に気付かず、弱体化能力を使っていない可能性は残っているので、ほっとしながらも油断はしていない。
地上ではクーナリアが、上空からはメルディナ達が次々と敵勢力を屠っていき、戦況は彼女達の勝利に傾きつつあった。
そんな中、メルディナが一人の奴隷兵士の姿を捉える。
「あれは・・・まさかっ!?」
彼女の瞳に、戦慄が走った。
(体力・・・大丈夫。武器・・・問題ない。まだ、いける!)
地上では未だに疲れた様子を見せないクーナリアが、暴れまわっている。
メルディナからのサポートで大斧に付着した血糊は適度に洗い流されてはいるが、三回も振り回すとすぐに血塗れになってしまうので、斬撃よりも打撃を主軸に置いた戦い方だ。
動きが止まってしまえばすぐに囲まれてしまう為、基本的に攻撃を受け止めたり回避する真似はせず、敵をまとめて吹き飛ばし、後続の足を止めて更に吹き飛ばす、といったループを続けていた。
一人一人の戦闘能力は高いものの、身体強化が十全に発揮されたクーナリアを追い込める程の猛者はいない。
(まだ敵はいっぱいいるけど、これならお師様達が来るまでは━━━)
「大丈夫」と続けようとしたクーナリアの瞳が、今、この戦場にいるはずのない者の姿を捉える。
「えっ・・・? オーマ、くん?」
それは、自分の弱さを気付かせてくれた、自分に改めて決意する切欠を与えてくれた魔族の男の子━━━オーマだった。
更新期間が空いてしまった上に短くて申し訳ありません。
区切り的に丁度良かったもので・・・(汗)
現在、本業の出張と小説の締切日が重なってしまい、焦りまくっております。
何とか間に合わせられるように頑張ります・・・!




