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【63】迫る脅威

「戦争?」


ラディアとの組手を終えて汗を拭っていたヴィルムが、話し掛けてきたヒノリへ聞き返す。


それはラディアや見稽古をしていたクーナリア達も同じで、自然とヒノリに視線が集中する事になった。


『うん、シィ姉が巡回中に冒険者達が話しているのを聞いたみたい。魔霧の森から見て北側にあるラスタベル女帝国が、隣国のディゼネール魔皇国に宣戦布告して圧勝したらしいわ』


『ようやく平和になってきたという時期に戦争を仕掛けるとは物騒な国じゃのぉ』


『そうね。しっかり警戒しておいた方がいいかも・・・って、あら?』


ラディアと向き合って話していたヒノリだったが、ふと、不快な表情を浮かべる彼女の後方で固まっているメルディナ達の姿が目に入る。


『メルちゃんもクーちゃんも、ミオちゃんまで固まっちゃって・・・どうしたの?』


「えっと、その・・・。ねぇメルちゃん、ディゼネールって、確かオーマくんの国だったよね?」


「えぇ、私も思ってたわ。オーマくんは魔族だったし、間違えようがないわね」


二週間だけとはいえ一緒に過ごしてきた者の国が戦争に負けた事は、二人の心を十分に煽る結果になったらしい。


特に毎日のように手合わせをして仲良くなっていたクーナリアの顔は、若干青くなっている。


「オーマの事も確かに気にはなるが・・・問題は魔族の国だというディゼネールがあっさり負けてしまった事だな」


『どういう事?』


片手を顎にあてて思考しているヴィルムの呟きに、よくわかってない表情のミゼリオが問い掛ける。


「オーマとの訓練からの予測になってしまうが、魔族の身体能力は相当高い。恐らく、人間族の一般兵では数人がかりでも倒せないくらいにな」


「あ、そうね。魔族は体力的にも魔力的にも優れた種族よ。ディゼネール皇が戦争を仕掛けてくるようなら、周囲の国々が一致団結しないと対抗出来ないって話も聞いた事があるわ」


『なるほどの。それ程までに高い戦闘力を持つディゼネールを単独で打ち破ったラスタベル、か。何かがあると見て間違いはなさそうじゃな』


事実、各国がディゼネールの圧勝を確信していた程、種族の差は存在していたのだ。


その差を埋めるだけでなく、覆す“何か”について考えるヴィルム達だが、当然思い当たる節があるはずもない。


「その“何か”がわかればいいんだが、現状では情報が少なすぎる。直接出向いて調べてみるべきか・・・」


『ヴィルム、それはやめておけ』


情報収集の為にラスタベルの調査を検討するヴィルムを制止する声に振り向くと、一人の上級精霊が近付いてきていた。


身長はヴィルムより少し高いくらいだろうか。


ラディアと同じ褐色の肌と乱暴に束ねた茶色の髪が、彼女が大地に属する精霊であると証明している。


ラディアを姐さんと呼ぶならば、彼女は姉御と呼ぶに相応しい風貌をしていた。


「シィ姉さん?」


『ラスタベルは人間族の国だ。お前がいけば、また厄介事に巻き込まれるのが目に見えている。情報収集には我々が行こう。若い精霊(もの)達の良い訓練になる』


シィユは頼もしい笑みを浮かべてヴィルムの頭に手を置くが、その表情に不安の色を感じたらしく、子供をあやすように優しく撫で始める。


「でも━━━」


『母御殿と話し合って決めた事だ。何、心配するな。姿を消して、少し見聞きしてくるだけさ』


なおも食い下がろうとするヴィルムだったが、普段と変わらない調子で話すシィユの様子に渋々ながら頷く。


『かっかっかっ! シィユ、ヴィル坊に心配するなと言うのが間違いじゃ。つい先日にヒノリの身が危うくなったばかりじゃからのぉ』


『うぅ、ほ、本当の事だけに言い返せない・・・でも、気を付けてね? シィ姉さん』


『あぁ、フードを被った男の事か? ヒノリが拘束される程の魔法は確かに危険だな。十分に注意しておくとしよう』


その後、準備を整えたシィユは数人の上位精霊、十数人の精霊と共に情報収集へと向かっていった。






* * * * * * * * * * * * * * *






シィユ達が情報収集に向かってから二週間が経過した。


当初の予定では十日程で戻ってくる予定であったのだが、彼女達からの連絡は未だにない。


『おかしいわ。帰ってくるのが遅れるにしても、シィ姉さんが連絡しないなんてありえないわよ』


『ん。でも、何かあったとして、誰も戻ってこないのも、おかしい』


『確かにの。交戦に入ったとしても、その前に一人か二人は連絡役として戻すはずじゃろう』


いつもの広場では里の者達が集まり、シィユ達の安否を気遣っていた。


その中でもヴィルムには焦燥感が顕著に現れ、そわそわと忙しなく動き回り、時折空を見上げて何かを考え、(かぶり)を振ってはまた歩き始める。


『ヴィル坊、少し落ち着かんか。シィユ達に何かあったとしても、助けに向かうお主がそんな状態ではろくな事にならんぞ』


「ディア姉・・・」


『そうよヴィルム。この前の事、忘れた訳じゃないでしょ? (・・・思い出したくないけど)』


「それは、そうだけど。でも・・・」


『ヴィー兄様、フーが行く。フーなら、そう簡単に捕まらないから』


『これフー、何があるかわからんと言うとるじゃろう。単独行動は厳禁じゃ。もしフーに何かあれば、もうヴィル坊は止まらんぞ?』


焦るヴィルムを落ち着かせようとする三姉妹だったが、シィユ達の身に何が起こったのかわからない為に助けに向かうという事以外決まらずにいた。


「・・・やっぱり俺が行く! フー、連絡役として付いてきてくれ。何かわかったらすぐ里に知らせて欲しい」


『ん、了解』


『だから落ち着けと━━━』


遅々として進まない作戦会議に痺れを切らしたヴィルムをラディアが止めようとしたその時━━━、


『━━━ッ! あっぐ!!』


一人の精霊が、転がり込むようにして里の結界を突っ切ってきた。


周囲の視線が集中する中、いち早くその精霊に駆け寄ったヴィルムは素早く彼女を抱き起こす。


『ヴィルムくん助けて! みんなが・・・シィユさんが!』


『『「「!?」」』』


おそらくミスリル製の武器で襲われたのであろう怪我と、全力疾走してきた疲労でボロボロになっていた彼女は、情報収集に向かった精霊達の一人だった。

少々急展開過ぎたかと反省中。

しかしながら間に色々挟んでぐだぐたになるのもなぁとも思います。

やはり物語を書くというのは難しいですね。


3月9日より、書籍版“忌み子と呼ばれた召喚士”第一巻がTOブックス様より発売されております。

つきましては、第二巻で企画予定のQ&Aコーナーに記載する質問や番外編の内容等を作者の活動報告にある記事にて募集しております。

お時間がありましたら、是非とも御参加下さい。

皆様からの御応募、心待ちにしております。

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