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【60】回復魔法の修練法?

ユリウスにより、精霊の里の秘密がラーゼンへと流されてから数日。


そんな事になっているとは露知らず、里では平和な時間が流れていた。


その広場には、身体中に多数の擦り傷や打撲の跡があり、目を回して倒れているクーナリアと、彼女に回復魔法をかけて傷を癒しているメルディナとミゼリオ、二人の側に寄って話し掛けているミーニ、その様子を腕を組んで見ているラディアとジェニーの六人組の姿が見える。


『ふむ、ヴィル坊に鍛えてもらっておるだけの事はあるのぉ。儂との鍛練にここまで食らいついてくるとは思わなんだ』


『そうね。常に劣勢だったとはいえ、ラディアと打ち合えるなんて思っていなかったわ。クーナリア殿の膂力は相当な物よ』


体力を使い果たして起き上がる気力すらわかないのか、荒い呼吸を繰り返すばかりのクーナリアの実力について会話するラディアとジェニー。


会話の内容と現在の状況から察するに、つい先程までラディアとクーナリアは実戦形式で訓練をしていたのだろう。


『そうそう。独学だって聞いてたけど、基本はちゃんと出来てるみたいだね~。魔力もミオちゃんからメルちゃんに上手く流れてるみたいだし~』


「本当ですか!?」


『ふふーん! 当然よ!』


その傍らでは、ミーニがメルディナとミゼリオの回復魔法の力量を計っている、といった所か。


上級精霊であるミーニから評価の言葉に、メルディナは嬉しそうに顔を綻ばせ、ミゼリオは胸を張って満足気に頷いている。


どうしてこんな事になっているのか・・・話は今朝に遡る。






* * * * * * * * * * * * * * *






「回復魔法が得意な精霊(ひと)?」


朝食を済ませ、デザートの果物を口に運ぼうとしていたヴィルムがメルディナに視線を向ける。


「えぇ、回復魔法を学び始めたのはいいけど、やっぱり独学じゃ限界があってね。精霊様に御教授願えないかなって思って・・・」


つい先日、回復役に転向し、短期間でそれなりの実力を身に付けたメルディナだったが、彼女の性格上、その程度で満足するはずがなく、研鑽(けんさん)を重ねる日々を送っていた。


実力がつくに連れ、それと反比例するように成長の実感が薄れてきた故、誰かに師事を仰ぎたいといった所だろう。


「ふむ」と辺りを見回したヴィルムが捉えたのは、サティアの側に控えていたミーニだった。


「回復魔法・・・それならミーニだな。俺も子供の頃はよく治療してもらったよ」


『あはは~。ヴィルム様、ラディアちゃんとの訓練で生傷が絶えませんでしたから~』


過去を懐かしむ二人の会話を聞いたメルディナは、すぐにミーニの近くまで移動すると、勢いよく頭を下げた。


「ミーニ様、お願いします! どうか私に回復魔法について教えて下さい!」


『あ、うん。いいよ~』


ミーニのあまりに軽い返答に、一瞬、辺りが沈黙に支配される。


「えっ、あの・・・ありがとうございます?」


自らの要望があっさり通った事に理解が追い付いていないが、反射的に感謝の言葉を口にするメルディナ。


それと同時に、ミーニと同じくサティアの側に控えていたジェニーが心配そうな主へと話し掛ける。


『サティア様、ミーニが教えるのなら私も付いていかなければならないかと・・・ミーニはその、()()ですし』


『そうね。でもちょっと困ったわ。今日は部屋から離れられないから、どちらかには残ってもらいたいのだけど』


どうやらジェニーは、ミーニがメルディナに回復魔法を教えるにあたって懸念があるらしい。


それはサティアにも思い当たるようで、溺愛している息子の仲間の要望は叶えてあげたいが、二人揃っていなくなるのは困ると迷っているようだ。


「それなら俺が二人の代わりに母さんの護衛と手伝いをしよう。ジェニー、ミーニ、メルディナを頼めるか?」


『いえそんな! ヴィルム様に私達の仕事を任せてしまう訳には━━━』


『許可するわ! むしろ命令です! 存分にミーニをサポートしてあげなさい! ヴィルくん、今日はよろしくね』


『えっ、ちょっ!? サティア様!?』


「あぁ、わかったよ」


ヴィルムの申し出に反射的に反断ろうとしたジェニーだったが、こと息子の事に関しては神速の反応速度を誇るサティアの命令により、本日の業務はミーニの付き添いに決定してしまったようだ。


余談だが、ヴィルムと丸一日一緒だと確定したサティアの御機嫌度は、過去最高潮に達したという。






* * * * * * * * * * * * * * *






そんな訳で、現状に至る。


なお、クーナリアがラディアと実戦形式の訓練をする流れになったのは、ヴィルムがサティアの護衛となった為、ラディアにクーナリアの事を頼んだ為である。


最初は師匠(ヴィルム)師匠(ラディア)に訓練してもらえる事に闘志を(たぎ)らせていたクーナリアだったが、ヴィルムとの戦闘訓練により相応の実力を身に付けていた事がラディアを刺激してしまったらしい。


いつの間にか実戦形式の打ち合いとなってしまい、体術と魔法を織り混ぜて変幻自在に戦うのラディアの戦闘スタイルについていく事が出来ずに防戦一方となってしまった。


結果、冒頭のジェニーとラディアの評価に繋がる。


そして、ジェニーがミーニに着いてきた理由だが━━━


『今、ミオちゃんの魔力がメルちゃんにバ~って感じだから、ヒュッてするともっと良くなるよ~』


「『・・・えっ?』」


『だから~、バ~じゃなくて、ヒュッて━━━』


ミーニは壊滅的に“教える事”が下手だった。


得た情報から考察、仮説を立てて実行する論理的なメルディナに対し、自分の直感と感覚だけで何とかしてしまう直感的なミーニの教え方では全く伝わらないのだ。


『あ~、メルディナ殿。ミーニは“ミゼリオの魔力を継続的に送っている状態だから、必要分を一気に送る形にした方がいい”と言いたいんだ』


ジェニーはミーニと同じ場所で同時に生まれた双子とも言える精霊である。


性格や能力に違いはあるものの、胸部を除いた容姿は正に瓜二つ。


その為か、互いが言いたい事は大体わかるという特殊な能力も兼ね備えていた。


これが、ジェニーがミーニに同行した最大の理由である。


『あと~、メルちゃんはパ~ッじゃなくて、ピーッてやるといいと思うよ~』


『“患部周囲の健康な部分にまで回復魔法がかかってるから、患部のみに集中すると良い”だそうだ』


「な、なるほど。わかりました」


メルディナと同じく論理的な思考を持つジェニーの説明はわかりやすかったようだ。


ジェニーによって翻訳された指摘箇所を修正していく事で、メルディナの訓練方針は定まったと言って良いだろう。


クーナリアの全身にあった傷が完治した頃には、メルディナの回復魔法の精度や治癒効果も少なからず高まっていた。


今後の目標が出来たメルディナとミゼリオは、その日からより一層修練に励むのであった。


尤も、その対象がクーナリアになる事がほとんどであった事は言うまでもない。

ちょっと短くなってしまいました。

今までクーナリアの強化ばかりの話だったので、そろそろメルディナやミゼリオにも強くなってもらいたく、その切欠となる話でした。

しかしサティア様はヴィルムスキーが強すぎるせいか動かしやすいですね~。



書籍版“忌み子と呼ばれた召喚士”は2019年3月9日発売予定です。

書籍版とweb書籍版で特別書き下ろしの内容に違いがあり、更にTOブックス様のオンラインストアで購入すると特典SSも付いてくるようですので、どうぞよろしくお願い致します。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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[一言] ヴィルムの申し出に反射的に反断ろうとしたジェニーだったが、こと息子の事に関しては神速の反応速度を誇るサティアの命令により、本日の業務はミーニの付き添いに決定してしまったようだ。 「反射的…
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