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【57】宴の開幕

結界を通り抜け、里に足を踏み入れたヴィルム達を待っていたのは精霊や妖精達の大歓声だった。


右腕をヒノリに、左腕をラディアにとられ、背中をフーミルに占領されているヴィルムに次々と話し掛ける彼女達。


『ヴィルムくんおかえり! 久しぶりだね~!』


『ちょっと見ない内に身長も伸びたんじゃない?』


『ヴィルム! オカエリ! オカエリ!』


『ヴィルムダ! ヴィルムダ!』


『森の外ってどうだった!? 怖くなかった!?』


遠慮なく群がる彼女達に、ヴィルムは嫌な顔ひとつせず、むしろ心底嬉しそうな笑顔を浮かべて一人一人に対応している。


その光景を目の当たりにしたメルディナ達三人は、呆気にとられたように口を開けたまま固まってしまっていた。


ヴィルムが里の精霊や妖精達に愛されている事は知っていた彼女達だったが、旅立った日以上の騒ぎっぷりに驚いてしまったのだろう。


さて、里の者達がヴィルムの帰還を喜び騒ぎ倒しているこの場面、少々おかしい事にお気付きだろうか。


そう、里の皆に例外なく愛されているヴィルムだが、その中でも特に彼を愛してやまない御方の姿がないのだ。


当然、愛する息子の帰還に()()が姿を見せない事などあるはずもなく━━━


“ずどどどどどどどどどどっ!!”


凄まじい地響きと━━━


『ミーニ! 何故目を離した!? こうなる事はわかっていただろう!?』


『そんな事言われても~! くしゃみが出ちゃったんだから仕方ないよ~!』


()()の側近たる二人の叫びと共に━━━


『ヴィィィィルゥゥゥゥくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!』


この里の女王、サティア=サーヴァンティルが、満面の笑みのまま、両手を大きく広げたまま、砂塵を巻き上げる速度もそのままに、ヴィルムに向かって一直線に突っ込んできた。


「あー・・・皆、少し離れてて」


瞬時に状況を判断したヴィルムは群がっていた者達を後ろに避難させて前に出ると、身体強化を身に纏った上で飛び込んでくるサティアを迎え入れる。


ベテランの盾役であっても吹き飛ばされてしまうであろう速度で抱き着いてきたサティアを受け止めたヴィルムは、双方にダメージが及ばないようその場で数回転しながら勢いを殺し、最終的にはお姫様抱っこする形で停止した。


『ヴィルくんだ! ヴィルくんよね!? 本物よね!? このまま抱き締めても消えたりしないわよね!?』


ヴィルムの存在を確かめるように、その身体の彼方此方を触りながら何度も問い掛けてくるサティアに笑顔で答えるヴィルム。


「ただいま、母さん」


『う・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁん! 寂じがっだよぉぉぉぉぉ! 会いだがっだよヴィルぐぅぅぅぅぅん!』


余程今までが寂しかったのか、ヴィルムの帰還が嬉しかったのか、はたまたその両方か・・・一瞬言葉を失ったサティアは、周りの目も気にせずに泣き出してしまった。






しばらくの間、ヴィルムから離れなかったサティアだったが、到着したジェニーとミーニが根気よく宥めたおかげでようやく落ち着きを取り戻した。


先のやりとりで乱れてしまったサティアの髪や服装を直す為に時間を置き、改めて女王の間に通されたヴィルム達は玉座に鎮座する彼女の前で膝をつく。


「ヴィルム=サーヴァンティル以下三名、ただいま帰還致しました」


『よく無事に戻ってきましたね。皆、壮健そうで何よりです』


いつも通り女王の顔となっているサティアだが、やはりすぐには元に戻らなかったのか、その目は若干赤い。


ヴィルムは気にしない(てい)で振る舞っているが、メルディナとクーナリアは顔を伏せて直接サティアの目を見ないようにしているようだ。


なお、ミゼリオとハイシェラは、フーミルや里の妖精達と戯れている真っ最中である。


『それではヴィルム殿、旅先であった事の報告をお願い致します』


「はっ! まず里を出てからですが━━━」


ジェニーに促されたヴィルムは、里を出てからこれまでにあった事を淡々と説明していく。


外界においての忌み子の扱い、その自分に理解を示してくれる者もいるという事、自身が冒険者になった事とその目的、冒険者としての地位を順調に築いている事・・・すでにヒノリやフーミルからある程度の事情は伝わっている為、簡潔に説明したにも拘わらずかなりの時間を費やしてしまった。


「━━━最後に人族の国、ヒュマニオン王国と個人的に友誼を結ぶ事に成功致しました。この友誼は後々有利に働く事と考えております。里の存在は明かしていませんので御安心下さい」


『御苦労様でした。一国との繋がりを持てた事は喜ばしいですね。それに冒険者として地位を確立し、周囲の国に魔霧の森を領地として認めさせる考えは良いと思われます。しかし強力な魔物が生息しているとはいえ、資源の豊富な魔霧の森をそう簡単に領地として認めるとは思いませんが・・・今後も貴方達の活躍に期待していますよ?』


「はっ! ありがたき御言葉を賜りまして恐縮にございます!」


サティアの懸念も尤もだろう。


事前にヒノリから聞いていた計画とはいえ、止めようとしないあたりサティアは賛成のようだ。


『外界の情報を仕入れる為に数人の精霊達が各地に出ています。それまでの間、しばらく足を休められては如何でしょうか?』


『本日は皆さんの帰還を祝って宴の準備をしてます~。たくさん楽しんで、旅の疲れを癒して下さいね~』


ジェニーとミーニの話によると、ヴィルム達の為に里にいる者達で森の幸で料理や菓子、飲み物なども用意したらしい。


『さぁ、難しい話はここまでにして、皆で楽しみましょ! 行くわよヴィルム!』


『サ、サティア様、まだ終わってませんよ!? 公私の区別はしっかりつけて下さいとアレほど━━━』


苦言を口にするジェニーだったが、すでにサティアの耳には届いていない。


彼女の頭は久しぶりに会う息子と食事やコミュニケーションをとる事でいっぱいなのだろう。


ヴィルムの手をとって外へと走り出すサティアの後をジェニー、ミーニが追い、突然の事で出遅れたメルディナとクーナリアがそれに続く。


サティアが足を止めた先に広がっていたのは、いくつも並べられた大きめの木製のテーブルに所狭しと並べられた料理の山と精霊や妖精達。


湯気と共に濃厚な香りを漂わせるスープに色鮮やかなサラダ、森に自生する香辛料を使って調理した肉汁溢れる魔物の肉、瑞々しい果物やそれを加工したフルーツ菓子やジュース。


とてもヴィルム達だけではとても食べきれる量ではないが、この里の精霊達においては食事をとる者が多いので問題はない。


本来であれば食事をとる必要のない精霊や妖精だが、幼いヴィルムの食事を用意している内に味覚に目覚めた者達が現れ始め、次第に食事をとる習慣が広まっていき、今では全く食べないのは生まれたての妖精くらいしかいない。


『皆、待たせてしまったわね。今日はヴィルくん達が帰って来た喜ばしい日よ。食べて、飲んで、歌って、騒いで、思う存分楽しんで頂戴ね』


広場に集まった全員に飲み物が行き渡たったのを確認したサティアは杯を掲げると、大きくはないが不思議と通る声で宴の挨拶を口にする。


サティアのすぐ隣にいたヴィルムが、挨拶の途切れたタイミングを狙って一言。


「母さん、外界だと、こういう時は“かんぱい”って言うらしいよ?」


その言葉に、メルディナやクーナリアは「あっ」と声を漏らして顔を見合わした後、ニッコリと微笑んだ。


『あら、そうなの? それじゃあ皆、ヴィルムに習って、かんぱーい!』


かんぱーい(乾杯)っ!”


その日の夜遅くまで、精霊の里から笑い声が消える事はなかった。

お酒が苦手です。

飲める事は飲めるのですが、すぐに顔が赤くなってしまうので基本的に飲まないようにしています。

故にいつもハンドルキーパー役にされる始末(´・ω・`)


書籍版“忌み子と呼ばれた召喚士”は2019年3月9日発売予定です。

特別書き下ろしも収録されておりますので、どうぞよろしくお願い致します。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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