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【54】帰郷の前に 〈中編〉

連日投稿六日目です。

とりあえず目標である31日まで連続投稿する事が出来ました。

冒険者ギルドの訓練所。


件の少年が気合い十分といった様子で身体を解しているのに対し、対戦相手であるクーナリアの表情は硬い。


負ければ弟子の座を譲り渡すという条件・・・自らヴィルム達との繋がりを放棄する要求を呑んでしまった事で自己嫌悪に陥っているようだ。


「お師様・・・」


「興奮してたとは言え、クーナリアが自分で呑んだ条件だろ? 今回の件に関して、俺は一切口出しするつもりはない。自分で決めた事なら、自分で責任を取れ」


「あ、う・・・」


不安そうな表情でヴィルムを見上げるクーナリアだったが、待っていたのは彼女が期待していた言葉ではなかった。


「おーい、そろそろいいだろ~? 早く()ろうぜ~」


得物である薙刀をビュンビュンと振り回し、余裕のある表情を浮かべる少年。


その動きから見ても、冒険者達を相手に連勝を重ねてきたのはマグレという訳ではなさそうだ。


「(大丈夫。勝てば、勝てば、今まで通り・・・)」


少年から急かされ、フラフラと訓練所の中央に進み出たクーナリアは自分に言い聞かせるように呟くが━━━、


(そうです。勝てば・・・でも、もし負けたら・・・?)


一度根付いた不安感は、そう簡単には拭い去れない。


直前にヴィルムからの突き放されるような発言も、それに拍車をかけていた。


そんなクーナリアの様子に不安を感じたのか、ヴィルムの側に寄ってきたメルディナがヴィルムの耳元で囁く。


「(ちょっとヴィル、本当にクーナを見捨てるつもりなの?)」


「(見捨てはしない。さっきもそうだったが、クーナリアは精神的に弱すぎる。嫌な事を指摘されて怒るのは仕方ないが、興奮すれば周囲が見えなくなるのは頂けない。怒りや興奮の中でもまともに思考出来る術は必要だ)」


「(良かった。なら、もしクーナが負けても大丈夫なのね。今のクーナ、明らかに普通じゃないもの)」


クーナリアを見捨てるつもりがないとわかり、メルディナの表情が安堵の息と共に柔らかくなる。


「(いや・・・) この程度であの子供に負けるようなら、弟子としては切り捨てる」


わざと周囲に聞こえるように答えたヴィルムに、訓練所にいる全員の視線が集中した。


特にクーナリアの反応は顕著であり、ビクッと身体を跳ねさせた後、カタカタと震え始める。


メルディナも「本気なの!?」と非難するように叫ぶが、当のヴィルムに全く反応がない事に本気を感じたのか、心配そうな視線をクーナリアの方へと移した。


「なぁ、いつまで待たせんだよ。もういいだろ?」


「は、はい?」


クーナリアが少年に視線を戻すと同時に、振り下ろされた薙刀が彼女を襲う。


どうやら少年は戦闘開始に同意を得たと解釈したらしい。


「えっ? くっ!?」


反射的に受け止める事が出来たのは、日々の訓練の賜物だろう。


鍔迫(つばぜ)()いとなり、動揺しつつも少年を押し返そうとするが、リスティアーネすらも押し返したクーナリアの膂力(りょりょく)を持ってしても彼を押し返す事が出来ない。


それどころか、リスティアーネよりも小さな体格の少年に力負けしているようにすら思える。


(な、何で・・・? 身体強化が、うまくいかないっ!?)


身体強化の不完全発動。


極端な集中力の低下により、体内の魔力循環経路にうまく魔力が流せず、中途半端な効果が現れた結果だった。


身体強化の効果としては普段の二~三割・・・恐らくは一般の冒険者達が使う身体強化より少し上、といった所か。


本来の力が出せないクーナリアは、徐々に押し込まれていく。


「(こ、このままじゃ・・・) くっ!」


ジリ貧と感じたクーナリアはわざと力を抜き、身体を右斜め後方に退く事で辛うじて鍔迫り合いから脱出した。


その勢いのまま飛びすさり、距離をとるクーナリアだったが、態勢を崩し、絶好の機会にも関わらず、少年の追撃がない事に疑問を覚える。


少年は、深々と溜め息を吐いていた。


「はぁ・・・なぁんだ。ヴィルムさんの弟子って言うから警戒してたのに、全然大した事ないじゃん。そりゃ、さっきまでのおっちゃん達よりは強いけどさぁ」


「ッ!?」


「その体格でオレと張り合えるだけの力があるのと、柔軟な体捌きは良かったけどね。ま、お前でそれくらい強くなれるなら、オレだったらもっと強くなれるだろうし、大人しく降参して弟子の座を譲れよ。な? オレは女の子をいたぶって楽しむ趣味はねーんだ」


最早格付けは済んだとばかりに降参を促す少年。


(そう、なのかな。確かにこの子、強いもんね。お師様も、この子を鍛えた方が楽しいのかもしれないなぁ・・・)


クーナリアは構えこそ崩していないものの、度重なる自己嫌悪と少年の言葉、何より師であるヴィルムの突き放すような言葉に、心が折れかけていた。


━━━ お前にその気があるならだが、身体強化と戦闘の基本くらいは教えてやれるぞ? ━━━


ふと、諦めかけていたクーナリアの頭に身体を鍛え始めた切っ掛けの一言が脳裏を掠める。


そう、()()()()()()()()()


あの時、確かに自分の師はそう言ったのだ。


「・・・イヤ、です」


震える両手足に強く力を込め、身体の震えを無理矢理止める。


「ちっ、めんどくせーな。怪我しても知らねーからな!」


横薙ぎ、振り下ろし、逆袈裟、突き・・・変幻自在に繰り出される少年の斬撃に、クーナリアは防戦一方だ。


しかし、僅かに服の裾や皮膚を斬り裂かれながらも、怒濤の攻めを全て回避していく。


━━━ 俺に一撃入れるまでは逃がさないから、覚悟は決めておけよ? ━━━


それは身体を鍛え始める前、不安に駆られていた自分に送られた師の言葉。


(まずは、集中。毎日繰り返してきて、もう身体が覚えてるなんて思い込んでた、魔力の循環経路を、もう一度、明確に認識するです)


頭の先から四肢の先まで、満遍なく魔力を浸透させ、それらがゆっくりと身体を巡っていくイメージ。


自身の魔力が浸透していくにつれ、少年の動きが遅くなっているように感じ始める。


「いきなりスピードが上がった!?」


少年が慌てふためいた表情で何かを口走っているが、今のクーナリアは気にも止めない。


━━━ よし、良い眼だ ━━━


それは山賊達の討伐を任された時、心的障害(トラウマ)に怯える心を奮い立たせて決意した際に、自分を真っ直ぐ見据えて言ってくれた言葉。


(次は、相手の動きに集中。僅かな予備動作も見落とさない。その動きに合わせて、身体を動かす)


「そこだぁっ!」


姿勢を低く、クーナリアの側面に潜り込んだ少年が、その位置から掬い上げるような斬撃を背面へと放つが━━━、


「うっ!?」


いつの間にか、後ろ手に持ち変えていた大斧で容易く防がれてしまう。


━━━ わかった。任せるぞ ━━━


それはヒュマニオン王国のクーデターの時、道を塞ぐリスティアーネの相手を師から託された・・・初めて自分を認めてくれた言葉。


(あの時程、嬉しい事はなかった。いつも弱くて誰かに守られてた私が、誰かの為に戦えるようになった気がして。少しだけ、調子に乗ってたのかもしれない)


振り下ろされた薙刀を正面から受けとめ、力任せに弾き返す。


「ぐっ! さっきまでとは全然違う! 一体どうなってんだ!?」


完全に攻守が入れ替わり少年は回避に徹するが、その全てが凶撃と言っても過言ではない斬撃の嵐の前に、段々不利な態勢へと追い詰められていった。


「し、しまっ・・・!?」


真横に払われた攻撃を回避した際、無理な態勢から跳んで避けてしまった為、バランスを崩して転んでしまう少年。


追撃とばかりに振り抜かれる大斧を回避する術はなく、仕方なしに薙刀で受け止める。


十全に発揮されたクーナリアの膂力をまともに受け止めた少年の身体は軽々と吹き飛び、訓練所の壁に叩き付けられる事となった。


力なく崩れ落ちる少年を見据え、大斧で地面を突いたクーナリアは、彼に向かって大きく宣言する。


「私はまだ弱いです! 私はもっと強くなって、お師様の隣に立ちたいんです! お師様の弟子として、こんな所で負ける訳にはいかないんです!」


クーナリアの本心・・・魂の叫びが訓練所に木霊した。

先日、閲覧者数が久しぶりに一万を越えました。

やはり連日投稿だと読んで頂きやすいのですかね。

今年は書籍化に関する打ち合わせや書籍用の改稿作業等、初めての経験ばかりで混乱しながらも楽しく思える事が多くありました。

来年三月には作者初の書籍が発売するという事もあり、大変楽しみにしております。


来年も“忌み子と呼ばれた召喚士”をよろしくお願い致します。

それでは皆様、良いお年を。

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