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【53】帰郷の前に 〈前編〉

連日投稿五日目。

この話が完成したのが17:30でした。

今から明日分の執筆にかかりますが、明日の更新に間に合うかは不明です(汗)

ハイシェラがフーミルの眷族となってから数日後。


ようやく精霊の里に帰る目処が立ち、旅立つ前にシャザールへ一言入れておこうと冒険者ギルドに入ったヴィルム達は、いつものようにセリカのいる受付カウンターへと足を運ぶ。


その際、訓練所の方から戦闘音と応援なのか野次なのかよくわからない歓声が聞こえてきた。


「今日は随分と賑やかだな」


「「セリカさん、こんにちは」」


「あ、皆さんこんにちは。実は━━━」


挨拶を交わし、セリカが事情を説明しようと口を開いた直後、ヴィルム達の後方から一際大きい歓声があがった。


「おおっ! また勝ったぞ!?」


「おいおい、今何人抜きだよ?」


「二十人かそこらじゃねぇか?」


「子供の癖にやりやがるぜ」


彼らの話を総合すると、どうやら試合をしているらしく、やたらと強い子供が冒険者達を相手に連勝を重ねているようだ。


ふと、最後尾にいた男が振り向き、 ヴィルム達と目が会う。


「あ・・・おーい! ヴィルム達がきたぞー!」


「何!? マジだ!」


「ヴィルムさん、メルディナちゃんにクーナリアちゃんも! こっちこっち!」


騒いでいた冒険者達も一斉に振り返り、ヴィルム達を見て興奮したように再び騒ぎ始めた。


突然の事に訳がわからず、頭の上に疑問符を浮かべながらも訓練所の方に歩を進める三人。


「アンタが、ヒュマニオン王国のクーデターをほぼ一人で鎮圧したって噂のヴィルムさん?」


冒険者達を掻き分けて現れたのは、一人の少年だった。


身長はクーナリアよりは高く、メルディナよりは低いくらいだろうか。


病的なまでに青白い肌、無造作に切り揃えられた青紫色のくせっ毛、エルフ族に近い形状の耳、そしてサファイアブルーの瞳はパッチリとしている。


おそらくは魔物の素材であろうスケイルアーマーに身を包み、背中には自身の背丈を超える薙刀のような武器。


装備品から推測するに、彼の戦闘スタイルは、バランスのとれた近~中距離型という所だろう。


「あぁ、そうだが。俺に何か用か?」


近付いてきた少年はヴィルムの前で立ち止まると、背負っていた薙刀を素早く握って斬り掛かった。


ヴィルムは、鋭く降り下ろされる薙刀の柄の部分に手の甲を当てて受け流すと同時に少年の隣に身体を滑り込ませ、その腹部を目掛けて膝蹴りを入れる。


「かっはっ・・・!?」


片手で腹を庇う少年は、薙刀を杖代わりに辛うじて立っているのがやっとの状態だ。


しかしその程度で終わらせるヴィルムではなく、息が出来ずに苦しむ少年を足払いで転倒させ、膝蹴りを見舞った箇所を踏む形で抑え込む。


「いきなり御挨拶だな。殺気はなかったが・・・一体何の真似だ?」


「げほっ! ごほっ! う、噂は、間違いじゃ、なかったんだ・・・少なくとも、今のオレ、より、明らかに、強い・・・」


完全に無力化され、苦し気に咳き込む少年。


「ヴィル。相手は子供よ? その辺りで許してあげて」


「お師様、それ以上はダメですよ?」


決着がついたと判断したメルディナとクーナリアは、これ以上の追撃をさせない為にヴィルムを止めに入る。


「あー、やっぱりヴィルムの方が強いか」


「あいつも相当強かったけど、それをあっさりだもんな」


「格が違うってヤツ?」


同業者達を相手に勝ち続け、不意打ちで斬り掛かった少年を事も無げにあしらったヴィルムに、周囲の冒険者達は勝手に盛り上がっているようだ。


二人に促され、仕方がないとばかりに足を退けたヴィルムは、警戒を解かずに少年を見据えている。


「もう一度聞くぞ。一体何の真似だ?」


声色が一段階低くなったヴィルムの問いに、少年は薙刀を地面に置くと、勢いよく頭を下げた。


「頼む! オレを弟子にしてくれ! どうしても強くなりたいんだ!」


「あん?」


「え?」


「へ?」


「アンタに斬り掛かったのはこの通り謝る。噂が本当かどうか、実際に試してみたかったんだ。アンタの実力は本物だ。頼む! オレを鍛えてくれ!」


状況が理解出来ないとばかりに三人は首を傾げるが、当の本人は大真面目らしく懇願の姿勢を崩さない。


どうやら少年の覚悟は本物らしく、頭を下げたまま微動だにしない。


(やっと里に帰れると思ったらこれか。面倒臭くて仕方ねぇ)


「はぁ・・・断る。お前にも事情があるのはわかるが、それは俺も同じだ。お前を鍛えてやる暇はねぇ」


「そこを何とか!」


「くどい。生憎と、弟子なら間に合ってる」


きっぱりと断るヴィルムだったが、少年は頭を上げて引き下がる様子はない。


再度、きっぱりと断ったヴィルムがよく見えるようクーナリアの頭に軽く手を乗せ、その存在をアピールすると、少年は目を細めて怪訝そうな顔付きとなった。


「そ、その子がヴィルムさんの弟子・・・? オレよりチビじゃないか! その子が良くて、何でオレは駄目なんだよ!」


「むかっ。ちょっと、初対面の人に対して失礼じゃないですか?」


普段は大人しく、他人の悪口などほとんど言わないクーナリアが、珍しく苛立ちと不快感を露にする。


コンプレックスである低身長をストレートに指摘され、流石に腹に据えかねたようだ。


「確かに身長は私の方が低いですけど、貴方だってそんなに変わらないじゃないですか!」


「クーナ、相手は子供よ? 少し落ち着いて」


「全然違うね! それにオレは十三歳だ。もう子供じゃない!」


「私より年下じゃないですかー!」


端から見れば子供同士の口喧嘩だ。


メルディナが落ち着かせようと後ろから止めに入るが、興奮したクーナリアはすでに周りが見えていないらしく、少年との言い争いに躍起になっている。


「そんなに言うならオレと勝負しろ! オレが勝ったら弟子の座を明け渡せよ!」


「上等です! 私が勝ったら大人しく諦めて下さいね!」


売り言葉に買い言葉というヤツであろう。


クーナリア自身、今自分が承諾した条件がどんなものであるか、正しく理解していないようだ。


その様子にヴィルムは深々と溜め息を吐き、メルディナは片手で目を覆って天を仰いでいる。


「ヴィルムさん、今の聞いたよね? オレが勝ったら、コイツの代わりに弟子にしてくれよ!」


「俺は承諾してないんだが・・・まぁ、勝てたら考えてやるよ」


「ちょっと! ヴィルまで何言ってるのよ!?」


ヴィルムが肯定気味の言葉を口にしたのが予想外だったのか、クーナリアを止めようとしていたメルディナが慌てて振り向く。


「相手の挑発に乗って勝負を受けたのはクーナリアだ。その責任は、自分で取らないとな」


「でも・・・だからってそれは・・・」


「決まりだな。悪いけど手加減はしないぜ。オレは絶対にヴィルムさんの弟子になるんだからな!」


尤もな指摘に弱腰になりながらも条件を撤回させようとするメルディナだったが、少年はこの機会を逃さないとばかりに話を進め、訓練所の方へと向かって歩き出した。


「こっちだって手加減しませんから、覚悟して下さいね!」


未だに興奮の冷めないクーナリアが足音荒く少年に続き、ヴィルムやメルディナ、周囲の冒険者達も移動する事となった。


試合前、落ち着いたクーナリアが自身の発言に青ざめる事となるのは、もう少し後の話。

肉体的には成長したクーナリアですが、精神的にはまだまだですね。

クーナリアの弱点を描写出来たのでちょっと満足してます。

メルディナは気苦労が絶えなさそうな感じで少し可哀想かも・・・。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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