【52】休暇の過ごし方 ~竜狼相搏つ?〈後編〉~
連日投稿四日目です。
ストックが切れてるので毎日必死で執筆しています(笑)
明日か明後日までは頑張りたいなぁ(´・ω・`)
「スタートッ!」
ヴィルムの合図を皮切りに、ハイシェラが翼を広げて夜空へと飛び立ち、フーミルが爆風を巻き上げながら森の中へと突っ込んでいく。
両者の進行ルートが異なる為にわかりづらいが、まず先行したのはフーミルだ。
ハイシェラは障害物のない空を進めるとは言え、ある程度の高さまで上昇し、そこから加速するまでのタイムラグが生じた結果だろう。
生い茂る木々や岩を足場にグングン加速していくフーミルは、まさに風そのもの。
自身の背丈の何十倍もある崖を苦もなく駆け登り、降りる際には空を蹴りながら疾風の如く突き進んでいった。
一方、スタート直後から差をつけられたハイシェラだったが、焦りは見られない。
ある程度の高さに達した後、滑空しながら飛行速度を飛躍的に増していく。
当然、障害物となるものは何もない為、徐々にその差は縮まっていった。
『クルァァァン!』
三周目に入ったあたりでハイシェラがフーミルを抜き去り、興奮したように咆哮をあげる。
『む、なかなか、やる』
進路上にいた中型の魔物を撥ね飛ばし、減速する事なく爆走を続けるフーミルが感心したように呟く。
ハンデがあるとは言え、精霊の里においては最速のスピードを誇る自分と張り合うハイシェラの実力を認めての事だろう。
フーミルを抜き去った後もハイシェラに油断は見られず、それどころか気力に満ち溢れた様子で更に飛行速度があがったようにすら思える。
両者の距離に半周以上の差がつき、そろそろ七周目も終わろうという時、フーミルに変化が現れた。
常に眠たげだった眼が見開かれ、純白の髪の毛や身体を覆う体毛が逆立ち、口元からは鋭い四本の犬歯が顔を覗かせ、手足の爪が刀剣のように夜月の光を反射し、鈍い輝きを放つ。
『そろそろ、本気出す。ハイシェラの実力、よくわかった。次は、フーの実力、見せる』
『クルァッ!?』
ただならぬ気配を感じ取ったハイシェラは思わず後ろを振り返るが、すぐに前を向いて全力を持って加速を始めた。
最早、体力配分を考えている余裕はないと判断したのだろう。
先程までより三割増しのスピードで飛行するハイシェラだったが━━━
『速い、ね』
その声は、ハイシェラのすぐ後ろで聞こえた。
『フーが本気出すの、これが二回目。だから、ハイシェラ、誇っていい』
驚愕に目を見開くハイシェラが見たものは、持てる力の全てを使って飛行する自分をあっさりと抜き去り、一瞬にして遠ざかっていくフーミルの姿だった。
徐々に高度を落としている所を見ると、長時間空中を駆ける事が出来ないと言うのは本当なのだろう。
圧倒的すぎる実力差。
しかしハイシェラの瞳に驚きや悔しさこそあれど、諦めの文字が宿る事は最後までなかった。
それは主人に自らの醜態を晒したくないからか、はたまた単なる意地なのか・・・。
結果だけを見ればフーミルの圧勝に終わったこの勝負だったが、精霊獣である彼女に本気を出させたハイシェラの実力もまた、相当なものなのだろう。
* * * * * * * * * * * * * * *
「ハイシェラ、よく頑張ったな」
『クルルルル・・・』
文字通り全力を出し切り、五体投地で息切れを起こしているハイシェラを、優しく撫でながら魔力を送り込むヴィルム。
『おかしい。フーが勝ったはずなのに、ハイシェラが撫でられてる』
その様子を納得がいかない表情で眺めているフーは、すでに普段の状態へと戻っている。
「フーが認めたんだ。少しくらい労ってやってもいいだろ?」
『ん。ハイシェラ、速かった。最後まで、諦めなかったのも、評価する。でも、それとこれとは別。フーも、ヴィー兄様に、撫でて欲しい』
「勿論だ。ほら、おいで」
『ん!』
方膝をついているヴィルムの腰元に飛び込んだフーミルは、頭を撫でられながらその脇腹に顔を埋める。
そのまま幸せそうに匂いを嗅ぎ続ける彼女を見たハイシェラもそれに倣い、ピスピスと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。
『クルゥ!』
『そう。ハイシェラ、わかってる。ヴィー兄様の匂いこそ、至高』
「何言ってんだか・・・」
フーミルにはハイシェラの言葉がわかっているらしく、相槌を打ちながらしきりに頷いている。
それに対して呆れの言葉を口にしたヴィルムだったが、その言葉とは裏腹に、その表情は穏やかで、彼女達を撫でる手付きも柔らかいものだった。
しばらく撫でられた後、ようやく満足したらしいフーミルがゆっくりと離れ、ハイシェラの側へと歩み寄る。
ハイシェラの方もすっかり回復したようで、近付いてくるフーミルを見下ろさないように頭を低くして彼女の言葉を待っているようだ。
『ハイシェラの実力、認めた。今から、フーの眷族にする』
『クルァ』
『ん。いい返事。でも、ひとつだけ、聞かせて』
ハイシェラを覗き込むように顔を近付けたフーミル表情が、一瞬にして張り詰めたモノへと変わり、上から叩き付けられるような大きな威圧感がその場を支配する。
まるで、答えを違えたと同時に命を奪われ兼ねないと感じさせられる殺気と共に。
『ハイシェラの主人は、誰?』
その問いに、これから眷族となる者は何と答えるだろうか。
ましてや自分を遥かに上回る実力者からの威圧と殺気を向けられている状況である。
十人が十人、彼女の名を口にする事だろう。
『ク、クルァ! クルル! クルァァァン!』
しかしハイシェラは、フーミルの威圧と殺気によって強張る身体を動かしづらそうにしながらも、迷わずヴィルムの方を向いて咆哮をあげた。
その瞬間、場を支配していた威圧感と殺気は霧散し、夜間という事で少し肌寒かったはずの空気に暖かなそよ風が吹き込んでくる。
『そう。それで、いい』
フーミルの表情も柔らかく綻び、いつもの眠たげな顔にも関わらず、その口元は微笑んでいるように見えた。
『ハイシェラの忠誠心、わかった。これなら、大丈夫』
彼女がハイシェラの首筋に触れると同時に、吹き込んできた暖かな風がその身体を包み込む。
優しい風に包まれたハイシェラの身体は、深夜であるにも関わらず淡い光を放ち、ゆっくりと小さく、小さく変化し始めた。
その光が収まった時、巨大な飛竜の姿はなく、周囲に広がるのは夜の闇と静寂のみ。
『これで、ハイシェラはフーの眷族。だから、フー達の家族。これから、よろしく、ね?』
しかしよく見れば、フーミルの両手の上にはちょこんと座り込んでいるミニチュアサイズのハイシェラの姿が。
『よろ、しく。フー、さま。よろ、しく。ヌシ、さま』
驚いた事に、たどたどしいながらも人の言葉を話し始めるハイシェラ。
元より人の言葉を理解している様子ではあったが、このタイミングで話し始めた以上、眷族化の影響である事は間違いないだろう。
「あぁ、よろしくな。ハイシェラ」
そう言いながら、小さくなったハイシェラの首回りを指で擽るヴィルムの表情は、里の妖精達に向けるような優しいモノだった。
小さな身体を目一杯使ってヴィルムに擦り寄るハイシェラ。
『小さな身体、大きなヴィー兄様・・・。なるほど、そういうのも、あるのか』
その姿を少し驚いたように、そして羨ましそうに眺めるフーミルだった。
フーミル対ハイシェラ戦、決着です。
おそらく大方の予想を裏切らない結果になったのではないでしょうか。
ヴィルムにとっても新しい家族が出来たのは喜ばしい事でしょう。
お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。




