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【05】襲撃作戦・前編

第五話いきますよー!

まだ朝霧の晴れない早朝、先の集団は魔霧の森を進んでいた。


たっぷり休息をとった為か彼らに疲れは見えず、むしろこの仕事を終えれば大金が手に入るという事でやる気が(みなぎ)っている。


エルフと牛人族の少女も馬車に押し込められているようで、進む速度に影響はなさそうだ。


その様子を生い茂る木々に身を隠し、その隙間から伺うのは、黒目黒髪の青年、ヴィルム。


(傭兵が十ニ人、馬車に押し込まれているのが二人、この集団のリーダーっぽいのは・・・あいつか。ちょっと人数が多いな。一人にでも逃げられると厄介だけど、それ以上に襲撃を仕掛けるタイミングが難しい。こいつらが今まで通っていたのは、比較的森の浅いエリアを通って深部を迂回するルートだ。このルート上で襲撃すれば外界の連中に感づかれる可能性が高い。おまけにエルフと契約しているあの精霊。焦りで魔力が乱れてやがる。あの様子じゃ里の存在に気付いてるな。となればさっさと深部まで誘き寄せるのが一番だが・・・)


ヴィルムの頭に浮かんだのは、正直、ヴィルム自身も気が進まない作戦。


ただ襲撃して全滅させるだけであれば、今この場でも簡単に出来るだろう。


だが、外界の者に気付かれない様にとなると、その難易度は格段に跳ね上がる。


冒険者達の中には観察眼に優れ、僅かな痕跡ですら見つける者がいる事をヴィルムは知っていた。


こんな森の浅い部分で襲撃を行えば「見つけて下さい」と言ってる様なモノである。


更に言えば、今回は別の作戦を考える時間も少ない。


この集団はこの森を安全に、かつ早く抜ける事を目的としている。


それ相応の理由がなければ、彼らがわざわざ深部へ向かう事はないだろう。


(まぁ金に汚そうな連中だし、間違いなく食いついて来るとは思うけど。失敗した時はその場で殺るしかない、か。あー、里の存在を漏らさない為とは言え、気が進まないな)


考え付いた作戦の内容に顔を(しか)めるヴィルムは、溜息を吐きながらも作戦決行に最適な場所へと先回りするのであった。






* * * * * * * * * * * * * * * *






魔霧の森に入って数時間経つが、何の問題もなく順調に進んでいる事に商人風の男は機嫌を良くしていた。


時折、魔霧の森特有の強力な魔物も出現したが、それなりに実力があり、数も多い傭兵達に目立った被害もなく打ち取られていた。


この森さえ抜ければ、もう障害になる様な関もない。


奴隷自体は合法だが、今回に限らず、彼らは違法とされる奴隷狩りをして奴隷を仕入れていた。


必要な元手は今雇っている襲撃役兼護衛役である彼らへの若干割高な報酬と、移動の間奴隷達に与える食料費だけなので、合法的に奴隷を取り扱う者達に比べれば莫大な利益を上げている。


それだけでも危険な橋を渡る価値はあったが、今回はエルフを奴隷にする事が出来た。


魔力が高く、身の軽いエルフを捕らえるのは容易ではないが、エルフの少女は何故か出来損ないの牛人族の少女を守りながら戦った結果、捕まってしまったのである。


エルフの奴隷は希少なだけに高値で売れる。


そんな事を考えていた男の耳に、不自然な葉擦れの音が飛び込んできた。


「全員、迎撃態勢!」


昨晩、報酬の上乗せを頼んでいた男が傭兵達に命令を出す。


瞬時に馬車や商人風の男を守るように陣形を組む傭兵達。


「あぁ、いや、こちらに敵対の意思はありません」


周囲に生える草を掻き分け、両手を上げながら出てきたのは、黒目黒髪の青年だった。


「忌み子・・・だと?」


「おいおい、忌み子がここまで成長出来る訳ねぇだろ。染めてんだよ。前にも居ただろ?威嚇する為に髪染めてたザコい冒険者」


「あぁ、あいつか。最初はビビったけど()ってみたら数秒で剣弾き飛ばされて逃げ出しやがってたよな」


「あれはケッサクだったぜ」


ヴィルムを侮った様に見る護衛達だが、戦闘態勢は崩していない。


ヴィルムの方も両手は下げず、敵意がない事を示している。


「忌み子だろうがそうでなかろうがどうでもいい。何故、俺達に声をかけた?魔霧の森を進む集団(おれたち)なんざ怪しすぎるだろう。証拠隠滅の為に殺されるとは思わなかったのか?悪いが、見逃してやるつもりはないぞ?」


商人風の男が厳しくヴィルムを見据える。


「いえ、ただ、同じ匂いのする貴方達に依頼をしたい事がありまして、ね。懐に手を入れても?」


「依頼、ね。ちょっと待て。エーギル、メルビン、フォクシィ、そいつを取り囲め。妙な動きをしたら、殺していい」


命令通りにヴィルムに槍を突き付けて取り囲む三人。


「よし、いいぞ。聞こえたとは思うが、妙な事をすれば即殺す。その依頼とやらが気に入らなくても殺す」


「わかりました。では・・・」


ごそごそと懐に手を突っ込み、取り出した袋をゆっくりとした動作で足元に置く。


その袋口からは眩い光を放つ金貨や色とりどりの宝石が見え隠れしていた。


傭兵達に動揺が走る。


「検分しやすい様に少し下がります。よろしいですか?」


「あ、あぁ、わかった。三人はそのままそいつを警戒しろ。ディオス、袋の中身を確かめろ」


命令された傭兵は唾を飲み込みながら近寄り、恐る恐るといった様子で袋の中身を検分し始める。


「・・・あ、怪しい物は入ってません。す、全て本物の、金貨と、ほ、宝石です」


流石の商人風の男も唖然とした表情を隠せない。


袋の大きさから見て、少なく見積もってもエルフの少女を奴隷として売って出る利益の四割以上はするであろう金貨や宝石が詰められているのだ。


「い、依頼とは何だ?話だけは、き、聞いてやってもいいぞ。お、お前ら、槍を引け」


出来るだけ態度を崩さない様にしているが、動揺が大きすぎたせいで(ども)ってしまう。


両手をゆっくりと下げたヴィルムは、槍を突き付けられた事も意に介さず話し始める。


「ありがとうございます。私の名前はヴィルム。召喚士として冒険者をしている者です。・・・失礼ですが、お名前を伺っても?」


「あ、あぁ。俺は奴隷商人をしているレイドと言う。こいつらは俺の専属護衛として雇っている傭兵達だ」


「では、レイドさん、と呼ばせて頂きます。それで、依頼したい件なのですが・・・」


ヴィルムはレイドにニヤリと笑いかける。


「精霊に、興味はありませんか?」


「へ、は?せ、精霊?」


「えぇ、我々召喚士や精霊魔術師が使役する、あの精霊です。今回、私がこの森に単独で入ったのは、上位精霊が住む集落があるとの情報を入手したからなのですよ」


その言葉を聞いた途端、レイドの顔が真剣になる。


「興味がお有りの様ですね。私はどうしても複数の上位精霊と契約したいのですが、その精霊達と契約するのに周囲の魔物が邪魔なのです。契約の間は無防備ですからね。貴方達に依頼したいのは、私がその精霊と契約するまでの護衛です。そして、私が契約さえしてしまえば・・・」


ヴィルムは更に悪い笑みを深める。


「その里の正確な位置を、貴方達がどうしようが一切関与しません」


レイドに大きな衝撃が走る。


精霊は姿を現す事が稀であり、召喚士や精霊魔術師達が喉から手が出る程欲しがる種族だ。


彼らは、契約した精霊の質や数がステータスであり、上位精霊と契約出来ればそれだけでAランク並の実力と認められる程の強さを手に入れる事が出来る。


上位精霊が住む集落の正確な位置情報であれば、どれだけの値がつくかもわからない。


「なるほどな。それで依頼料としてこの額か。ヴィルム、さんにとっては是が非でも成し遂げたい訳だ。ただわからないのは、何故、冒険者(どうぎょうしゃ)に依頼しないのかって事なんだが?そっちの方が依頼料も安く済むだろうに」


「えぇ、最初はそうしようと思ったのですが・・・。Aランクパーティの〈遺志無き魔剣〉をご存知ですか?先日、彼らからの連絡が途絶えたって噂がありましてね。他の冒険者(どうぎょうしゃ)達が怖気づいてしまって、誰も引き受けてくれなかったんですよ。仕方なく一人で目的の場所まで行ってみたのですが、安全に契約出来そうにないので、引き返してきた所で貴方達を見つけたという訳です」


「Aランクパーティが全滅したかもしれないこの森を()()()か?」


レイドの眼付きが鋭くなる。


当然の反応だろう。


Aランクパーティですら全滅したかもしれない所に、一人で探索に入る冒険者はまずいない。


先程の動揺から立ち直ったのか、冷静に会話を分析しているようだ。


「疑うのも当然ですね。この森はとても危険ですから。ただ、私には心強い味方がいますからね。このレベルの魔物程度であれば、一人で十分なのですよ。よろしければ、この場で召喚(しょうめい)してみせましょうか?」


「・・・いいだろう。見せてくれ」


レイドは鋭い視線を崩さないまま、ヴィルムに先を促す。


ヴィルムは少し芝居がかった風に咳払いをし、「では・・・」と魔力を集中し始める。


━━━(おう)たる魂を持つ者よ━━━


その透き通った声は、周囲に響き渡る。


━━━我、求むは汝が存在(ちから)━━━


ヴィルムの身体を、鮮やかな黄色い魔力のオーラが包み込む。


━━━我が魂に寄り添いて━━━


ゆっくりだが不規則に、だが幻想的に動くオーラに、護衛達も目を奪われている。


━━━仇なす者を土塊に帰せ━━━


そしてヴィルムは、大地を司る彼女の名を喚んだ。


降臨(アドヴェント)黃蛇姫(おうじゃき)ゼミアムガルナ〉」


突如、ヴィルムを包み込む黄色のオーラは急激に収束し、人型を形成し始める。


褐色の肌と束ね上げられたクリーム色に近い金髪。


術者であるヴィルムよりも長身で、スレンダーな身体つき。


胸や股間部を覆う鱗は、一糸纏わぬそれよりも男の情欲を唆る妖艶な雰囲気を増長している。


「お、おぉ・・・」


「こ、これが、精霊、か」


事実、護衛集団の多くは、その美貌と妖艶な雰囲気に心奪われた様に頬を赤く染めていた。


・・・ちょっと前屈みになってる者もいるようだが。


そんなレイド達を見て、自信に溢れた笑みを浮かべるヴィルム。


「彼女が私のパートナー。大地を司る精霊。名を、ラディアと言います」

※補足:ヴィルムが大金を持っているのは、今までの侵入者を倒した際に回収していた物です。


後編へ続く!

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